森今/薔薇/両片思い


 愛の形とは千差万別、人それぞれであるという。それは薔薇を贈る意味の多さにも表れているだろう。
 薔薇を見に行こうと誘えば、今吉はそれなら丁度いい場所があると教えてくれた。その場所は東京の郊外、個人の庭だが大きなところで、今吉のそう遠くない親戚が所有しているものらしかった。
 一般には解放されておらず、友人や知人など顔の分かる範囲の人間とそれが招待した人物、そして庭師しか入れないというそこは今まで見た庭園の中で一番美しいと感じた。まだ高校生の身だが、花園に関しては様々なところを下見してきたので自信を持って言える。でもここを見て思う。女の子は花が好きだというけれど、男だってこんなに楽しめるのだと。
 様々な花の解説をしてくれる今吉は楽しそうで、花が好きなのかと問えば曖昧に笑う。そうでないのなら何故かと問おうとして、やめた。きっとやぶへびというものだろう。理由がどうであれ、今吉が楽しそうならそれでよかった。
 様々な花が咲き乱れる区域から薔薇のある区域になれば、その彩りに驚く。赤に白に、黄色に紫。オレンジやピンクもあって、中には二色がグラデーションになっているものもある。この庭園のメインはここなのだと教えてくれた今吉に納得した。ここにある薔薇の美しさは格別で、庭園の主は薔薇という花によほど思い入れがあるのだろうと感じられた。
 しばらく今吉の案内の元に歩き回ると、休憩をしようとなって白いパラソルの下のガーデンチェアに座った。そこで持ち運んでいたペットボトルの麦茶を飲む。今吉は緑茶で、二人して渋いななんて笑った。
 青空と薔薇がよく見えるこの場所で庭園を見回して、それにしてもと思う。薔薇を見ないかと誘ったのはこっちだが、案内も何もかも今吉がリードしていて少し不満だ。もっとスマートに動けたらと考えれば、今吉の白い指先が近くにあって、額をつつかれた。そろそろ行こうと立ち上がった今吉に、悔しくなって彼の手を掴む。目を開いた今吉に、こうなりゃ勢いだと頭の隅で考えて口を動かす。
「薔薇をキミに。」
 わけの分からない言葉だろうとそれで良かった。今吉にだけ薔薇を見に行こうと誘った下心なんて、今吉ならば分かりきっているのだろう。そうだろう。これは期待ではなく、事実だ。
 だから降り注ぐ日差しとパラソルの影の境界の下、一拍置いて困ったように笑った今吉に俺は目を見開いた。
「森山ってなんでこう、残念なん。」
「えっ、今それ言う? そういう空気だったっけ?」
「察せやってこと。」
 それはつまり。

「ちょっと範囲が広くてわかんない。」
「多分、森山は無駄な知識が多すぎるんやで……。」



2015.5.4 5番今の日おめでとうございます。

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