笠今/シネラリア/未来捏造/同居


 それは縁起が悪いからと言われていた。
 おまじないというものが世の中には溢れている。おまじないとはお呪いであり、呪いだ。別にそれが実在するとか使いたいだとか、そういう話がしたいわけではない。唯、もし目の前のお前が倒れたら、きっとそれはお呪いの仕業だろうと思ったのだ。
「それは信頼されとるん?貶されとるん?」
「分かってんだろ。」
「両方なんか!お前の認識どうなっとるん。ワシは普通の人間やからな!」
「知ってるっつうの。」
「言わなアカン気がしたんや。」
「だろうな。」
 はいと渡された珈琲カップには真っ白なホットミルク。お前の珈琲カップには琥珀色を帯びた白いホットミルク。俺のものは砂糖が溶かしてあって、お前のものには蜂蜜が溶かしてあるのだ。春の夜は寒く、日が沈めば温かい飲み物が恋しくなる。
「お呪い、なあ。強い気持ちは何かを動かすのかもしれへんな。」
「へえ。珍しいな。」
「あー、ちゃうちゃう。有る無しやなくて、ホラ、キセキの世代のゾーンとか。」
「それは言わない方が良いだろ。」
「ほんっまに特別やしなあ。」
 彼らと同じ高みにいない限り手にすることすら出来ないモノ。触れられることすら、出来やしない。それに焦がれたのは俺もお前も同じだった。
「いっそ生まれ変われたら、そんなことも出来たんかもしれへんの、かも。」
「仮定多すぎだろ。」
「しゃあないやん。生まれ変わるなんて夢物語すぎるで。」
「自分から言い出したんだろ。」
「笠松だって考えたやろ 。」
「どうだろな。」
 ホットミルクを飲み、控えめな甘さに気持ちが落ち着いていく気がした。そう、俺だって焦がれたのだ。憧れだとかそんな綺麗なものじゃない。嫉妬ほどに目を背けられるものでもない。焦がれた、欲しいと思った。唯、彼らが欲しかった。だから。
「きっと彼奴らじゃなかったら、意味がねえな。」
 甘い香りが充満するこの一室で、お前はケラケラと笑った。
「ほんまにそうやな!」
 お前が焦がれた青色も、俺が焦がれた黄色も、彼らだからこそ輝いていたのだ。彼らの生きてきた積み重ねの全てが小さな輝きを放ち、それが集まって人の目と心を惹く。そういうものだったのだ。
「なあ、同窓会の知らせが来たんやけど。」
「バスケ部のか。」
「センセーがな。なんや、気に入っとったらしくて。」
「へえ。」
「だから海常も同じ店とか、どうやろ。」
 ニィと笑ったお前に、俺は同じ笑みを返した。
「乗ってやろうじゃねえか。」
 キセキは集まることでまた違う輝きを放つのだ。それだけではなく、青色も黄色もきっと喜ぶのだからこんなに良い事尽くめの提案はないだろう。
 それについでだと言ってしまえばいいのだ。
「恋人宣言しとくか?」
 お前はそこで頬を淡く染め、口元を緩ませた。
「それもええかもなあ!」



シネラリア(サイネリア)の花言葉
「喜び」「快活」「いつも喜びに満ちて」「常に快活」
2015.4.4 4番今の日おめでとうございました

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