高今/確定未来


 部活から帰る道。何故か真ちゃんは俺に先に帰れ何て言って、そりゃ部活の皆には部活が始まる前に祝ってもらえたけどそれは無いんじゃないか。しかも家族に祝ってもらうのだろうって言った真ちゃんの言葉が何だか意味ありげすぎて気になる。先輩たちの目もなんかこう、いつもと違ったし。
 ふらふらとチャリを押して家に帰る。母さんに出迎えられて、着替えて風呂に入って、妹ちゃんと挨拶しようとしたら差し出されたのは白い封筒。何だろうと開けば、思わず大声を上げてしまう。妹ちゃんにこの手紙をどうしたのかと聞けば、俺が帰る三十分程前に本人が家に来て渡したらしい。母さんが親しみやすそうな素敵な人だったわと笑うもんだから素早く準備して俺は家を飛び出した。
 手紙に書かれた約束の場所は幼い頃によく遊んだ公園。その事実をあの人が知っているかなんて分からないけれど、きっと知っていたのだろう。思い入れのある場所じゃなきゃ公園の名前なんて覚えてられない。名前を覚えてないと手紙で指定なんて出来ないのだから。
 走って辿り着いた公園の街灯の下にあの人はいた。黒縁のメガネと癖のない黒髪はスポーツマンにしては長め。薄茶のダッフルコートを着たその人は俺を見つけていつものように笑った。細められた目と弧を描く口が愛おしい。
「高尾君、遅かったなあ。」
「これでも走ったんすよ?!」
「わはっ笑いが隠れてへんで。」
 その人は今吉翔一。二つ年上の俺の恋人だ。
 駆け寄ってすぐさま手を取れば冷たい両手。予想通りに手袋をしていない手にカイロを押し付ければ用意がええなと笑われた。二人で公園にある自動販売機で温かい飲み物を買って、近くにあるベンチに座る。今吉さんはブラックコーヒーで、俺はカフェオレ。一口くださいとねだればしょうがないなあと缶を渡してくれた。俺の缶も渡して一口飲みあい、戻ってきたカフェオレ飲みながら会話する。
「今日は部活だったんですよね。早くないっすか?」
「主将権限。」
「職権乱用ー!」
「っちゅうのは嘘で、たまたま早く終わったんやで。」
「ダウト。そんな訳ないじゃないですか!」
「わはは、なんか諏佐とか部員達に早よ帰れって言われてなあ。高尾君に会うの楽しみにしとったんバレたんやろか。」
 笑う今吉さんに、そんなに隠してもなかったのだろうなと笑みが零れる。そうやって人のせいにして早く帰れるようにしたのだろう。捻くれていて、そこもまた愛おしい。
 そこで缶を横に置いた今吉さんが鞄から包を取り出す。
「ハッピーバースデー高尾君。ほいこれ。」
「どうもありがとうございまっす!開けていいっすか?!」
「構わんでー。」
 がさりと包み紙を開けば現れたのは手のひらサイズの白い箱。開けば現れたのはオレンジ色と黒色のストーンが付いたシルバーのストラップだった。シンプルながら少しゴツゴツとしたそれは明らかにメンズものである。お高めに見えるそれに驚きながら観察すれば思い当たる。
「ありがとうございます!」
「ええよー好きなところに付けたってな。」
「ええでも失くしたらやだなあ。」
「そう?」
「だってこれ今吉さんとペアですよね?」
 にっこりと笑えば、同じようににっこりと笑われる。正解と口が動いたのを見てぐいっとコートを引っ張って口付ければ、至近距離で目と目が合う。口を離せばあなたは口を開く。
「よお分かったな。」
「少し見れば分かりますって。ま、ショウケースとかで見かけないと分からない人もいると思いますけど。」
「そうやなあ。緑間君とか分からなさそう。」
「意外と真ちゃん分かると思いますよ。だって妹ちゃんの買い物によく連れてかれるみたいだし。」
「妹ちゃん強いな!」
 クスクスと笑い合って顔を離す。手を握ればお互いの手は同じくらいに温かかった。改めて今吉さんは祝福の言葉をくれた。
「おめでとう高尾君。産まれてくれてありがとう。恋人になってくれてありがとう。これからもよろしゅう頼むわ。」
 だから俺はにししと笑う。
「当たり前じゃないっすか!」
 来年だってあなたに祝ってもらうのだ。



2014.11.21 高尾さんお誕生日おめでとうございます

- ナノ -