宮今/サプライズ
!宮地さんの家族捏造!


 今日も部活で、楽しくないわけでも充実感がないわけでもないが、疲れた。これから勉強もあると思うと流石に気が滅入りながら歩く。見えてきた自宅にほっとした。帰ったら風呂に入ろう。そういえば今日は裕也が先に帰りやがってたな。
(我ながら理不尽だと思うが腹立つ。あー、ショウの声を聞きてえ。)
 玄関のチャイムを鳴らし、待っているとパタパタと誰かの足音が聞こえてきた。その足音とはいはいという声に、あれ母さんじゃないと思っていれば扉が開かれる。
「おかえりキヨ君。」
「……は?」
 そこには恋人である今吉翔一がいた。
 唖然としていれば、寒いからはよ入りと今吉は言った。思わずそのまま家の中に入れば、今吉は笑顔で再びおかえりと言った。
「ただいま、じゃねえよ。おい。何で。」
「サプライズやで。」
「は?裕也は、母さんは?」
「夕飯食べてってもええて。」
 そうじゃない。そうではない。ぐるぐると考えていれば、今吉は気がついたように声を上げた。
「夕飯手伝わな。ほな、ワシは台所行くで。キヨ君は風呂やろ?用意できとるでー。」
 そうして消えた今吉に、とりあえず話は風呂に入ってからだと考えてさっさと靴を脱いだ。
 部屋に荷物を置き、着替えを持って風呂に向かう。風呂に入ってからリビングに行けば、母さんと和やかに料理をする今吉がいた。いや何でだ。さりげなく裕也が今吉からおこぼれをもらっている。おいこらテメェ。
「あ、キヨ君。飲み物いるやろ。このスポーツドリンクでええの?」
「……おう。」
「翔一君、これ茹でてくれるー?」
「分かりましたー。」
 ちょっと待て。
「なんで母さんが名前呼びしてんだよ。」
「あら、翔一君は清志のお嫁さんなんでしょう?苗字呼びなんて堅苦しいじゃない。」
「待て待て待て。」
「翔一さんそれ食べたい。」
「少しだけやで。ほら。」
「裕也離れろ。マジてめえ離れろ。」
「だって義兄さん(にいさん)になるんだろ。」
「待て、テメェもか。」
「あ、お父さんは夕飯ぐらいには帰るそうよー。説得なら任せて頂戴。」
「あ、そう。じゃない。母さん待て。なんの説得だ?」
 今吉が仲良しやななんて笑っているのに苛立ちと安心を覚える。しかし多分大元の原因はコイツなのだろう。俺は今吉の腕を強く掴んだ。
「部屋行くぞ。」
「夕飯出来たら呼ぶから。」
「呼んだらすぐ来なさいねー。」
「分かりましたー。」
 にこにこと返事をする今吉に苛立ち、さらに力を込めて引っ張った。痛いなんて言っているが無視である。
 部屋に入ると今吉の腕から手を離す。痛いわあなんて摩る姿に相変らず胡散臭いなと思っているとじろりと見られた。どうやら本当に痛かったらしい。
「で、お前どうしたんだよ。」
「どうしたも何も。あ、キヨ君髪乾いとらんやろ。タオル貸し。」
「ちょ、」
 柔らかな動作でベッドを背もたれに座らされ、今吉がベッドの上に乗ってタオルで髪を拭き始める。軽い心地で繰り返される動作に、甘いなと思う。本当に今吉は身内に甘い。
「力、強くすれば。」
「何、キヨ君Mなん?」
「そうじゃねえよ。」
 クスクスと頭上から零れた笑い声に嬉しさが滲み出ていて、機嫌がやけに良いことを感じた。
 終わり、と髪から今吉の手とタオルが離れる。案外心地よかったそれに名残惜しさを感じながら、振り向けば嬉しそうな気配を垂れ流しにする今吉がいた。何故と聞けば、素直に答えられる。
「だって、プライドの高いキヨ君が頭乾かせてくれたんやで?」
 頭を預けてくれたのだと、今吉は嬉しそうだ。けれど、きっとそれだけじゃないのだ。それも確かに真実ではあるけれど。
 体を動かして向かい合い、そっと手を引き寄せる。今吉の手は白くて、浮いている血管をそっとなぞれば、擽ったいと笑い声が零れた。それが本当に今吉の取り繕わない姿で、心を開いているという事実に愛おしさがこみ上げてきた。
「母さんと裕也に何て話したんだ。」
 聞けば、今吉は穏やかに答える。
「ほんまにたいしたことは言うとらんよ。ただ、呼び鈴鳴らして突然すいません言うたら、名前聞かれて、答えたら、裕也君が言うてた恋人さんやねーって。」
「アイツかよ……。」
 意外な犯人に苛立つ。そもそも裕也に今吉を紹介したことは無い筈だ。どこ情報なんだ。木村のような気がする。木村なら怒れねえから裕也やっぱり轢く。
「ああ、そんな怒らんと。ワシ、結構嬉しかったんやで。」
「本当か?」
「キヨ君のお母さんと弟君に受け入れられてて、嬉しくないわけないやろ。そりゃ、恥ずかしかったけどな。」
 ほんのり頬を染める姿に、思わず指に指を絡めた。愛おしいと心から思った。手を引いて、抱きしめればおとなしく抱きしめられる今吉がいた。絡めていない方の手でそっと頭を撫で、そのまま頬を撫でる。今吉が背中に腕を回してくれた。そして目を合わせる。
「そういえば、何でサプライズしたんだ。」
 今吉が笑う。
「キヨ君。今日なんの日か覚えとる?」
 11月11日。そうだ、友人たちにも後輩にも祝ってもらった。
「おめでとう、キヨ君。今年一年間もずっと大好きやから。」
 言い終えると俯いて摺り寄せられた頭に、嬉しさと愛おしさで絡めた指を持ち上げる。そのままその今吉の指に口付ければ、嬉しそうに笑う。胡散臭い今吉も好きだけれど、こうやって何も企んでいない笑顔だって好きだと思った。
「愛してる、ショウ。」
 そこはありがとうやろ、なんて。

 そうして夕飯に呼ばれれば、父さんもいた。説得は成功したと満足そうな母さん。早く食べようと急かす裕也には米神がピクリとしたが今吉が宥めてくれた。五人で俺の好物ばかりの夕飯を食べ、誕生日ケーキを食べる。全部今吉もいて、幸せだと感じた。母さんを筆頭に今吉が泊まる話になったが、学校があるからと裕也が止めてくれた。泊まったら嬉しいでしょうなんて言われてしまえば、俺は何も言えなくなるからだ。
 玄関先まで今吉を送る。ありがとうと言えば、こちらこそと返された。
「なんかキヨ君の誕生日なのにワシもええ思いさせてもらたわ。」
 じゃあと背を向ける姿に、思わず手を掴む。驚いて振り向く姿に嬉しくなりながら伝える。
「日曜、会おうぜ。」
 勉強会でもと笑って言えば、賛成と返された。その顔もまた、笑顔だった。



2014.11.11 宮地さんお誕生日おめでとうございます

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