笠今/羨望の先のカラフル
!捏造!


 たまに遠い目をする奴だと思っていた。けれど、その理由は分からない侭。
 今吉と所謂お付き合いを始めたのは二年の頃だった。偶然街の中で出会って、練習試合が申し込まれたと思ったらそこに今吉が居た。同じバスケをしていることは知っていても対戦するなんて思わなくて驚きながら臨んだ。なんていいながら、俺も今吉もベンチに居たわけだけど。きっとあれが二年の春だったからだろう。試合後に話しかけられて、お互いに次期主将だってことは見ていればわかるものだったから、今後の事を考えてとメアドを交換した。それから何通かメールをして、何度か会った。その中で同学年を巻き込んだ紆余曲折があって、どうにも今吉が好い人だと思って俺は告白をした。二年の秋だった。それから恋人として仲を深めた。デートもした。そして冬が明けて春になると、お互いに癖のあるキセキを受け入れた。思えばその頃からだったのだ。今吉がどこか遠い目をするようになったのは。
 一緒に話していて、ふと遠い目をして、呼べば何でも無いような振りをする。いつも笑顔なのに、その笑顔をどこかに置き忘れたような別の笑顔になる。何なのかと聞いても曖昧に濁すだけ。俺は付き合い始めて、初めて今吉が離れるのではと不安を感じた。それだけは嫌だと心の中で叫んだ。
 それならと俺はまず諏佐に聞いた、だが諏佐は本当に何も気がついていなかった。念の為と聞いてくれた桐皇のスタメンも首を横に振った。ただ、マネージャーの桃井だけは少しだけ知っていた。
「今吉さん、たまに苦しそうに青峰君を見るんです。」
 こっそりと教えてくれたそれに目を丸くした。あの、今吉が青峰をそんな風に見るなんてと驚いた。そして確信したのは、今吉が俺に何か隠してほしくないことを隠しているということだった。
 海常の皆にも少し聞き込みをした。すぐに異変を教えてくれたのは森山だった。
「アイツ、不安がってるんだよ。」
 小堀は男の甲斐性が試されているねと笑っていた。そして大事なことを黄瀬が教えてくれた。
「実は……」
 俺は少し、今吉の不安を理解した。

 俺の家、隣に座る今吉の手を触る。どうしたのかと笑うそれに曇りは無い。だけど俺は少しだけ分かったから言う。
「俺はお前だけを愛してる。」
 今吉は目を見開く。そしてへたりと笑うのだ。敵わんなあと笑うのだ。だけどそこで終わらせちゃいけない。だからと続けようとする俺の言葉を今吉は遮るように口を開いた。
「羨ましかった。黄瀬君が、ずっと、ずっと。」
 涙を滲ませる姿に、そっと手を握りしめた。そんなこと、俺だってそうだったから。
「俺も青峰が羨ましかったさ。」
 予想外だと目を見開く姿に満足して、そっと腕を回して背を撫でた。俺たちはどちらも同じだったんだと言えば、そうだったんだと今吉は笑った。快活な笑い声に俺も笑って、ゆっくりと体を離し、手を握り直す。明日は皆で遊ぼうと提案すれば、それはいいと笑ってくれた。

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