あなたとごはんを共に/桜今/未来捏造


 お料理が出来ましたと今吉さんを呼びに行けば、書類とにらめっこをしていました。根を詰め過ぎるのは良くないですよと苦笑して言うと、バッと顔を上げてスマンなあと笑ってくれて僕はほんのり幸せになりました。

 同棲を始めて早三年。食事は僕に用が無い限り、僕の担当です。
 今日のご飯は南瓜と豚肉の炒め物、里芋の煮っころがし、しめじのお吸い物、デザートにサツマイモの檸檬煮です。秋だねと笑う今吉さんに、秋のものばかりでスイマセンと言おうとして気が付き、僕はそうですねと笑った。
 スイマセンはなるべく言わない様にしようと決心したのは同棲をし始めた頃だった。今でもやっぱり思い出すように言ってしまいそうになる。今吉さんは無理をしなくても良いと言ってくれるけれど、それでも僕は今吉さんを気疲れさせたくは無いのです。
 僕は気を取り直して炒め物を口に運ぶ。南瓜と豚肉の炒め物はバジルなどの香料を効かせている。南瓜は煮るのも美味しいけれど、こうやって香りを付けるのも美味しいのです。今吉さんは美味しいと笑ってくれました。
「里芋も美味いし、汁物もデザートも美味しいで。ホンマ、桜井は料理上手やなあ」
「あ、翔一さん名前」
「ワッ、すまん。ふとした時に出てしまうもんやなあ。」
 今吉さんはそう言ってすまんともう一度言ってくれたので、僕は気をつけてくださいねと笑った。同棲と同時に名前で呼び合うことに決めたのです。

 里芋の煮っころがしはつるりと滑って、噛むと滑らかなのが美味しい。汁気は多めの方が、僕も今吉さんも好きなのです。
 しめじのお吸い物は薄味に。あまり濃いお吸い物にはまだ慣れないのだと言った今吉さんに合わせたのです。
 サツマイモの檸檬煮には干し葡萄も入れている。サツマイモを噛むとサツマイモの控えめな甘さと檸檬の酸味が美味しく、干し葡萄を噛めばその自然な甘さが心地良いのです。
 主食には白いご飯を。お水をほんの少し控えめにした、僕の好きな固さのご飯です。今吉さんがそれに合わせてくれると言った時はとても嬉しく思いました。

 僕にとって食卓を囲むことは、共に生きていることの象徴です。かつての僕の憧れは愛する人と朝昼晩を食べることでした。今、仕事の都合で朝と晩しか一緒に食べれていませんが、それでもお昼にはお弁当を作っているので、離れた場所で同じものを食べている幸福もまたひとしおです。そんな幸せをかつては考えられなかったなと思い、かつての幼さを感じるのです。

 今吉さんが美味しそうにご飯を食べて、嬉しそうに些細な出来事を語るのを聞きながら、僕は今かなと口を開きます。
「翔一さん」
「ん、どうしたん」
 首を傾げそうな今吉さんに、僕は出来るだけ落ち着いて言いました。
「桜井翔一になりませんか」
 今吉さんは瞬きをして固まり、そしてゆっくりと頬を染めてくれました。僕は嬉しくなって、続けます。
「明日の午前中は僕も翔一さんも空いてますし、指輪を買いに行きましょう。」
「まって、待って、良、待ちい」
「はい」
 僕が黙ると、今吉さんはああううと唸ってから、いいのかと問いかけてきました。
「ワシでええの?ほんとに?」
「はい。翔一さんがいいんです。翔一さんじゃないと嫌なんです。」
 僕の言葉に、今吉さんは俯いて、すぐに顔を上げます。その頬は染まっていて、その口はへにゃりと歪んでいて、その目は嬉しそうで。
「こちらこそ、よろしゅうな」
 僕は微笑んで頷き、明日の朝ごはんは少し気合いを入れようと決めました。



2014.9.4 9番今の日おめでとうございます

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