初日・未来視編


 結局時間になっていたので風呂と夕食を済ませ、その後勉強時間となった。今日は全員で揃って勉強とし、明日明後日は好きな面子で勉強となった。黄瀬は桐皇の方に行き、海常には手持ち無沙汰だったからと霧崎の瀬戸と原が護衛に付いた。途中、飲み物を買いに歩いて五分ほどの自販機に向かった。階段近くのそこで、ふと足音を聞いて振り向けば高尾と降旗が降りて来ていた。
「あー! 笠松さん危ないっすよ!」
「おー、ちょっとならいいかと思ったんだが」
「たとえ短時間でも笠松さんは狙われやすいでしゅからっ」
 ブッフォオと高尾が吹き出し、ゲラゲラと笑う。降旗は真っ赤な顔で笑うなよーっと言っていた。だが、やはりパートナー契約をして戦闘しているだけあって二人の気兼ね無い関係が見て取れた。高尾はひーひー言いながら腹に手を当てている。そこで俺はふと何をしていたのかと聞いた。ここは二階であり、三階は無いはずだ。
「あれっ、笠松さん知りません? この上、物見櫓(ものみやぐら)みたいになってるんすよ」
「物見櫓?」
「名前は展望台となってますが、多分実験で犠牲者を少なくするための処置の一つです。俺と高尾の星座の力で、なるべく怪物を早期発見しようと思って」
「高尾は鷹の目か?」
「あー、違いまっす。俺の鷹の目はあくまで正確なイメージなんで。見張りには降旗が、俺に視力強化のスキル、降旗自身には気配探知のスキルを一時的に付与して地味にひたすら探すっていう」
 なるほどと納得する。怪物は目で見えても気配の無いもの、目で見えなくても気配のあるものなんていうあべこべなものもよくある。俺たちが体育館で出会ったのは後者なのだ。ただし、見えて気配もあるもの、見えないし気配もないものがあるので一概には言えない。
「笠松さんはまだパートナー契約してないんですよね」
「ああ」
「あの、検討は付いてますか?」
「全く」
 俺の言葉に、降旗は高尾と目を合わせた。そして高尾が高らかに言う。
「“占い”してみませんか!」

 高尾と降旗は俺を海常面子に少し借りると言ってから、引きずるように図書室に連れて行った。入ると、そこには陽泉と緑間が揃っていた。
「真ちゃーん」
「おい高尾。見張りはどうしたのだよ」
「休憩だって。丸一日は無理無理。で、一つお願いがあるんだけど」
「断る」
「ひっでぇ!」
「あの、緑間、笠松さんを“占って”ほしいんだっ」
「なるほど。降旗はもう少し落ち着け」
 場所を移動しようと図書室の談話室に緑間、劉、高尾、降旗、俺が揃った。俺と緑間はテーブルに向かい合って座り、緑間はパラパラと手のひらからカードを出現させる。
「にしても占いって」
 俺の言葉に劉が違うと言った。
「緑間のは占いじゃないアル。言いふらすと面倒アルから、そう胡散臭く言ってるだけアル」
「俺のこれは占いではない。この先の幾多にもある未来のうちの七割ほどを知ることが出来るものなのだよ」
「未来視、か。七割とは凄いな。」
 未来視のスキルを持つものは実はわりと居る。しかし大半が殆どほんの僅かな可能性を知ることが出来るだけであって、実際に起きることを知るとは到底言えぬものだ。当たる未来視の持ち主でも知ることが出来る未来は五割ほど。緑間の言う七割とは驚異的な数値だ。
 緑間は俺に手を出すように指示し、カードを談話室の四隅に浮かせる。使うのかと思ったが、どうやら視覚妨害のマジックアイテムらしかった。確かに実験というだけあって監視はされているだろうから当たり前だ。
「ちなみにワタシは聴覚妨害をとっくの昔に展開してるアル。存分に話せば言いアル」
 ありがとうと言えば、やるからには当然だと言われた。そこにツンデレらしきものが見えて、ああ緑間のパートナーだなとしみじみした。
 緑間は机の上に出した俺の手を1秒ほど触れると、戻していいと手を離した。そして緑間は目を閉じる。その目の辺りでキラキラと光の粉が散った。未来視だ。
「……知りたいのはパートナーが誰か、だな」
「ああ」
「少し待つのだよ」
 緑間の目の周りで光の粉が舞う。増えていくそれは緑間から出て、十秒ほど宙を漂うと自然と消えていった。自然と談話室は静まり返る。
 三分ほど経っただろうか。緑間から光の粉が出なくなり、目を開けた。その目は金色だったが、瞬きをすると消えていた。そんな緑間の表情はいつもより難しい顔をしていた。
「まず、俺の未来視はあくまで七割なのだよ。三割の可能性は大きい」
「おう」
 そして珍しく躊躇うように口を閉ざすと、劉を見た。劉は決めるのは笠松さんだと言った。
「三割は大きいアル」
「分かった」
 俺の言葉に緑間は決断するように口を開いた。
「あなたのパートナーはこの合宿に参加している」
 その言葉に降旗が声を上げる。
「え、でも獅子座の姫なんていなかった」
「宿るってことなのかよ」
 高尾が渋い顔で言うと、緑間は違うと首を振った。その行為に俺たちがぽかんとすると、劉がなるほどと言った。
「そういうことアルか。これはまた、奇妙アルな」
「は?」
 三人で言えば、緑間が再び口を開いた。
「つまり笠松さんのパートナーは未契約の他星座の姫なのだよ」
 そこまで言われて、そんなの一人しか居ないと脳が叫ぶ。この合宿で、未契約の姫はただ一人。
「いま、よし…?」
 双子座の姫。今吉翔一のみ。

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