初日・合宿初戦編


 その後は赤司からの簡単な取り決めの提案だった。それは1人では絶対に行動しないというもので、これだけ所有者が集まっていると一般人も怪物に出会う確率がグンと高いからだ。そして怪物に出会ったら周りに頼らず自分から赤司に連絡すること。というわけで全員が赤司のアドレスと電話番号を入手した。
「怪物は屋外も屋内も関係なく現れる。絶対に安全な場所なんて存在しないのでくれぐれも気をつけてください」
 それでは分館のキーを渡しますと赤司から鍵が手渡される。俺たち海常は葵館、桐皇は水仙館、秀徳は朝顔館、陽泉は梅館、洛山は木蓮館、誠凛は桃館、霧崎は藤館となった。
 荷物を運びがてら分館までの道のりを覚える為に地図を見ながらぞろぞろと進む。それぞれの分館はそれなりに離れており、かつ近付けばそれなりに大きいことが分かった。鍵を開けて入ってみると広い一部屋のみだった。一応簡単な敷居も立てられるように置いてあり、それで自由に区切れとのことだった。まずは全員で一部屋にしようと各々隅に荷物を置く。

 それから監督に連絡し、練習をする為に着替えをして体育館へ向かった。

 ところで星座の力所有者のパートナーについてだが、話し合った結果、離すといざという時に大変だから揃えようとなった。というわけでこの体育館には黄瀬とそのパートナーの諏佐がいる。しかし桐皇も海常も所有者は二人のみで片方は未契約者。なのでどうせならと桐皇と海常は合同練習となった。
 合同練習とは言っても半面ずつで練習するのであまり変わったことはしない。ただ相手にあまり情報を仕入れさせないように練習はいつもよりどこでもやっている基礎練がメインになりそうだった。まあ、桐皇には桃井が居るので何とも言えないが。いや普通に無意味だと思うが。

 練習に区切りがつくと軽い練習試合しようと監督二人が意気投合した。青峰と黄瀬は1on1で諏佐は周囲を警戒する為に自主練。つまり桐皇が三人になるので交代も考えて2on2となった。まずは桐皇は桜井と若松、海常は中村と早川となった。得点ボードは桃井が引き受けたために俺は壁際で休憩することにした。すると今吉がひょっこりと近付いてきて、隣に座る。
「いやー海常サンと少なくとも三日間合同練習なんてな。よろしゅう頼むわ」
「おー、分かってただろ」
「どうやろなー」
「おい」
「わはっ、笠松眉間に皺寄っとるで」
 誰のせいだとと思いながら俺は、で、と言った。
「何の用だよ」
「いや、だから挨拶やで」
「ふーん」
「ええやろ別に。しっかしなあ。お互い難儀やね」
 その言葉にすぐに思い当たり、苦々しく思う。
「なかなか見つかんねえんだよ。パートナー」
「立候補者はいても、結べんかったら仕方ないしなあ」
「おい」
 なんで知ってんだと目で訴えれば、今吉はウチには優秀な諜報員がいるからと笑った。
「ま、お互い気ィ付けよや」
 その時に、ピーッと笛の音がした。今吉は行ってくるわと言って、コートへと向かった。その後ろ姿を何と無く見ながら、思う。
(あー、髪が長かったっけ)
 スポーツをやるにしては長めの黒髪に、そういえばとぼんやり思ったのだった。

 途中で食堂での昼食を挟み、初日の練習が終わったのはまだ明るい夕方5時だった。この後は風呂、夏の宿題消化、食事、自由時間、就寝となっている。まず風呂に入ろうと全員で移動しようとすると、青峰が不可解な顔をした。どうしたのかと思っていると、黄瀬と諏佐が何かを察知たらしく、出口に差し掛かった俺たちの奥から、体育館の中央あたりに向かって黄瀬が走った。諏佐が俺たちの中央に立ち、叫ぶ。
「ここから動かないでくれ!」
 そして諏佐の手に現れたのは腕の長さぐらいの飾り気の無いメイスだった。それでとんと床を叩くとブゥンとプロペラが一周するような音を立てて俺たちの周囲を水色の膜が覆う。それは振動で柔らかく揺れており、どうやら怪物の技を柔らかく受け止める役割をするらしかった。つまりは、そういうことだ。
 急いで黄瀬の方を見ると黄瀬が腰のあたりからあるはずの無い刀を抜いて空中に居合切りをする。そしてそこから何かの形容し難い叫び声が聞こえた。何かなんて分かり切っている。
「怪物だ」
 諏佐の結界の中に動揺が走った。

 痛みからか姿を現した怪物は薄墨色をしたドロドロとしている何かだった。液体のようなそれは宙に浮かんで形を留めない。黄瀬がその姿を確認して諏佐をちらりと見た。諏佐はそれに軽く頷くと、メイスを持って結界の外に出る。そして結界の前でメイスを怪物に向けた。
「凍れ」
 その短い一言でメイスから光線が飛び出し、怪物に突き刺さる。そしてビシビシと怪物が凍ってゆく。怪物はその痛みでビッと体を伸ばして面積を広げようとする。そしてまだ凍っていない場所からその体の一部らしき液体を諏佐に向けて撃った。しかし黄瀬が刀でその弾を全て叩き落す。その速さは驚くほど早く、諏佐が凍りの詠唱を唱える間に素早さの強化をしていたことを物語った。
 そうしている間に怪物は全て固まり、宙に浮く氷塊となった。諏佐が黄瀬の名を呼ぶと黄瀬はもちろんと言い、刀で氷塊を切り裂いたのだった。

 結界が解除され、全員で黄瀬と諏佐に駆け寄る。ありがとう、でも大丈夫かと聞けば見てただろうと笑っていた。
「まだ生まれて間も無い怪物だったんですぐ終わったッス。みんなが無事でよかった」
「しかし凍らせるスピードを上げないとマズいな。二人での戦闘だと使えない」
「そうっスね……」
 落ち込む黄瀬に、諏佐が大丈夫だからと言葉を掛ける。黄瀬は頷いて、顔を上げた。
「じゃあ風呂に行くっスよ!黒子っち居るかな〜」
「あ、こら単独行動禁止だろうが!!」

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