初日・黒子編


 合同合宿初日、早朝に俺たち海常バスケ部スタメン、と中村が集まっていた。
「中村お前、」
「黄瀬の交代用員ですから。というより、俺だって皆さんと一緒にいたい」
「所有者が集まる合宿なんてこんなの、襲撃されに行くようなもんスよ?! 危険なのに!!」
「黄瀬、分かってる。でも、俺だって海常バスケ部の仲間だ」
「そんな、」
 俺は中村に向き合い、強い口調で覚悟を訪ねた。中村は真剣な顔で頷いて、覚悟はできていますと言った。
「家族とも話し合いました。納得してくれた訳じゃないですけれど、でも俺の意思を尊重してくれました」
「そうか。なら、絶対に死ぬな」
「はい」
 その時に監督と送迎のバスが来たので、まだ納得しきれていない黄瀬とともにバスに乗り込んだ。席は前から俺と黄瀬、小堀と森山、中村と早川だった。早川も一般人だ。中村と違って強制参加だが、それでもその顔は覚悟の決めたものだった。小堀と森山は和やかに監督と練習メニューを考えていたが、その心の内では無理をしているのが透けて見える。黄瀬も早川と同じく黙りきっているが、黄瀬が考えることは何より一般人と未契約者をどう守るかだろう。

 バスは鬱蒼とした森を抜け、町からも村からも離れた場所へと向かっていく。怪物がどれだけ集まってもいいように、人里から離れた場所に新たな建物を立てたらしい。話を聞いた時、この計画は決してパッと出たものではないのだと俺たちは思い知らされた。

 合宿所は小さな村か大きな旅館のようだった。点在する山小屋のような小さな和風の建物と、中央に大きな二階建ての和風の建物。全体的に大正や明治を思い浮かべる和洋折衷のものだった。バスケのコートがあるのであろう高くて大きな平屋が三つ程、外のコートも二つほど見えた。
 大きな二階建ての建物の前で降り、言われるがままに建物へと入る。着いたのは海常が最初らしく、他のバスケ部の知り合いたちは見当たらなかった。華やかな絨毯を踏みしめ、エントランスで施設の案内を受け取る。この大きな二階建ての建物は本館と名付けられ、室内コートのある建物は体育館、なんと室内プールの館もあるらしい。点在する山小屋は分館となっており、それぞれ椿館や葵館などと花の和名が付けられていた。よく見れば本館も桜館と名前が付けられており、全体的に日本の花をモチーフにしているらしい。最後の方に、日本の実験なので和風に拘って計画、設計されたとあった。
 苦々しく思っていると扉が開く音がした。着いたのは誠凛と桐皇だった。

 二校は和やかに話しながらエントランスへと入ってくる。和やかといえど、緊張からか無言で顔色の悪い人も見えた。
「あ、諏佐さん!」
 黄瀬がダッと桐皇の諏佐に駆け寄る。諏佐が勢い良く抱き付いた黄瀬をきちんと受け止めていた。それは多分黄瀬の行動を予測出来ていたからだろう、一緒に戦場で戦うパートナー同士の信頼関係は強固なものだ。その間に誠凛と桐皇の全員が施設の案内を受け取った。それに目を通してから雑談がザワザワと始まった。
 その中で、俺は壁際で誠凛の女子高生監督の相田と神妙な顔つきで会話をする今吉に気がついた。どうしたのだろうと思い、近寄る。
「今吉、相田さん」
「あ、笠松やん」
「こんにちは。目を合わせられるようになりましたか?」
「あー、相田さんはバスケ部の監督だし、まだ平気」
「ウチの桃井にも慣れてきたしなあ。ゆっくりにでも女の子に慣れてきたやん。よかったなあ」
「うるせえお前は親戚のおばさんか」
「えー」
「あの、じゃあ今吉さんそういうことで」
「ん、こっちは了解や」
 その言葉に何の話か聞いてもいいかと聞くと、むしろお話しするつもりでしたと相田が口を開く。
「私たち合宿参加者はパートナー契約済の星座の力所有者を全員が把握しきれていません」
「そういえば、俺は黄瀬から諏佐がパートナーだと聞いてるけど、それ以外の他校のことは分からないな」
「はい。正直、私は桃井さんから聞くまで黄瀬君と諏佐さんがパートナーだと知らなかったですし……」
「ワシんとこは桃井が調べ上げたデータを掻い摘んで部員に報告しとるから、所有者は周知しとる。でも他校さんは相田さんのように何も知らん。所有者は言いふらすことをあんませんしな」
 今吉の言葉に頷く。
「生き残るために周知は絶対だな。全員が集まったらまず報告会をするか」
「桃井さんから今回の総リーダーになる赤司君へ連絡が伝わっているはずです」
「そうか。で、桃井はどうしたんだ?」
「情報収集をしてもらっとるわ。所有者一人一人から能力の詳細を教えてもらえる限り、聞いて回っとる。ちなみに桃井は一般人や」
「一般人?! てっきり、所有者だと」
「帝光バスケ部出身だからといって所有者とは限らないってことです。ウチの黒子君が言ってましたから。“彼らは確かにバスケの天才だけれど、だからといって所有者とは限らない”って」
 相田は続ける。
「それに黒子君は、もう……」
「相田さん。黒子のことは先に話しとき。一人づつ説明した方が早い話やで」
「どういうことだ?」
 俺が言うと、相田は節目がちに話し出す。

「黒子君は帝光時代、二年の夏まで星座の力の所有者であり、パートナーがいました。しかし、その夏に、パートナーの子が」
「まさか、」
「はい。亡くなりました」
 俺はその事実に俺は声を出せない。相田は続けて語った。
 黒子はパートナーを戦闘で失い、契約の強制解除となった。しかしその心理的ショックで星座の力の全てを失った。しかもその影響だからなのか、影(存在感)が極端に薄くなったのだという。
「私、その当時の黒子君とは交流がなかったんですけど、パートナーの子とは友達で。知ってますか? 怪物との戦闘での死亡は殆どの場合、遺体が残らないんです。お葬式の、最後のお別れすら、言えなかった」
「相田さん、ええよ。もう」
 今吉がそっと口を開く。
「相田さんがその当時の黒子のことを知っとるんは、パートナーの子から聞いた状況と桃井から教えもらった状況を照らし合わせたからや」
「桃井と交流があるんだな」
「黒子繋がりで知り合ったんやと。というわけで黒子は元所有者の現一般人や」
「ああ、分かった」

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