知ってるよ/笠→←今/お互いに嫌われていると思い込んでいる両片思い/微塵も甘くない/友情出演は霧崎さんと森山さんと小堀さん


 今更、どうも思わない。君がワシを嫌いなことは、もう十分知っているから。

知ってるよver.今吉

 君とワシは真逆。性格も、部活のスタイルも全てが真逆。だからソリなんて合うはずがなかった。だからまさか自分がこんな風に君を好きになるとは思わなかった。

 気がつくと君を見ていた。そして目が合うと、君はすぐに目を逸らす。その顔は暗くて、分かった。ワシは君に嫌われている。
 考えずとも当たり前だ。ワシは妖怪サトリなんて後輩から呼ばれる性悪で、人に好かれるようなタイプではない。だから、君に嫌われているという事実は胸にストンと落ちた。当然というものだろう。
 それでもそっと君に気がつかれないように君を見ていた。その無意識さに、そうかと思った。ワシは君が好きなのだ。

 だからどうということもしなかった。ひょんなことで連絡を取り合うようになったかつてのライバルたちとのLINEでは、普段のように振舞って、他の人と同じような態度で適度に君に構った。
 辛くも悲しくも無かったが、少しだけ虚しかった。自分はいつまでこうしているのだろう。簡潔に言えば、君から離れたかった。

 花宮と霧崎のスタメン達と話していると、みんなで集まっている君が居た。その中にワシがいないのは、ワシが拒否したから。君が居ると聞いて、君がいるなら、君にこれ以上嫌われたくないから、ワシは行かない選択をした。そして早々に辞退したワシは君とみんながここにいるなんて思わなかった。
 目を逸らして気がつかなかったフリをするワシの様子に気がついた花宮は、ワシのさっき見た場所を見て納得した。そして呆れたように言う。
「アンタって変なところで馬鹿だな」
 ワシは笑顔で花宮の中学時代のエピソードを古橋君に売った。

………

 あいつの笑顔が俺に向かないことは分かりきっているのに、他へ振りまかれることに嫌気がした。

知ってるよver.笠松

 お前が花宮含む霧崎のスタメン達と話していた。思わず立ち止まり、じっと見てしまう。黒い髪はスポーツマンにしては長め、黒のカーディガンに白のシャツ。黒のスラックスに黒革靴で全身真っ黒だ。そしてその分、白い肌が目立つ。弧を描く口が動く。細められた目が優しく象られる。その先には霧崎の面子。嫌だ。嫌だ。

 俺はお前が好きなのだ。気がついたら好きになっていて、今もきっとこの先もずっと好きだ。でもそれはお前にとって迷惑となる。かつて何度か目が合ったのに、今はもう合うことはない。つまりお前は俺を見ないようしているのだ。視界に入らないように、俺が、そんなにも嫌いなのだと判断するのは容易い。
 他にも、LINEでは俺に一歩引いているのは明確で、今日だって俺が居ると聞いて行かないと言い出したと皆から聞いた。みんなのその発言に悪意は無い。むしろ、心配してくれていた。みんなは、俺がお前と仲良くなりたいと思っていることを知っているからだ。それが好きだからということも、何人かは見当が付いているらしかった。

 花宮にあくどい笑みを向け、霧崎の死んだ目のスタメンに何かを話している。花宮は引きつった笑みを浮かべていた。そのやり取りがとても慣れたもので、何時ものことだと分かる。それが癪だった。何より、どんな笑顔であれ、俺以外に笑顔が向いていることに苛立った。
「無表情やめろ」
 ぱしんと頭を叩かれる。真顔の森山だった。後ろには困った顔の小堀と、みんながいる。
「笠松も不器用だね」
 小堀の呟きの、意味が分からなかった。

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