下準備/笠→今/笠松がヘタレ


 そこそこ強豪の部活の主将なんてやってればそこそこ言い寄られるわけで。
「まさかそこまでとは思わんかったわ……」
「……すまん」
 そう言って項垂れるのは海常高校バスケ部主将、笠松幸男。そんな彼は、

 まさかの恋人どころか初恋すらまだだった。

「で、そんな笠松君を引きずってきた小堀君の言い分は何や。てか意図が分からん」
「ごめんね、でもやっぱりそこは人心掌握してそうな今吉が適任かなって」
「おいまてこら」
「だからお願い!」
 ファミレスにて両手を合わせる小堀君の言い分は、森山との罰ゲームでとあるクラスメイトの女の子とデートすることとなった笠松を助けて、とのこと。詳しく聞けば、笠松君は森山君と(内容は秘密だが)賭けをして負けたらしい。そしてその罰ゲームがクラスメイトの女の子とのデートらしい。これは森山君の好意で、さっさと女性への苦手意識を克服しろよとのこと。もちろんクラスメイトの女の子はそのことをきちんと踏まえているらしい。
「ちなみにその女の子は確実に笠松に恋愛感情は持たないよ」
「妙に言い切るんやな」
「うーん、だって女の子しか興味ないって公言してるし、何回か同性の恋人ゲットしてたよ」
「海常濃いな?!」
 だからよろしくね、と小堀君は用事があるとのことでさっさとファミレスから出て行った。小堀君が良心と言ってたのは誰だろうか。今のワシにとっては台風の目でしかなかった。何かしらんがあれは何か企んでいる。ああ面倒になってきた。
「とりあえず、デートプラン考えよか」
「すまん……」
 元気のない笠松君を引きずってファミレスから出て、本屋に向かう。そこで数冊の雑誌をパラパラと見て、良さそうなものを一冊購入させる。購入するのは流石に本屋でデートプランを練らせる訳には行かないからだ。ワシの予想では、笠松君は女性を意識するだけでアウトなのだろう。苦手意識が強過ぎへんか。
 長居できそうなカフェに入り、それぞれ飲み物を頼んで席についた。
「で、まず日程は?」
「来週、らしい」
「なんか条件あるん?」
「条件って」
「罰ゲームという上で、や」
「特には言われなかったな。ただ来週デートしろと……」
 視線をうろつかせる笠松君に頭が痛くなる。あの小堀君に頼まれたからには役目をやり遂げようとは思ったが、笠松君がこの調子では色々と不都合が生じる。
「ああもう、シャキッとせい。お前はもうちょい芯の通った奴やろ。何狼狽えとるん。」
「……すまん」
「謝るならまず気ィしっかりしろや。水被せたろか?」
「何でだよ?!」
「そうそうその勢いや。ほな、相手の好みとか、は無理やな。雰囲気はどんな子?」
 ワシの質問に笠松君はきょとんとする。その姿にすぐに思い当たり、ため息を吐いてしまう。
「あんな、別に相手の子を落とすわけやなくても、楽しんでもらわんと意味ないやろ。」
「そういうもんか?」
「おもてなしの心や」
「お前に似合わねえな」
「歯ァ食いしばれ」
 笠松君の肩の力が抜けてきたのを確認して態とらしく咳をして、話を元に戻す。
「で、相手の子の雰囲気はどうなん?」
「髪が長めで、初対面のヤツにも臆せず話しかけてたな。ただ、八方美人じゃなくて、自分の意見はしっかりと言うタイプ。」
「ふーん、まあインドア派やな。本は好きか?」
「知らねえ。あー、でもたまにハードカバーの本を読んでる」
「それは読書好きやな。ほな本がたくさん置いてあるカフェなんかはどや?」
 雑誌をパラパラと捲って目的のページを幾つか笠松君に見せる。
「こことここなんかは漫画も置いてあるみたいやし、笠松君も楽しめるんとちゃう?」
「どういう意味だよ」
「ん?笠松君は読書家なん?」
 にっこりと笑って顔を見てやると、笠松君は目を逸らした。嫌いじゃないが好きでもないのだろう。本日も若者の活字離れは深刻だ。
「ほなここ三つぐらいやな、選んどき。場所のアドバイスはこんなもんでええやろ。時間いっぱい潰せるわ」
「サンキュー」
「じゃあ次は話術やな」
「は?」
「まさか始終無言やなんてことはせえへんよな?ほな気張ってこー」
 戸惑う笠松君を無視して紙とペンに要点を書き込んでゆく。心は少しだけ浮足立っていた。

 さて、どうしてやろうか!

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