秘密をほしがった/笠今/幼馴染パロ


 ちっちゃい頃の呼び名とは、ふとした瞬間に出てしまうものらしい。つまりはそういうことだ。
「ショウあぶねえ!」
「え?」
 笠松君がワシに向かってきていたバスケットボールを、ワシを横に強く押してから叩き落とす。なかなかに派手な音がして落ちたボールがバンバンと床を跳ねた。一気に静まり返った体育館で、笠松君はワシに気をつけろよと話しかける。どうやら自分が仕出かしたことに気がついてないらしい。ああ、これは。
「すまんなあユキ」
 全力でいじり倒そう。

 ワシの言葉ですぐに察した笠松君を散々いじり倒した頃に、驚きで叫び声すら出さなかった部活の仲間たちのうち、黄瀬君と桜井が近寄ってくる。ちなみに現在は桐皇と海常の合同合宿中だ。
「あの、その呼び方なんなんスか?!」
「すみません!黄瀬さんと同意見ですすみません!」
「あー、桜井はとりあえず落ち着きい。あんな、ワシと笠松君はちっさーい頃から交流があるんや」
 そこでずいっとマネージャーの桃井が身を乗り出す。
「つまり幼馴染なんですかっ?!」
「せやでー」
 笑顔で肯定すると、バシッと笠松君に背中を叩かれる。痛いわあと言うと笠松君は不機嫌な顔をしていた。珍しく分かりやすい心情に、クスクスと笑いが止まらない。
「なんで言わなかったんだ?」
「んー、諏佐やって聞かなかったやん。聞かれんかったら言う必要もないやろ」
 痛いほどの笠松君の視線を無視してそう言うと、諏佐はそれはそうだがと困った顔をする。教えてほしかったというところだろう。ちなみに諏佐に言ったことは半分正解で半分不正解だ。
「ショウ」
「なん?」
「お前らメニューやってろよ。俺はちょっとコイツと話がある」
「えーなんなん!こわーい!」
「うぜえ!!」
 体育館を出て行く笠松君に腕を引っ張られながら、部活の仲間たちにメニューをこなさんとあかんよと言いつけた。

 体育館を出てさらに歩く。目的地は合宿所の中の体育館から離れた一室だろう。その予想通りに食事を食べた畳張りの広い部屋に入った。引きずられるように部屋の奥に進むとやっと手を離される。痛かったわと腕をさすってみると、笠松君は不機嫌な顔のままだった。怖い顔と笑ってやると、分かってんだろと返される。とぼけてみると笠松君はさらに不機嫌になる。
「ふふ、かわええ」
「うるせえ。」
「やって、ワシと秘密がほしかったんやろ?」
 にっこり笑うと、笠松君は顔をそらした。そしてゆっくりと肯定する。
「お前、そういうのばっかだろ」
「そうか?」
「秘密持ってて、でもそれは秘密って認識しない。聞かれたら損得勘定して話す。そうだろ」
「まあ、せやね」
「だから、聞かれても答えない秘密がほしかった」
 特別が良かったんだと、苦しそうに話す笠松君に罪悪感が湧き出てきた。流石にやり過ぎたと、反省する。そしてゆっくりと笠松君の手を取った。キミはびっくりしたようにこちらを見るので、ワシは表情を取り繕わないようにした。
「なら、新しく秘密を作ろうや」
 笠松君の目が見開く。ワシは目を閉じて、意図に気がついた笠松君の戸惑いを感じた。
「でも、」
 そう言って黙った笠松君は、しばらくしてワシと繋いだ手を握りしめた。少し痛いくらいのそれを感じて、唇に合わさったぬくもりを感じる。数秒後に離れるのを感じて、目を開く。笠松君の顔はまだ近いままだった。
「すき、」
「俺も、好きだ」
 至近距離で笑い合って、またキスをした。

 体育館に戻ると桃井と黄瀬君を筆頭に詰め寄られる。幼なじみなのだと改めて二人で宣言すると、大多数が納得して離れてゆく。それでも残った面子にはメニュー交渉してこようかと脅して練習に戻した。
「ショウ」
「なん、ユキ」
「合宿終わったら久しぶりに泊まる」
「そらオカンが喜ぶわ」
 その会話で再び詰め寄られるのは、また別の話。

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