蓮華の園で告白を/古→今/花宮厨古橋


 蓮華の花、群生するそれはとても綺麗だ。
「てか、古橋君がこんなところに連れてくるとは思わんかったわ」
 急に旅行に行こうと言い出すだけで驚くというのに、まさか二人旅とは思わなかった。何だかんだで花宮繋がりによって霧崎バスケ部のスタメン面子と友人にはなったが、その中でも古橋君は最初はワシを嫌っていると思っていた。今でこそそこそこ話すし、中学時代の花宮の話や高校での花宮の話を話したり聞いたりはする間柄にはなったのだが。
「花宮が、」
「ん、花宮?」
 花宮の言葉が出たことで合点する。つまり花宮に下見に行って来いと言われたとかそういうことだろう。蓮華がこれだけ咲き誇っているのに人影が一切感じられないこの場所は悪評高い霧崎バスケ部のスタメンが休むには良い場所だろう。別に彼らが悪評を気にするとかラフプレーをすることででストレスを感じているとかというわけではなく、単に部活の花宮特製スパルタメニューによる過労という副産物の解消の為だ。マロ眉ゲスの悪童が自分のプレイスタイルをキープする為の努力を惜しまない訳が無い。彼のバスケへの愛は大いに歪んでいる。
 しかしワシがそうだろうと考えたまま古橋君を見上げようとすると、古橋君はこちらを見ていて少しだけ驚いた。反応が欲しいということだろうか。
「ええころやね、綺麗や」
「それは良かったです。」
 その言葉に少しだけ引っかかる。古橋君はあまり喋らない上にポーカーフェイス、かつ身長的に目を見づらいからこちらを見てもらわねば意図が分かりづらいのだ。
「ほな、次は、」
「花宮に教えてもらった通りです」
「は、」
 急いで見上げればこちらを見る古橋君。その目はいつもみたいに光が無くて感情が分かりづらいけれど、何処と無く嬉しそうな。
(なんでや?)
「あなたをここに連れて来たかったんです」
「は、ワシを?」
 こくりと頷く古橋君に、ワシは驚いて間抜け顏でぽかんとしていた。その隙に彼の手がワシの頬に触れた。あ、これはマズイと思った時にはもう遅し。間近で絡み合う視線、唇への柔らかな感覚。それらはすぐに離れたけれど古橋君の位置はここに来た時よりずっと近い。
「あなたが好きです」
 真剣な雰囲気に、流石に黙るしかなかった。
「あなたはいつでも俺の苦しみを和らげてくれる」
「だから、蓮華、なん?」
 そう、と古橋君はワシの頬を撫でる。その手はほんのりと温かい。彼の手は何度か触れる機会があったから分かる。これはいつもより温かい手だ。顔に現れない彼の、気持ちをしっかりと感じ取れた気がした。
「だからこれからは、あなたに恩返しをしたいんです」
「ええのに」
「そして、もうひとつ、俺を救い上げてください」
 古橋君の声に耳を傾ける。一言も逃さぬように、静かにして。
「俺と付き合ってもらえませんか」
「……」
「そして恋人として、あなたに恩返しをしていきたいのです」
 そう言った古橋君は口を噤んだ。いつの間にか、彼の手は微かに震えていた。勇気を出してくれたのだろう。自分は花宮にしか興味ないとワシに思われているのだろうと思っているのだろう。そのいじらしさに頬が緩んだ。
「あんな、古橋君」
「はい」
「ワシはずっとキミは花宮が情愛で好きやとは思っとらんかった」
「はい。合ってます。俺にとって花宮は趣味ですから」
「歪みあらへんなあ。ま、だから古橋君には他に好きな人が居らんのやと思っとったわけや。いやな、バスケ部の面子はそれなりに好きそうだと思とるけど」
「はい」
「つまりなあ、ワシは今キミに告白されるなんてこれっぽっちも思わんかったぐらいには脈ナシやったんや」
「はい」
 古橋君の瞳がゆらりと揺らいだ気がした。綺麗だなと思った。他人の不幸が蜜の味ということではなく、人が感情を表す行動がとても綺麗だと思うのだ。
「ってことなんやけど、けどなあ、案外分からんもんやな」
「今吉さ、」
 古橋君の手をワシの頬から剥がし、指を絡めてぎゅっと繋いだ。古橋君は期待と不安を目の色で露わにしていた。それがとても愛おしく感じた。
「ワシ、さっきので好きかもって思ってしもたんや。やから、」
 繋いだ手を少し揺らしながら、ワシは嘘偽りない笑顔で言った。
「ワシを完全に堕としてな、古橋君」
 古橋君が目を見開く。そして嬉し気に、ワシを抱き寄せた。そして耳元に口が寄ってきたのを感じて、それは予想外だと少し焦る。
「好き」
 絶対に堕としますから。と、最後まで聞く前に、嗚呼もう堕ちてしまっているかもなと自嘲の笑みが頬が染まるのと同時に浮かんだ。

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