命の木の下で/諏佐(→)←今/謎パラレル
諏佐さんと今吉さんが幼馴染
子を孕むという言葉が多用されていますご注意ください。
妊娠ネタとはちょっと違うような気もします。



 今吉は木だ。命の木だ。その体には男にはあり得ない筈の、子を孕む機能が備わっているという。脈々と受け継がれてきたものだと、今吉が微笑んで下腹部をさする。そこに女のような子宮があるのかと聞いたのは昔の話。今吉はけらけらと笑って否定した。
「こどもはしきゅういがいからもうまれるんやで」
 俺はそのことを聞いても理解出来ず、ただ漠然(ばくぜん)とそうなのかと思った。何と無く、今吉翔一という人間が人間離れしたような人柄だからそう思えたのかもしれない。他の人間が言ったら間違いなく俺は否定するだろう。その、子を孕む機能というものを。
 そしてそのことをきちんと理解したのは中学生になってからだった。今吉が花宮の子を孕んだと微笑んだのだ。その時の俺の苦々しくてたまらい気持ちをなんと言おうか。しかし今吉はけらけらと笑うのだ。
「正確には人間の子やないで」
 その言葉に、俺は吃驚して間抜けな顔で今吉を見た。今吉はそんな俺をけらけらと笑いながら続けるのだ。
「花宮の気持ちから生まれたモノの欠片に、ほんの少し腹を貸しとるんや。」
 もう、子供みたいなものだと今吉は笑った。俺はぼんやりと聞いていて、ゆっくりと、人間の子ではないのだなと確認した。今吉は笑って頷いた。それから一ヶ月後、今吉は産まれたと笑って俺にそれを見せた。黒くてドロドロとしたヘドロのようなそれに、俺は顔をひくつかせた。今吉曰く、産まれたばかりで形が安定していないらしい。そのうち綺麗な小鬼になるでと今吉は笑って、ヘドロのようなそれの一部を指差した。そこを覗き込むと澄んだ紫色のビー玉のようなものがあった。これが本体なのだと、今吉は母の顔で笑った。
 それからも今吉は時々だれかの思いのカケラを孕んだ。そして二週間から二ヶ月が経つと、産まれたと俺に報告してきた。その度に今吉は誰のカケラのどんな気持ちなのか、今後どういうモノになるのかを教えてくれた。そして高校生となって、今吉は青峰の思いのカケラを孕んだ。
 カケラは一ヶ月で今吉から産まれた。それは黒くてドロドロとしたヘドロのようで、俺は既視感を覚える。これは、何処かで見たような気がする。今吉はそんな俺に気がついたらしく、にこにこと笑って言う。
「おんなじやから」
 俺が首を傾げると、今吉はいつものように誰のカケラで今後どういうモノになるのかを教えてくれた。しかし、どんな気持ちかを教えてくれなかった。そこではたと気がつくのだ。これは花宮の時と一緒だと。そう言うと今吉は少し考え込んでから言った。内緒だと前置きをして。
「これは恋の気持ち」
 今吉はひそひそと内緒話をするように続ける。これは恋の気持ちでとても不安定なもの。繊細なモノだからなるべくそっとしておかねばならないと。俺はそうなのかと青峰のカケラを見た。それは相変わらずヘドロ状で、何と無く不安定さとかそういうものが分かった気がした。
「諏佐はその子が気になるか?」
 俺はゆるく首を横に振ってから、何と無く思いつく。思いついたら聞かねば気が済まなかった。
「今吉は俺のカケラを孕んだことがあるのか?」
 そう言うと今吉は今まで見たことの無いような、喜びと落胆と呆れの混じった複雑な顔をしたのだった。

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