!未来捏造!



 始まりは何だっただろうか。ベンチと客席で、ふと目が合ったような気がしたあの時だろうか。気になりだしたら、止まらなかった。それは初めから恋愛感情だったわけではなく、純粋に今吉翔一という人間の面白さに嵌まり込んで行ったのだ。あれが初まりとすれば、俺こと宮地清志は高校二年の夏に今吉に恋をした。

 親交を深めたのは三年生になってから。晴れてスタメン同士となって、何度か主将の集まりに大坪の迎えという名目で顔を合わせ、今吉の連絡先を手に入れるまで会話するように仕向けた。メールでのやり取りは一週間に一回だったのが、会話がお互いに楽しくなれたのか、すぐに頻度が上がった。何度か二人で遊んだこともある。その頃の俺は自分の恋情に気がついていて、ひっそりとデートだと喜んだ。
 それからは怒涛の高校生活最後の1年だった。WCを終えた後、受験勉強の合間にこっそりと会った。受験が終わった春休みの最中に合同合宿という名の親睦会が開かれることとなった。俺は大坪より今吉から先にその話を聞いて、大坪に親睦会のことで口を挟んでしまい、危うく今吉との関係がバレそうになった。そもそも同学年にはバレているのだし、今吉とは友達でしかなかったのだけれど。
 合同合宿はキセキ獲得校と誠凛と霧崎を含めた七校だった。改めて誠凛と霧崎の正反対さとそれ故の類似に思わず感動に似た感心を内心でしたものだ。部屋割りはくじで決まり、今吉と同室を願いながら引いた。くじを全員で開示した時に今吉と同じ1号室だと分かったときは思わずガッツポーズをして木村に小突かれたのだが、すぐに高尾が同じ部屋ですねなんて近寄ってきて殺意が湧いた。何時もの脅し文句を受け流す高尾にイライラしていたら今吉が寄って来てよろしゅうと笑った時はもう高尾のことは忘れようと思った。お前は可愛い後輩だが可愛くない。一部屋に四人だったのでもう1人を探すとなんと誠凛監督の相田さんで、俺たちは大いに焦った。今吉は赤司に真っ先に教えに向かったのだがその歩調は何時もより早くて焦っているのだと分かった。結局、手違いだったので、影の薄さでくじを引き損ねていた黒子が同じ部屋となった。原因はお前か。だがその影の薄さはどうしようもないんだったな。そうして始まった合同合宿は交流を深めるのが目的だったこともあり、賑やかに過ごした。二泊三日で、初日は半日は同室四人で行動し、半日はどうにか今吉と二人きりで過ごした。まあ途中で悪童の花宮が乱入したり桜井率いる桐皇が特攻してきたがなんとか二人きりの時間を多く取れたと思う。というか青峰や若松が率いっていないことに、ツッコミを入れたが今吉に桐皇の特攻隊長は桜井やでと遠い目をされた。初日の夜は四人で和気あいあいと会話をして早めに寝た。二日目は全員早く目が覚め、黒子と高尾が火神と緑間に特攻しかけにいくと張り切って出て行き、今吉と二人で朝のロードワークをした。広い施設の中、途中で笠松や岡村などの同学年メンツや、桜井と実渕という謎の組み合わせに出会ったりした。桜井と実渕は同室でも無かった筈なので一体何だったのか。合同合宿以降に急に仲良くなったと今吉経由で知り、意外な人同士の波長が合うのだなと再確認した。ちなみに桜井は実渕をお姉様と呼んでいるらしい。何故。朝食後の午前中は桐皇と秀徳のスタメン対決なんてものが実現し、そこで高尾や若松に今吉との仲をとても訝しがられた。そして午後、夕飯の時に合宿前から仲良くしていることがバレて一悶着あった。そしてその日の風呂上がりに、俺は今吉に告白したのだ。頷いてくれた今吉に、歓喜のあまりみゆみゆに見せたことがないくらいの笑顔が出ていたと思う。部屋に戻ると黒子にその笑顔を見られており、黒子に真っ先に教えるという謎の状況に陥った。最終日の朝食に色々あって恋人宣言をした時は、それはもう大騒ぎだった。結果的に大半に祝福され、照れる今吉はそれはもう愛おしく感じた。あと何人か今吉を狙っていた奴が居たらしく、その後で再度しっかり恋人宣言をした。なのでその最終日は恋人として一緒に過ごす時間が多かった。ただ緑間にあまり恋人らしくないですねと言われるぐらいにそれっぽい事も雰囲気もしなかった。合同合宿後は恋人として過ごし、大学は同じ大学だった。俺は超頑張った。学部は違うが同じ大学でよく会った。半年ぐらいでペアリングを買った。その後わりとすぐにお互いの両親に恋人として会った。俺の両親は恋愛相談なんかもしていたのですんなりむしろ祝福されるのは分かっていたが、まさか今吉の両親も祝福してくれるとは思わず驚いた。そして両親同士が何故かとても仲良くなるということに発展し、嬉しいやらなんやらで今吉と笑いあった。
 それから半年後、同棲を始めた。最初は些細な喧嘩が多かったが、なんだかんだでお互い妥協点を見つけて中々居心地良く暮らせていた。大学を卒業して、就職してからも同棲は続いた。仕事が落ち着き、自分たちも精神的に落ち着いた三十代間近。両親達がいきなり海外に行くよと連れ出した。待っていたのはサプライズウェディングで、俺と今吉は真っ白なタキシードを着て結婚式を挙げた。代々の結婚指輪を交換するなんてこともして、何から何まで驚かされ、幸せな気持ちになった。婚約指輪は後日日本で改めて買った。なんと高尾がデザインした指輪だった。それも高尾だけではなく、緑間や大坪や木村、かつての桐皇面子も参加したデザインだった。あまりに嬉しすぎて俺たちは泣いた。

 その指輪は今、タンスの上に元桐皇元秀徳スタメンと両親と俺たちの集合写真の隣に、二つ寄り添って飾ってある。普段付けているのは学生時代に買ったペアリングで、俺も今吉も心から満足している。あまりに嬉しすぎた指輪は付けられないほどだったのだ、毎日眺めているのでどうにか許してほしい。そういえば戸籍は今吉が宮地家に入った。なので、というより恋人になって半年後に今吉から翔一と呼び変えている。肝心の今吉は大学を卒業するまで苗字呼びだったのだが。
「清志くんが難しそうな顔しとる」
「お前のことだよ」
「なんや、いつの話なん」
「名前をなかなか呼ばなかった話」
「それかあ。恥ずかしいモンは恥ずかしかったんやで。」
「それでも、あの時は悩んだりしたんだ」
「その話何度目やろ」
「何度でも言うからな」
 クスクスと笑う翔一がキッチンから帰ってくる。今日は翔一がオフだったので料理を翔一が担当したのだ。翔一の料理はどんどん上達するなと思いながら、あの指輪を見る。すると翔一も指輪を見た。あれからまた10年、俺たちは五十代後半でそろそろ六十代だ。
「なあ清志くん」
「なんだよ」
「いつまでも一緒におってな」
 そう言った翔一の笑い皺のある顔は優しく微笑んでいて、俺はもちろんだと笑って昔より痩せた体を皺のある手で抱きしめた。仲間達の思いが詰まった指輪がタンスの上でキラキラと輝いていた。

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