白い布を纏う彼がとても眩しく見えた。


『レッド・データ・ボーイ・ミーツ・ボーイ』


今時珍しいのだろう。俺たちは出会ってからキスはおろか、手に触れたことすら数回しかなく、プラトニックな恋愛関係を続けていた。1度だけ、そのことを小学生より幼い恋愛だねと笑われたけれど、そんなことはないと思う。恋人だからキスをしなければならないわけでもあるまいに。俺たちはそろって世間の一般常識へ感心が薄かった。俺は俺の正しいと思ったことを信じるし、疑う。目の前の彼だって同じだ。だからと言って俺たちは"同じ"ではないのだけれど、それは今話すことではない。
とにかく、俺たちは今時珍しい若者のだろう。

「別に古風だとかそういうことじゃあらへんしなあ」
「俺もお前も頑固なんだろ。周りに流されたくないと意地になってる。」
「でも、苦じゃないんやろ?」

にこりと笑みを浮かべた今吉に、俺は無言で肯定した。今日のデートは今吉がプランニングした。

「とっても綺麗なんよ」

楽しみそうに歩く今吉に、俺は愛しさがこみ上げてくるを感じた。愛らしいからじゃなく、今にも鼻歌を歌いそうな今吉はとても魅力的に見えたのだ。惚れた弱みというものかもしれない。

今吉に連れて来れられたのは教会だった。結婚式も行える、大きなそこは大きく美しいステンドグラスで有名だ。
教会に入ると真っ先にステンドグラスが目に入る。薄暗い教会内に日光で煌めく、大きなステンドグラスは圧巻だ。描かれているのは花だろうか。

「綺麗やろ」
「ああ、そうだな」

赤と青と黄と橙と。美しく発色の良いガラスが光の中でわずかに混じり合い、より複雑で美しい色となって床に落ちる。
視線をずらして今吉を見た。今吉は少し遅れてこちらを見た。来て良かったやろと笑う彼に俺は同意する。近づいてみよかと言うので二人で祭壇の近くの椅子まで歩いた。

そのとき、こちらに修道服を纏った老女が歩いて来て、微笑んだ。その腕には白い布。

「こんにちは、お兄さん方」
「こんにちは」

お婆さんはにこにこと、お似合いだねえと笑う。見抜かれたかと思いながら、今吉を見ると少しばかり困ったように笑っていた。しかしお婆さんは気にせず白い布を差し出した。

「えっと、」
「シーツだよ、ヴェールじゃなくてすまないねえ。」
「いや、そういうことじゃ」
「ええやないの、お婆さんおおきに」
「ふふ。そうだねえ、眼鏡のお兄さんはここに座りなさい」

今吉が素直にお婆さんの前に座ると、お婆さんがばさりと今吉の頭に白いシーツをかぶせた。ヴェールのように整えて、お婆さんはにこにこと微笑む。そして俺を呼び寄せて座らせ、白いシーツを俺の頭にかぶせた。やっぱりヴェールのように整えると、お婆さんは二人はお似合いだねえと笑った。

俺は今吉を見る。段差に座る今吉に、ステンドグラス越しの光が降り注ぐ。ぼんやりと様々な色に色付くシーツはまごうことなき白だと改めて認識した。そんなシーツに包まれた今吉は恥ずかしそうに笑っていた。ただただ、眩しかった。

(いつか、なれたら)

約束出来たら、どれだけ幸せなのだろう。

お婆さんにシーツを返してお礼を言って、教会を出る。今吉が来て良かったかと聞いてきたので、俺は頷いた。

「良かったわあ」
「なあ、」
「ん?」

俺はそっと隣を歩く今吉の手に指を絡めた。今吉はビクリと震えて、ゆっくりと手を握り返した。

「明日はどうする?」
「明日は学校やろ」
「明後日は?」
「また学校」
「午後からだろうが。」
「バレとったかー」
「だからよ」

俺は繋いだ手に少しだけ力を込めた。

「指輪、選ぼうぜ」

目を見開いた彼は、やがて笑うのだろう。

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