宮今/好きなひとの未来


 宮地の大きな手が、己の手に絡む。あ、と思う。こいつ、甘えたいのか。今吉はそう気がついて、くつくつと笑った。
「なんだよ」
「別に。ええよ、おいで」
 不服そうながらに、ぎゅっと抱きしめてくる。腕を自由にさせてもらって、良い子と自身より大きな背中を撫でると、大人しくなった。
「で、どうしたん」
「進路」
「また親御さんと喧嘩したんか。そろそろちゃんと話さなかんよ」
「分かってる」
 でも、譲れないから。宮地が今吉の背骨をなぞるように撫でる。ぞわりと甘い痺れを感じたが、無視する。今はただ、迷子のようなこの子を甘やかさねばと、今吉は集中する。
「怖いんか」
「……ん」
「そうやろなあ」
 確定されない未来は怖い。人は、いつ何時も、未知を恐ろしく思う生き物だ。それはきっと、太古から変わらぬ特性だ。
「ワシは離れてやらんからな」
 どんな進路を選ぼうとも、今吉は離れてやれない。離れてやらないのではない。やれない、のだ。そう笑うと、宮地は当然だと言いつつも彼らしくないか細い声を発した。
「今吉は、俺のだ」
「わはっ、独占欲!」
「うるせえ。轢くぞ。同じだろ」
「ん、せやな」
 お互い様。今吉が愉快そうに体を揺らす。背中をぽんぽんと叩くと、宮地は抱きしめる力を強くした。痛いが、きっと宮地の方が痛いのだ。

 今吉よりずっと、お利口な子どもだから。

「泊まらせてくれ」
「ええよ。もう寮母さんに話しといた」
「早い」
「甘えん坊だって分かっとるからな」
「甘やかせ」
「目一杯甘やかしたるわ」
 今だってそう。今吉が言うと、そうだなと宮地は小さく返事をする。
 高校生の進路。きっと数年後には笑い話になってしまう。ただ、今は真剣に悩ませてほしい。宮地は本当に苦しんでいるのだから。今吉は信じもしない神に語りかけるように言う。
 もしも、未来が分かったら。きっと今吉は自分ではなく、宮地の未来を問うだろう。最愛の人に、最もふさわしい未来を、願うだろう。
「今吉」
「なんや?」
「好きだ」
 泣きそうな声だった。甘えん坊な声を出したらいいのに。今吉はただ、彼に抱きしめられたまま。
「おんなじや」
 季節は冬。冷たい空気がストーブで熱せられて部屋を暖める。なのに宮地の体は冷たくて、今吉までもが凍えそうだ。
 今吉の、存外殺風景な部屋。そろそろ夕飯時だから、寮のご飯もらってこないと。この子は今、とてもじゃないけど人に会えないから。今吉はそんな事をほんのりと考えたのだった。

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