隠した宝物を腐らせた/笠今/掌編
かくしてかくして。
ぼくとおひめさまはしあわせになりました。
例えばの話。笠松はそう言った。
「お前を監禁してまで欲しいってやつが出てきたらどうする?」
「そんな酔狂居らんわ」
「例えばだって言ってんだろ」
そうやなあと、ワシは考える。監禁とは、重い。そんなに重い気持ちは、自分には釣り合わない気がした。
「ワシのこと知ってもらう……ってのはどうやろ」
「無視するんじゃないのか」
「笠松はその答えじゃあかんって言いそうやし、ま、例えばの話やろ?」
「それもそうだな」
その指で白いコーヒーカップをなぞる。そんな動作も愛おしく見えてくるのだから、恋愛って偉大だと思った。恋は盲目というやつかもしれないが。
現在地、路地にある隠れた名店。カフェなんだか喫茶店なんだかよく分からないが、美味しい珈琲とパン類がある、静かにデートするなら良いところだ。
「監禁なんてしたら腐っちまうのにな」
「それは物理的になん?」
「どっちも」
だってそうだろと笠松はコーヒーを一口飲んでから言った。
「ナマモノだから腐るし、隠してばかりじゃ発狂しそう」
「せやなあ」
でもま、とワシは自分のコーヒーを覗き込む。
「それ以上は食事に合わんから、別の話にしてくれん?」
「それもそうか」
悪かったと言いながら、それでもと笠松は、ふっと笑った。
「隠したい気持ちは分からなくもねえな」
「……ワシは好きやないわ」
だろうなって、笑われた。