それは可愛く御座いません/黛今/掌編/未来捏造/社会人


 手のひらに乗せられた小さな鍵。それを使うのも捨てるのも、好きにしろと言ったのは彼だった。

「おかえりー」
「……何でいるんだ」
 黛の家で夕飯を作っていれば家主である彼が帰ってくる。彼はワシがカレーを作っているのを見て、またかと言うから、今日はチキンカレーやぞと小突いておいた。
 あらかじめ茹でておいた鶏肉をほぐして、炊きたてのご飯の上に乗せる。その上からカレーを注げばチキンカレーの出来上がりだ。付け合わせの胡瓜とトマトのサラダも用意して机に並べる。着替えてきた黛を座らせ、向かい合って手を合わせる。いただきますと挨拶をしてからワシと黛は夕飯を食べ始めた。
「で、何でいるんだ」
「鍵渡したんは黛やろ」
 いつ来たってもええんやろと笑えば、こっちの用事ぐらいあると言われた。
「何や、彼女できたんか?」
「お前がいるだろ」
「ワシは彼女とちゃいますー」
 お代わりならワシが盛るからと言えば、ふむと黛は顎に手を当てた。
「彼女じゃなくて嫁か」
「ちゃいますー。寝言は寝て言えや」
 空になった黛の皿を受け取ってカレーライスのお代わりを盛り付ける。大体とワシは呟く。
「ワシと付き合わん言うたのは黛やろ」
「……そうだったか?」
「あ、忘れとる。酷いわーワシ結構傷ついたんやぞ」
 酷い男だと笑いながら皿を渡せば、それならと彼は立ったままのワシを見上げながら言った。
「付き合うか」
「遅いわ」
 アホかとため息を吐けば、上目遣いをしてやったのにと言われる。ああ本当に。
「可愛くないやつやなあ」
「お前は可愛いけどな」
「煩いわ」

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