10.幸せな未来の話をしようか/村今/掌編


 幸せな未来の話をしようぜ。木村はそう言って笑った。何が幸せなのか。そう言えば、マイナス思考になるなよと苦笑された。
 場所は木村の家、さっきまでお店の手伝いをして、それが終わっところ。二人で木村の部屋に入り、クーラーをつけ、冷たい麦茶を飲んでおばさんがくれた少し熟れすぎた西瓜を食べた。種が少し落ちているものの、ちゃんと美味しく食べれる西瓜だったので、少し悪かったかなと思った。
「俺たちの未来にごく普通の幸福は無いだろうな」
「せやろな」
「だけど、不幸であると決まりきったわけじゃねえ」
 そうだろうと木村は目を伏せがちに西瓜を片付けながら言った。何かを思い出しているのだろう、皆で会ったこの間の休日の事かもしれない。
 木村の言いたい事は分かる。ワシはこの関係に対し、悲観的で報われないもの、不幸せな未来があるものと考えているが、それが誰に決められたというのか。誰にも決められていないし、誰にも決める事はできない。ただ、当人であるワシ達だけが未来を形作るのだ。
 だから、ワシが悩むのも暗く落ち込むのも、全ては空振りの無意味でしかなくて、ただ、がむしゃらに前を向くべき時なのだろう。変えられない過去を変えようなんて悩むのは、バカらしいと木村は言った。
「もう今吉は俺たちのなんだからな」
「ワシは物やないで」
「例えだろ」
 まあ俺にしてみればと木村は目を細めた。
「今吉は梨みたいだと思うけどな」
「その心は?」
「見た目は無愛想なのに食べると甘い」
「なんじゃそら」
 だからさと木村はクツクツ笑った。
「幸せな未来の話をしようぜ。俺たちと、お前の、幸せな未来をさ」
 きっとある筈だろうなんて、分かりっこないことを、窓越しに蝉の声が聴こえる部屋の中、場違いなほどうららかに言い切ったのだった。

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