9.論より証拠ってことですよ/坪今/掌編
作業用BGM→ヒステリック&ロンリー(GUMI)

 優しい人だと思っていた。実際優しかった。だけどそんな人がこんな風にワシを共有する仲になんてなるのは、あまりに哀れだと思った。
「哀れだと、滑稽だと思うんだろう」
 声に出てたかと手で口元を覆えば、何となく分かったんだと真面目な顔で言われた。
「なんやそら」
「俺らしくないと言われた気がしたんだ」
「その通りやろなあ」
 そうだろうと大坪は編み物に視線を戻した。大坪の部屋、二人きり。たまに鳴るのは、恋仲達とのライングループのメッセージ。
「特に、大坪が拒否ると思ってたんやけど」
「そうか」
「やって、真面目な人やから」
 そうやろと言えば、真面目じゃないさと言われた。そうだろうか。
「ちなみになに編んどるん?」
「今吉に贈る手袋だが」
 冬が来る前に完成させないとなと言われて、真面目な人やんと言った。そうすると、むしろと大坪は編み物を続けながら言った。
「むしろ論より証拠というやつじゃないか」
「……は?」
「贈り物だからな」
 形が残る、立派な証拠品だろうとどこか不器用に笑われて、ワシはああなんだこの人はと呟いた。
「ずるいお人やなあ」
「それはよかった」
 本当にずるいひと。

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