今吉愛され/恋のはじまる音がする/合同合宿/挨拶編で力尽きました。そのうち続きを書くかもしれない。/50000hitお礼リクエスト企画作品になります。ちー様リクエストありがとうございました!


 とある冬の日。
「合同合宿?」
「らしいわ」
 諏佐が言った言葉に、ワシは頷く。
「なんや、赤司が交流会を兼ねて開きたい言うてな」
「主将グループで決めたのか」
「というより、赤司が宣言しただけなんやけど」
 でも赤司が宣言したということは決定事項なんだろうなあとワシは遠い目をした。赤司のことだから、キセキを集めてワイワイしたかっただけなんだろうなあとも思った。
「参加校はキセキ獲得校と誠凛やって」
「そうなのか」
「……なんや機嫌悪そうやな」
 僅かに声が低い諏佐の顔を見れば、いや別にと目をそらされた。
「ん?」
「開眼するな。ただ、虫対策が必要かと思ってな」
「虫?」
 そら、合宿なら山で開催されることもあるだろうが、女子でもあるまいし、そんなに気にすることかと頭を傾げれば、諏佐は気にするなとスマホを取り出していた。

 かくして、合同合宿が開催されることとなった。


………


 一日目。山の中にある施設にワシ達桐皇バスケ部は立っていた。
「ワシらが一番乗りか」
「そうみたいですねスミマセン!」
「いや、なんも桜井は悪うないけど」
「あ、海常がそろそろ着くそうですよ!」
「おー、桃井はキセキのグループで連絡とっとんたんか」
 えらいえらいと褒めれば、桃井ははいっと笑顔で返事をした。見慣れはしたが、やはり美少女の笑顔はキラキラしてて目が潰れるかと思った。
「あ、そうだ。諏佐さん、頼まれたものメールで送っておきました!」
「ああ、助かる」
「今吉さんのことなので!」
 急ぎましたと胸を張る桃井に、いやなんの話と思ってると諏佐は桃井を褒めてスマホをぽちぽちと操作していた。
「諏佐はさっきからなに見とるん?」
「虫対策用グループ」
「は?」
 なんやそれはと思っていると海常のバス、そして誠凛のバスが到着した。
「青峰っちー!」
 1on1の約束してと駆け寄ってくる黄瀬を鬱陶しそうに、あーとかうーとか言って断ろうとする青峰がそこにはいた。え、なにこの光景面白い。だけどうちのエースがわりと本気で断ろうとしているようだったので、仕方ないなあとワシは黄瀬に声をかけた。
「黄瀬、今日の青峰は気分やないらしいから明日にしたってくれん?」
「え、あーっと、今吉さん?」
「そうやでー。他校の選手をよう覚えとるなあ。えらいえらい」
 ワシャワシャと頭を撫でてやると、黄瀬はぽかんと棒立ちになった。よしこれならいける。
「今日は堪忍したってな?」
 笑みを浮かべて言い放ち、青峰もそれでええやろと振り返れば、頭を抱えるうちのエースがいた。え、何。
「今吉さんって、意外と可愛いところあるんスね」
「……は?」
 目を開けて驚けば、ああいや、やっぱり何でもないッスと言って黄瀬は海常のバスへと戻って行った。おそらく荷物をそのままにしてたんだろうなあと思っていると、諏佐がぼそっと言った。
「あれは落ちたな」
「落ちましたね」
 続いた桃井に、え、何と思っていると、二人は何でもないと揃って頭を横に振った。一体何なのか。

 海常の笠松はよく3年グループで連絡を取っているから良しとして、誠凛とはあまり話したことがない。念のため日向に挨拶に行こうかと思っていると、諏佐がついて行くと言うので、いつの間にサトリを習得したのかと疑問に思った。
 まあそれは置いておいて、誠凛のバスでは相田さんと日向の指示のもと、バスから降りて点呼のち荷物運びをしていた。その中で日向を探したら、相田さんと伊月と木吉の三人で固まっていた。
「日向に相田さん、木吉に伊月もおつかれさん」
「あ、今吉さん」
 今日はよろしくと日向と相田さんに話すと、伊月が何かハッとして口を開いた。
「キタコレ!!」
 そのままメモに何かを書いていく伊月に、ああこれが例のダジャレメモかと思うと少し笑いがこみ上げてきた。
「今吉、顔がにやけてるぞ」
「そんなことないで。ただ、面白い子やなあと思ってなあ」
「え?」
 伊月が顔を上げ、ワシと目が合うとぱちりと瞬きした。なるほど桃井が言う通り涼やかな見た目のイケメンだ。
「好きなことに一生懸命なの、良いと思うで」
 趣味なんやろ、と笑顔で言えば、伊月はこくりと頷いた。なら頑張ってなと言って、そんならワシらは戻るからとその場を離れれば、諏佐がぼそっと呟いた。
「落とすのに出会って三分か」
「何やそれ、カップラーメンか」
 そう言えば、そうかもしれないなと諏佐はスマホを触りながら言った。

 バスへ戻る途中、陽泉のバスが到着したので挨拶するかとワシと諏佐はバスに向かった。
 降りてきた陽泉のメンバーのうち、福井が真っ先にワシらに気がついた。流石のアンセルフィッシュ。氷室や劉がぺこりとお辞儀をするのでワシも頭を軽く下げて、それからお菓子をサクサク食べている紫原を見た。
「あー、紫原、それ食べ過ぎとちゃう?」
「べつにー」
 関係ないでしょとさらにお菓子の袋を開けようとする紫原に、いやいやとワシはその手に手を置いて止めた。
「ちゃんと昼食食べるんならええんやけど」
 どうなん?と小首を傾げれば、紫原はぱちぱちと瞬きしてから気まずそうに目をそらした。
「食べるしー」
「ほんならどうぞ」
 あ、特別にあーんしたろかと嫌がらせ目的に言えば、諏佐にスパンッと頭を叩かれた。
「何なん?!」
「虫がいたからな」
「はあ?!」
 福井がオラさっさと行くぞと紫原を引っ張って施設に入っていくのを、ワシは何やかんやで陽泉も仲良しやなとほのぼのした気持ちで見ていたのだった。

 施設に入って荷物を部屋に置き、諏佐と共に施設を探索していると、ふと目に入ったのは赤司と黛だった。
 主催者がやっと到着したのかと思いながら、赤司とそう大きくない声で呼んだ。するとくるりと振り返ったので、赤司も地獄耳持ちかとワシは苦笑した。
「どうしましたか今吉さん」
「いや、主催者に挨拶せなと思ってなあ。二泊三日、よろしゅうな」
 こちらこそよろしくお願いしますと笑みを浮かべて握手を求めてきた赤司に、よろしくと握手をした。
「時に、今吉さんは将来の予定などは決めていますか」
「ん? とりあえず大学受からんとなあ」
「そうですか」
 では、と何かを言いかけた赤司の頭をスパンッと黛が文庫本で叩いた。ってそれお気に入りのラノベやろ、しかも赤司の頭を叩くってお前。
「赤司、そろそろ集合時刻だろ」
 そうして赤司の首根っこを掴んだ黛は、無表情でそれじゃあと言って去って行った。大人しく引きずられてる赤司が怖い。それ以上に、赤司を引きずっていく黛が、怖い。
「フリーダムだから許されるんだ」
 黛にしか出来ないから助かったと諏佐が言うので、何かあったかとワシは首を捻った。


 そうして集合時間となり、ロビーに集まった皆の前で、何やら不満そうな赤司が合同合宿の開催を宣言したのだった。

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