7.運命なんかより確かな話で/福今/掌編


 運命の人ってあるやろ、ほら、森山がよく言うあれ。
 ワシがそう言えば、福井は突然だなと呆れ顔で言った。
「なんだ? 俺たちの中にその運命の人が一人だけいるって?」
「そないなこと言うとらんよ」
「じゃあどういうことだよ。俺はお前の思考を読めるほど頭良くねえし」
「なんで妙なところで自虐的なん? 福井は福井で頭ええやろ」
「どうだか。で、答えは?」
「んー、ワシやなくて、皆の方には運命の人が居るんやろなあって」
 そう言えば、福井は心底呆れた顔をして、お前ってさあと座るワシの頭をガシガシ撫でてぽんと手を置いた。
「好きだ」
「……ん?」
「好きだって言ってんだろ」
 突然のことに顔を上げれば、ベッドに座る福井はワシを上から見て、にっと笑った。
「好きだっつうの。聞こえてるだろ?」
「え、今そういう話やっけ」
「そうそう。だって俺は運命とかいらねえもん」
 そうして顔が近付いてきて、額にキスが落とされる。思わず顔を赤くすれば、福井はまたにっと明るく笑った。
「運命とかよりお前の方が好きなんだよ」
 だから、変なこと考えんなと言われてしまい、ああなんてことだとワシは苦笑した。
「まさか福井にサトられるとはなあ」
「お、当たったのか。ラッキー」
「しかも当てずっぽうで」
 あーあ、ワシも落ちぶれたモンやなとため息まじりに言えば、それだけ心を許したってことにしようぜと言われ、なんやそれと笑ってしまったのだった。

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