4.あなたの勝ちでいいので抱き締めてください
宮今/掌編


 例えば、その手が辿る文字の列。例えば、その腕が伸びる先。例えば、その足が向かう処。そういうものに、嫉妬する。
「やきもちやきか」
「当たり前だろ」
 彼奴らなら兎も角と言えば、わははと腕の中の今吉は笑った。ああ敵わない。敵わないから、こうして抱きしめたくなる。唯一、俺が今吉に勝てることはこの身長ぐらいなものだろう。
「そんなことあらへんよ」
「ある。ていうかサトんな」
「宮地は分かりやすいからなあ」
 でも、と今吉は何やら複雑そうに拗ねた顔をする。
「やっぱり敵わなんなあ」
「なんだそりゃ」
 訳がわからないと言えば、今吉はそれでいいんだと笑った。今日は喜怒哀楽をやけに表すなと、思った。
「宮地の勝ちでいいからもっと抱きしめてくれへん?」
 もっと強く、骨が軋むほどに強く。そうすれば、ワシはまざまざと負けた気持ちを味わうのだから、何て、らしくない。
「今日のお前変だぞ」
「ええの、そろそろ諦めなあかんなと思ってな」
 だから不安など吹き飛ぶほどに抱きしめてください。今吉はそう言って俺の胸に額を押し付けたのだった。

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