三日目・早朝編


 合宿三日目、俺はまだ日が昇ったばかりの頃に目が覚めた。
 ふらりと起き上がって身なりを整え、外に出ようとする。途中で黄瀬が起き上がって、護衛すると言ってくれたので一緒に分館の外へ出た。
 海常が泊まる葵館の隣は桐皇が泊まる水仙館だ。今吉に会えたらと思ってそちらを目指していると、水仙館の近くには川があることに気がついた。その川辺に、今吉と諏佐がいた。

 黄瀬が諏佐さんと言って駆け寄り、二人で何やら話をしている。俺はそんな二人を見ている今吉へとそっと近寄った。
「今吉」
「ああ、笠松やん。おはようさん」
「おはよう」
 今吉はまたぼんやりと諏佐達を見つめる。パートナー契約を交わし、様々な怪物との戦いを重ねている故、諏佐と黄瀬は仲良さそうに見えた。その仲の良さが、未契約者の今吉には羨ましく見えるのだろうか。少なくとも、俺は羨ましく感じたのだが。
「ワシはな、石化系Sクラスなんや」
 ふと、今吉が言った。夜の水分を含んだ風が、朝の日差しを浴びて駆け抜けていく。今吉はへらりと笑っていた。
「同クラス以下の怪物なら全て、石化できる」
 石化"系"であって特化ではない。つまり、石化以外にも幾つかのスキルが使えるのだろう。昨日の夜中、水戸部の即死スキルからすると一見格落ちに見えるが、実際はスキルが豊富な上に条件が少ないのに強力な石化スキルを持っている。同じSクラスでも、こんなに違うものなのか。
 これは星座連合が黙ってはいないだろう。だが、今吉がパートナー契約をすることを連合は禁じた。それは何故か、それは勿論、今吉を管理しきれなくなるからだ。もし契約をした今吉が旗印となって連合に逆らった時、Sクラスから跳ね上がった今吉を連合は止められない。たとえ、それが攻撃手段を持たない姫だとしても。
(それでも俺は)
 契約をすることで、俺は今吉の為に戦いたかった。女王の庭を発動する前、不安そうに手を握って欲しいと願った今吉の、その心のやわいところを守りたいと、思った。
(本当は優しいお前の刃になりたい)
 そう言おうとして、心の内に留めておく。今はまだ、俺と今吉がパートナー契約を結べるか分からない。緑間は七割の未来を見た。三割は、大きい。
(刃に、なりたい)
 それだけの魅力を、今吉は持っている。俺はそう信じている。ぎゅっと手を握り締めれば、今吉がそうだと声を上げた。
「森山と相田さんの契約祝いをせなあかんな。赤司がもう計画しとるんやろか」
「あ、ああそうだな。赤司だから何かしら考えてるだろ」
「せやろなあ、でも一応話に行こか」
 そうして諏佐と黄瀬に声をかけ、四人で洛山の木蓮館へと向かったのだった。

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