6.だってそれって恋しちゃってる/黛今


「『だってそれって恋しちゃってる』?」
 今吉が読み上げたラノベのタイトルに、黛はその通りと頷いた。

 たまたま某コーヒーショップに入ったら相席でもいいですかと言われて、頷いたらその席には黛がいた。あの店員、黛を認識できるって何気にすごい人やな。
「とりあえず飲み物頼んでくればいい」
「ほなそうさせてもらうわ」
 荷物よろしくと置いて、財布片手にレジへと向かった。頼んだのは抹茶フラペチーノで、コーヒーショップなのにそれを頼むのはどうかとも思ったのだが桜井が美味しかったと勧めてくれたのが嬉しかったので頼むことにした。
 席に戻れば、珍しい者を頼んだなと黛が本を机に置いた。黛の前にはカスタマイズされたカフェオレらしきものが置いてあり、お互い様やないかと笑ってしまった。
「黛はどうしてここに来たん?」
「外で本を読みたかった」
「そんなわけないやん。ここ東京なんやで」
「流石はサトリだな」
「サトリは関係ないやろ」
 何となくだと黛はぼやいた。
「諏佐が、今吉がここ来るって言ってたから来た」
「……は?」
「お前抜きのSNSグループあるから」
「は?!」
 なんやのそれと言えば、しょうがないだろと黛は言った。
「お前を攻略するには必要だからな」
「攻略って、きみなあ」
「女子の中で難攻不落と言われてたらしいぞ」
「え、ワシそんな噂があったん?」
 知らなかったと、本気で吃驚していると、知らなかったのかと黛は逆に驚いたようだった。
「とりあえず、そのグループはなんかもうええわ。いちいち突っ込んどったらキリがない」
「そうだな。俺たちの関係からしてツッコミ所は多い」
「おー自覚しとるん。偉いなあ」
 ワシが笑えば、黛は子供扱いするなとワシの頬に手を伸ばした。公共の場で何をする気だと手を払おうとして、静かにと言われてしまう。

 そうしてゆっくりと頬を撫で、目尻をゆるりと撫でた指先に目を閉じれば、唇に感覚。キスされたと思ったら、ぱっと黛は離れた。
「騒ぐなよ」
「さ、さわ、騒ぎたいんやけどこの、あほか」
「普段なかなか会えないんだからこれぐらい許せ」
「ほんっまに頭湧いとる」
「恋人にキスぐらい良いだろ」
「せやけど、せやけどなあ」
 ああもうラチがあかないと目をそらし、ふと見つけたのは机の上に置きっぱなしだった黛のラノベ。
「『だってそれって恋しちゃってる』」
「……どうした?」
「恋ってこういうモンなんかなと思うてなあ」
 ああ、もし人に見られていたらと思うと、顔が熱くて仕方なかった。

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