二日目・屋外夜戦編


 夕飯を食べている時も今吉のパートナーについてが頭から離れなかった。クラス突破による激痛。それがあったとしても、あの今吉と共に戦える人は幸福なのだろうと思ったのだ。そして、その幸福が羨ましかった。
 俺が彼のパートナーになれる確率は7割だ。残り3割の未来を俺は知らないが、それでも、3割は大きい。今頃になって、劉の言う言葉が俺に重くのしかかる。
 できれば、出来るのならば、俺は。
(今吉のパートナーになりたいんだ)
 理由は分からない。だけど、緑間の未来視を聞いてからの俺は、きっとそればかり考えていたのだ。

 夕食後、風呂から上がり、分館に戻ろうとしたら赤司と水戸部がやってきた。護衛しましょうと微笑んだ赤司と水戸部に、ありがとうと礼を言った。
「笠松さんは何かご存知なのですね」
 歩く途中、赤司はそう切り出した。俺はそうだなと頷くだけに留め、赤司の言葉を待った。
「言えないのなら無理に言うことはありません。ですが、」
 その瞬間、ブワッと風が舞い上がる。

 轟く雷鳴の如き唸り声、獣の巨体、頭部から首にかけての、たてがみ。

 水戸部へと着信が入る。スピーカーモードにしたそこから聞こえるのはサーチ系能力者の降旗の声だ。
『こちらから怪物を視認しました!推定される怪物ランクS1!小金井先輩と実渕さんが加勢に向かっています!』
 どうかご武運を。そう言って降旗は通話を切った。
 現れたライオンの怪物に、俺はなるべく動かないでいる。下手に動くと赤司と水戸部の邪魔になるからだ。
 赤司は空中から真っ赤な柄の槍を掴み、ブンッと振ると予備動作無しで怪物へと斬りかかった。その間に水戸部が同じように空中から銀色に輝く十字架を手に取り、両手を組んで祈りの姿勢をとった。それを確認した赤司は、俺に動かぬようにと言いつけて、怪物の攻撃が水戸部に当たらぬように腕や足を叩き落とし、咆哮による攻撃時は簡易的なバリアを張ってみせた。
 赤司の戦い方に疑問を覚える前に、小金井と実渕が到着。小金井は怪物へと突っ込み、実渕は石版を召喚した。そして文字の鎖による拘束を行うと、実渕はもう終わるわと微笑んだ。
「どういうことだ」
「見ていればわかります」
 そうして見た先、水戸部の周りに銀色に輝く文字が浮かび上がっていた。

___フィールド番号:539、対象:レグルス、現フィールドサーチ、クリーンアップ完了

___【浄化の法】発動

 瞬間、銀色のきらめきが辺りを包む。獣の叫びが辺りを埋め尽くし、目を開いたときには怪物が砂のようにきらきらと消えていく姿が見えた。
 それを人は【浄化】と呼ぶのだろう。

 S1の怪物が浄化された。つまり、即死のバステを与えた。その事実に驚き、唖然とした。怪物ランクS1で可能ならば、それ以下の怪物は全て、浄化可能なのだろう。発動に時間がかかるとは言え、攻撃手段持たない姫にとって驚異的なスキルだった。
「欠点は意外と多くあるんですよ」
 赤司は水戸部の隣で、彼の頭から消えていくティアラを横目に、苦笑した。
「発動までに攻撃を受けてはならない。浄化可能なのは同ランク以下のみ。そして何より、浄化スキルしか使えない」
「それって」
 俺が言うと実渕が口を開いた。
「回復スキルに始まる、姫の多彩なスキルの全てを、水戸部君は使えないんですよ。浄化特化のSランク能力者、十字架の女王型。それ水戸部君なんです」
 水戸部は自分の能力の幅の狭さに落ち込んだのか、おろおろと不安そうにした。しかし赤司と目が会うと、ふわと笑った。そこには赤司がいれば、赤司という剣がいれば自分は大丈夫だと心の底から思っている信頼が感じられた。
 それが、どこか羨ましかった。

 分館まで送ってもらい、部屋に入ると、海常の仲間たちは怪物のことを聞いたらしく、俺や赤司たちの無事を喜んでくれた。そして、俺が離れている間に黄瀬と森山はそれぞれのパートナーと共に別の怪物を処理したらしく、消灯前なのに眠そうに目をこすっていた。だから早く寝てしまおうと、俺たちは部屋の電気を消した。

 布団の中、浮かぶのは今吉のスキルが発動した瞬間のこと。そして、その光の中で隣に立ったこと。そこで見た今吉の笑みは、不安を感じて震えていた手は、俺の記憶にしっかりと刻まれていた。

- ナノ -