3.ただ側にいたいだけです/諏佐今/掌編


 ひっつきむし、あらわる。
 ワシの背中に当てられた手。するすると腹まで回すと、腕の主はワシの体をぎゅっと抱きしめた。
「どうしたん」
 いつに無く弱気な様子を見せる諏佐に、何かあったのだろうなと思いながらもワシはそう言うだけに留めた。どうせ、ワシとの関係や、他のメンツとの関係を他人にとやかく言われたのだろう。
 ワシだって、この関係をきちんと受け止め切れているとは思えないが、それは諏佐にとっても同じなのだろうと思う。だってそうでもなくちゃ、不安なんて覚えないはずなのだから。
「ただ、側にいたいんだ」
 それだけなんだと諏佐は言う。きっと、その言葉には深い意味と重みがあるのだろう。ただ、側にいること。それがワシたちの歪な関係にとってどれだけ難しいことか、諏佐はよく分かっている。伊達にワシと三年間同じコートに立っていたわけではないのだから。
「ホットココアでも淹れよか」
 そうすれば少し落ち着くかもなあと笑えば、諏佐はもう少ししたらとワシを抱きしめる腕を強めた。

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