せっかち



「俺ってせっかちってよく言われてさ…本当にごめん!えっと」
「あ、キョウヘイ、です」
「キョウヘイ!本当にごめん!」
「い、言えなかった僕も悪いですしっあ、あの、部屋に入りましょうっ人目が…っ」
「あ、ご、ごめん…」

怯えてる人ことキョウヘイ君がルームキーを鞄から取り出すのを見ると、そこには111号室の札がついていた。

「あれ、隣だったんだ」
「あっ、はい。110号室の方です、よね?」
「うん。俺はトウヤだよ。ルームメイトはチェレンっていうんだ。チャームポイントは眼鏡とアホ毛だからね」
「それって本人的にどうなんでしょうか…」

キョウヘイ君がそう言うと、すぐ後ろでジュンが飛び跳ねる勢いの弾んだ声で叫ぶ。

「なあなあ早く入ろうぜ!」
「ひっ!」
「ジュンは大声をださない。キョウヘイ君はそういうの苦手そうだし。というか、先に着いてたならルームキーで部屋に入っていればよかったんじゃないの?」
「ルームキー無くした!」
「はあ?!」

突然の爆弾発言に、俺とキョウヘイは驚く。それはもしルームキーが誰かに悪用されたら、なんていうベタな心配からである。

「ジュ、ジュンさん!それは、」
「ねーんだよなあ、どこいったんだろ」
「ちょ、それは大変だから。本当に無いの?せっかちじゃなく?」
「うーん。わっかんね」
「ああもう…」
「か、鞄のポケットとか、全部確認しましたか…?」
「してねえ!」

ハツラツと答えられ、思わずイラッとして俺は声を張り上げる。

「それなら確認しろ!」
「ひっ」
「あ、ごめんねキョウヘイ君」
「だ、大丈夫です…」
「あった!」
「「よかった…」」

ポケットからすぐ見つかったルームキーにも111号室の札があり、部屋を勘違いしていたことはなかったようなのでホッとする。しかしそれはキョウヘイにとってはあまり良いことではないかもしれないが。

「それじゃあ、俺は片付けがあるから」
「あ、はい、ありがとうございましたっ」
「ありがとなトウヤ!」
「どういたしまして」

俺は笑顔でそう言うと部屋に戻る。さて、チェレンの荷物をチェレンの部屋に運ばなければ。



- ナノ -