六年学者科の人



その人はこちらを向く。その人は白衣を着ていた。胡桃色の艶やかな髪とスペクトラムブルーの澄んだ両目がきらりと輝く。白い肌は病的な色ではなく、あまり見えないのに手足がすらりと長く細いのだろうと感じた。線の細いその人はとても綺麗だ。校章の色とネクタイの色から、六年生の学者科の生徒だと分かった。

「君たちは、新入生か。少し手伝って欲しいのだが…」
「え、あの」
「何をですか?」
「彼を見て欲しい」
「彼?」

俺とチェレンは植木の茂みの中を覗き込む。そしてハッとした。そこには血だらけのグラエナが居たのだ。

「どうも他のグラエナと縄張り争いのバトルをして負け、ここに迷い込んだらしい。止血は済ませてある。学園内のポケモンセンターに運んでやりたい。一人では安静に運べなくてな」
「そのグラエナは、野生なんですか?」
「そうだ。最初は威嚇されたが、何とか宥めた。手伝ってもらえるか?」
「分かりました手伝います。」
「ありがとう。君たちの荷物はゴーストに運んでもらおう。そうだ、君たちの新品の制服に血がつくのは大変だな」

そう言うと胡桃色の髪の人は白衣を脱ぎ、グラエナを包んだ。

「自分が白衣を着ていることを忘れていたぜ。止血がすんだら拭いてやればよかったな…さあ、そちらを抱き上げてくれ」
「はい!」
「はい」

俺達は三人でグラエナを安静に、けれど素早く学園内のポケモンセンターに運ぶ。ポケモンセンターは幸いにもあの桜並木から近かった。ポケモンセンターの自動ドアが開く。

「あらミナキ君!その白く包まれたのは…」
「ジョーイさん、グラエナです。縄張り争いのバトルで負けたらしくて、出血が酷い」
「ミナキ君のことだから止血は済ませてあるのでしょう?助かったわ。タブンネは担架を!ラッキーは処置室の準備をして!」

タブンネとラッキーの声を聞くと、すぐにタブンネが担架を持ってくる。俺達はグラエナを担架に乗せると、タブンネとジョーイさんがグラエナを処置室に運ぶのを見送った。

「二人とも助かったぜ。ありがとう」
「いえ、俺達は手伝っただけですし…」
「その手伝いが必要だったんだ。ありがとう」
「ジョーイさんと知り合いなんですか?」
「嗚呼。よく野生ポケモンの治療を頼んでいるんだ。自分で処置できればするがな」
「学園内で野生ポケモンとそんなに出会うんですか?」
「いや、私は学園の外の森によく行くんだ。学園内で傷ついた野生ポケモンと出会うことはあまりない」
「そうなんですか」

そこで胡桃色の髪の人が気がついたように口を開く。

「二人は新入生だったな!引き止めてすまない。今日は寮入りの日だろう。」
「あ、はい」
「お礼に男子寮まで案内しよう。荷解きも手伝いたいところだが、私は進めなければいけないレポートがあるんだ。すまない」
「いえ、寮まで案内してもらえるだけで嬉しいです」
「恥ずかしいことにここから寮に戻れないですから…」
「恥じることはないさ。この学園は広いからな。地図が頭に入っていても、実際に何度か歩かないと自由に歩けない。さあ行こう」

笑うその人に続いて俺達はポケモンセンターから出て男子寮に向かったのだった。



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