それでは十五の誕生日に、そう言って老いた男は玄関から出て行った。某然と立ち尽くす若い男と女に、近寄る幼い影ひとつ。子供は男と女に話しかける。

「かあさん、とうさん…」
「沫早矢!…聞いていたのかい?」
「ぼくは、」
「沫早矢…やはり村を出ましょう、あなた!」
「そんなことは村の皆が許さないだろう!」
「ぼくは、」

 女性は耐えきれないという風に、幼い子供を優しく強く抱きしめた。

「沫早矢、沫早矢、まだこんなに幼いのに…」
「すまない沫早矢、本当に、すまない…」
「…いいよ、ぼくは…」

 子供は賢かった。いや、子供でも分かることだった。子供は力なく笑った。

「とうさんもかあさんもわるくないよ」

 子供が全てを諦めた瞬間だった。


 それらが起こる前のこと。


 少女と天使を眩い光が包んでいた。少女の傍らの天使は床に崩れ落ちるように倒れ込み、途切れゆく意識の中で少女の名を叫ぶ。

「みっ、れい、さ、ん!う、あ、」
「ナビィ、これで、皆がもう悲しまないね。」
「みれ、い…さっ!」
「ナビィ、さよなら。今までありがとう。ううん、今まで出会った皆、ありがとう。ナビィ、後で皆に伝えて?」

 少女は儚く笑う。それに天使は目を零れ落ちんばかりに見開いた。少女の指先が鈍く光る粒となって消えていた。それは少女の体を蝕むように広がり、消えてゆく。

「そん、美玲さんが、消える、なんて!」
「何となく分かってはいたの。原因とかは分からないけど…」
「みれ、さん!」

 少女の下半身はもう消えていた。

「私は皆が悲しむのはもう嫌なの。ね、ナビィ、皆で幸せになってね」

 少女はもう、

「美玲さああああああん!!」

 天使は自分の叫び声を聞く前に意識を失った。

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