「入学式に遅れるわよー」

ドタバタと階段を駆け下りる音。少年は母親にもっと早く起こして欲しいと言ったが、母親は笑って朝食を勧めた。父親は車の鍵を、持って席を立つ。村に少年が今日から通うことになる高校が無い。高校がある街まで父親が送ることとなったのだ。
ごちそうさまと少年は席を立って顔を洗いに洗面所に走った。その後ろ姿を両親は微笑ましく眺めた。

「本当に良かった」
「ああ」
「あの子が高校生になれて、本当に…」
「…本当だな」

母親は浮かんだ涙をハンカチで拭った。父親は続けて口を開く。

「たまに、夢の中のように感じるんだ。あの子の人生がこんな風に変わるなんて、都合の良い夢の中なんじゃないかと」
「あなた…」
「でも夢じゃない。絶対に」

そう言うと父親は玄関から外に出て車に乗った。少年が洗面所から走り出て鞄を掴む。

「いってらっしゃい」

母親のその声に、少年は短い瑠璃色の髪を揺らした。

「いってきます!」




END

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