「はあ…」
「どうしたんですかナビィさん」
「あ、いえ…」

明らかに落ち込んでいるナビィに、言いたくないのならと沫早矢が口を噤む。鮭が焼けたから食べようかと台所からヤマトタケルが顔を覗かせた。
現在沫早矢が居るのはギリシャ平原のジークフリートとヴァルキリーの家だった。ではそこでヤマトタケルが何故料理しているのかといえば、一概に沫早矢が日本人だからであった。ジークフリートとヴァルキリーはギリシャ神話と北欧神話の神のため、日本人である沫早矢の口に合う料理が作れなかったのだ。そもそもジークフリートとヴァルキリーは料理が得意ではないというのもある。その点、ヤマトタケルは日本神話の神のため日本食を作るのが得意だった。

ヤマトタケルが沫早矢の食事一膳を用意して沫早矢の前のテーブルに置くと、ヤマトタケルの手伝いをしていたヴァルキリーと共にテーブルについた。ちなみにジークフリートは自分で淹れたコーヒーを飲んでいる。かと思うと、ナビィに向かって口を開いた。

「それで、どうしたんだ」
「うっ…」
「少し前までヒャクカミを忙しく飛び回っていたのに、昨日今日はえらく沈んでるな」
「ヴァルキリー様まで…」
「お茶を淹れようか。」

そう言って席を立つヤマトタケルにナビィは力なくお願いしますと言った。沫早矢はズバズバ聞くなあとモグモグと白米を食べながら思っていた。

ヤマトタケルが人数分の日本茶を淹れて各自に配ると、ナビィが話し出した。

「神様方と沫早矢さんとの繋がりを収束、橋渡しできるということは分かったのですが」
「すごいじゃないか!」
「ヴァルキリーと同意見だよ。しかし何か問題があったのかい?」
「ナビィ一人では無理そうなんです。せめてもうひとかた、神様と沫早矢さんの繋がりを収束する役が必要で…」

ナビィはそこで深いため息を吐いた。そこで黙って聞いていたジークフリートがその役に適任者が居るのか、と聞く。

「分かりません。でも橋渡しは天使であるナビィしか出来ません。繋がりの収束ならハードルは下がる筈ですし、誰か出来てもおかしくないのですが」
「そうか」
「私はどうだ?」

ヴァルキリーの言葉に、全員の視線がヴァルキリーに集まる。ヴァルキリーはその視線に少しだけ驚いてからニコニコと話し出す。

「私は最終進化しているから、何か出来ると思うんだ」
「それは、そうですが」
「方法は分かるのか」
「分からないな」
「ナビィが指導すれば出来るんじゃないか?」
「神様に指導だなんて!」
「仕方ないんじゃないですか」

沫早矢が焼き鮭の骨と格闘しつつ口を挟むと、でもとナビィは納得出来ないようだった。しかしヤマトタケルとヴァルキリーが指導してもらう姿勢で先の話をしているのを聞いて諦めたようだった。

「もう、分かりました!」
「おお!ありがとうナビィ」
「それじゃあ家の前で特訓でもしてくるかい?タオルなどを用意しようか?」
「ヤマトタケル様、なんかお母さんみたいですね」
「沫早矢、ボクは一応男だからね」
「わかってますよ」
「…神に性別などあって無いようなものだがな」

ジークフリートの言葉にヤマトタケルが困ったように笑うと、ナビィとヴァルキリーが家から出て行くのを横目で眺めながら沫早矢は味噌汁を啜るのだった。

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