「書き換えにボクは反対だよ」

凛としたケツァルコトルの声に、沫早矢は目を見開く。何時もの舌足らずな言葉使いとは真逆のそれに動揺を隠せなかったのだ。

「何故だい」

ヤマトタケルの冷静で柔らかな声に、ケツァルコトルは目を伏せて続ける。

「二人は“書き換え”が何の為にあるのか知ってる?」
「何の為にあるか…」

ケツァルコトルは考え込みそうになる沫早矢を気にせず、静かに続ける。

「“書き換え”は永遠の命を持つ神々の世界、ヒャクカミに神々が変化をもたらす為にあるんだ」
「変化を?」
「同じ存在が死せずに居れば世界は何も変わらず過ぎてしまう。それでは変わりゆくカミナシに対応出来ない。ヒャクカミとカミナシは運命共同体でなければならない」
「そうなんですか」

ケツァルコトルはそこで伏せていた目を沫早矢に向ける。

「“書き換え”は神々がするものとして成立しているんだよ。人間がするものじゃない」

その声は凛と静かに、しかし突きつけるような声色だった。

「でも僕は!」
「未だ人間ではないって?」
「はい」
「危険に変わりない。沫早矢が書き換えに耐えられるかは五分五分だよ」
「それは、リスクが高いね」
「そう。だから沫早矢。死ぬぐらいなら生き神となって生を全うし、ヒャクカミに神として生まれかわるべきだよ」
「五分五分、なんですか」
「うん。」
「五分も、成功の確立があるじゃないですか」
「…な、」

ケツァルコトルは驚愕で目を落ちそうなほどに見開く。沫早矢はふわりと笑う。

「僕は生き神になんてならない。自由を知っている僕は耐えられない」
「それは、そうだろうけどッ!」
「神になるつもりはありません」
「でも死んだら全てがなくなってしまうんだよ?!書き換えで死んだら骨すら残らない!」
「それでも僕はやります」
「そんな…」

ケツァルコトルは口を閉じ、ぎゅっと唇を噛んだ。沫早矢の目は強く輝き、確固たる意思をケツァルコトルに伝えた。止められないことを悟るのはすぐのことだった。

「…わかった。ボクも協力するよ」
「ケツァルコトル様、ありがとうございます」
「ありがとうケツァルコトル」
「でも一つだけ約束してよ」
「?」
「必ず、帰ってきて。」

ケツァルコトルの言葉に、沫早矢は勿論ですと答えたのだった。

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