「ナビィさん、教えてください。書き換えの方法を」
「…はい」

ナビィは静かに語り出した。

「書き換えはヒャクカミの中心部で行えるのは知っていると思います」
「はい」
「書き換えに必要な条件はただひとつ。“強い意思”のみです」
「強い、意思…?」
「変えたい。今までを再生不能なほどに破壊し、新たな世界を構築する。それをしようという強い意思です。」

ナビィの言葉に沫早矢は俯きがちに少し考える素振りをする。そんな沫早矢の隣に立つヤマトタケルが口を開いた。

「美玲は何故亡くなったんだい」
「それは…分かりません」
「本当に?」

ヤマトタケルの真っ直ぐな瞳に、ナビィは再度考える。本当に理由はわからないのか、と。

「ナビィ」
「今、考えたら、やはり、人間だったからでしょうか」
「それは」
「人間の身では、あの書き換えの中心部に耐えられぬということなのでしょうか」
「それは…」

ナビィの言葉に、ヤマトタケルは口ごもる。もし人間であることが書き換えにおけるタブーなら、人間の沫早矢ではどうしようもない。
沫早矢は少しだけ悩み、口を開く。

「僕はまだ人間になりきってません」
「っ!」

ナビィの顔が歪む。少女の書き換えによって生み出された悲劇を認めることはナビィにとってあまりにも悲しかったのだ。

「書き換えが完了するまで僕は人間より神様として扱われることだと思います。きっと書き換えにも耐えられる」
「そんな一か八かのような!」
「それでも僕はやらなくちゃいけないんです。」
「…意思は、あるんですね。」
「あとは沫早矢の神寄りの体が書き換えに耐えられるか、ということか」

ヤマトタケルの言葉に、沫早矢は口を開く。

「確認したいのですが、美玲さんは1人だったのですよね」
「はい」
「もう一つ、複数で書き換えを行うのは不可能なのですか」
「それは例がありません」
「ずっと考えていたんです。書き換えの際に沢山の神様に協力してもらえば体が耐えられるのでは、と」
「そんな簡単に」

ナビィが呆れ半分に唖然としながらそう言うと、ヤマトタケルが楽し気に沫早矢に話しかける。協力してもらうとは具体的にどうするつもりなんだい、と。

「神様達とヒャクカミの中心部で書き換えを行うんです」
「中心部にはそんなに沢山のひとを連れて行けません!」
「…」
「なら、繋がりはどうだい?」
「「繋がり?」」

ナビィと沫早矢の疑問の声に、ヤマトタケルは穏やかに言う。目に見えないもの、不確かなもの。でも必ずあるものだ、と。その言葉にナビィが噛み付くように口を開く。

「中心部は隔離されています。繋がりを持つことも出来るとは思えません。それに、もし持てたのなら美玲さんは!」
「…」
「なら、何か橋渡しできる存在が出来ればいいのではないかい?」
「でも今、神様達にそんな力は無いのでは?」
「それなら、ナビィ。キミならどうだい」
「ナビィ、ですか?」

思いも寄らぬ言葉に、ナビィは困惑する。そんなナビィに、ハッと気がついた沫早矢が話す。

「ナビィさんは神々でなく、神々と親交の深い人間達でもない。あなたは唯一書き換えられなかった存在と聞きます。それなら力を失っていないはず。どうにか出来るのではないですか?」
「分かりません。やったことがありませんから…」
「天使は冒険者と各地や神々を繋ぐ者。出来るんじゃないか?」

ナビィはしばらく黙る。そんなナビィを沫早矢とヤマトタケルはじっと見つめた。そしてナビィがわかりましたと呟いた。

「やります!」
「ありがとうございます。そうか、それなら後は神様たちの説得ですね。」
「沫早矢、秘策などはあるかい?」
「ありません。ですが、出来ないつもりはありません」
「そうか」

微笑み合うヤマトタケルと沫早矢をナビィは少しばかり羨ましそうに眺めてから、繋がりの橋渡し(パイプ)の方法を探ろうと沫早矢とヤマトタケルに挨拶をして一旦パーティから離れ、フラフラと飛び始めたのだった。

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