立ち去るあなたに手を伸ばす。待って、お願い、待って!

「クーフーリン!」
「っあ!」

キィン、と俺の武器が師匠の武器がぶつかる高い金属音がする。劈くようなその音をどこか遠くに感じる俺の、額には汗が滲み、その一部が頬を伝っていった。

「どうしたクーフーリン。」
「え、あ…」
「いきなり動きが止まったぞ。白昼夢でも見たか」
「白昼夢…」

俺は師匠に休憩を言い渡されて、ふらつく足で川に向かう。頭は真っ白で、気がつくといつもの水場に着いていた。
冷たい水を顔に投げつけて冷静さを取り戻そうとする。まさにあれは白昼夢だったのだと、何度も自分に言い聞かせた。

(でもあれは)

あまりにもリアリティに欠けている筈なのに、あまりにもリアルだった。現実味しか感じないような“白昼夢”は、もう白昼夢ではなく一つの記憶のようだ。記憶は記録であり、一つの己の中に眠る記録を偶然覗いてしまったようだった。

(じゃあ、あれは)

一体いつの記憶だったのか。

「クーフーリン!そろそろ再開するぞ!」
「あ、はい!」

いや、何を俺は考えているのだろう。あれは白昼夢であって俺の中に記憶が眠っているわけがない。俺はずっと俺の記憶の全てを(それは言い過ぎだとしても)、ましてやあんなに必死な記憶を忘れはしない。その筈だろう。

(バカバカしい)

俺は岩に立てかけていた武器を持って、師匠の元へ駆けて行く。そういえば、あの白昼夢の俺[彼女]が追いかけていたのは何だったのか。

「っ!」

鋭い頭痛がして、その瞬間に悟るように閃く。嗚呼、あれは。





今度こそあなたと共に
(俺[クーフーリン]だった)

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