なあ、そう俺は言った。クーフーリンはどうしたと俺に言う。
 今クーフーリンは俺の肩まである岩の上に座っている。今でもやんちゃなこいつはさっきまで動物を追っていた。つまり狩りをしていた。

「今日は逃がしたんだろう?」
「そーだよ」

 クーフーリンはいささか不機嫌だ。動き回ることに関してはあまり失敗しないこいつはたまに失敗しては不機嫌になる。昔から変わらないそれに笑みがこぼれる。昔から変わらないといえばもう一つ、俺たちから離れた林の木の影からこちらを見る彼女。モリガンだ。

「変わらないなあ」
「悪いかよ」
「悪くないさ」

 不機嫌で全く彼女に気がついていないらしい。英雄のくせに、いや英雄だからこそか。英雄なんてやつはだいたい単純だからな。俺の勝手な見解で、よく考えればそうじゃないやつも大勢いるだろうが、今思いつく英雄は単純なやつばかりだった。

「なあクーフーリン。次に何するつもりだ?」
「あと少ししたら師匠と鍛錬がある」
「ほう。じゃあ俺は書物でも読むか」
「一緒に鍛錬しようぜ」
「俺が居ると話しかけ辛いだろ」
「は?」

 彼女はいたく惚れているらしいからな。

「今日中に棚を整理したいんだ。じゃあなクーフーリン」
「ふーん。じゃあな」

 背を向けて歩きだした俺の背後でクーフーリンが岩から降りる音がする。俺の視界には覗き見るモリガン。俺は気がつかない振りをしてその場を去った。変わらない二人の関係、今のままなら進展はきっと無いだろう。それでもいいのかもしれないと思う。今はあまりに心地良い。

「…」

 今の平和と心地良さに思わず笑みがこぼれる。さあ、家に帰ろうか。きっとブリギッドがパイを焼いているだろう。二人で食べれば多少焦げていても美味しいさ!

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