ルグディア/素直になんかなれやしない/ネヴィン様もいる
タイトルはシングルリアリスト様からお借りしました。


 例えば、ディアン殿が眠っている時。鍵をかけ忘れたらしい部屋にひっそりと入って見た顔は、顔が白くて不健康そうなのに、どうしてだか、そんな白さに惹かれるものがあった。
 例えば、目の前で魔神を切り裂いた瞬間。その後。白衣が血で汚れたからと不機嫌そうなその顔の、伏せた目の奥をどうしようもなく見たくなる。
 例えば、サンプルを手に入れて嬉しそうな顔。そのサンプルを持つ指先、神経を尖らせて、そうっと試験管を撫でる動作に、魅せられる。

 何もかも、言えやしないけど、何もかもが、俺を魅了して止まない。実の、お爺様。

「言ってしまえばいいんじゃないか?」
 目は口ほどに物を言ってるぞと、ネヴィン殿はクッキーを口に運びながら言った。現在地はディアン殿の自宅で、そのクッキーはディアン殿の手製だ。少しばかり食べすぎではないかと思っていたら、怖い顔をするなと言われてしまった。
「気持ちはとうにばれてるだろう?」
「そうですかね」
「ディアンは馬鹿じゃないからな」
 私はそういうの苦手だけどな、と苦笑するネヴィン殿はいつになくしおらしい。噂によるとヌアダ殿に謹慎を命じられたらしいのだが、一体戦場で何をしたのだか。
「クッキーの追加を焼きましたよ。紅茶のお代わりはいりますかねえ?」
「いるぞ!」
「ルーグは」
「ください」
 思わず食い気味に答えれば、ディアン殿は何だか苦虫を噛んだような変な顔をして、はいはいと台所へ消えた。
「あらかさまだろう」
「そうですか」
「あのディアンがちょっと引いてないか」
「そう見えますね」
「だからか」
 でもやっぱり一言言った方がいいと思うんだがなと、ネヴィン殿はふわと欠伸をした。今日のネヴィン殿は完全にオフモードのようだ。
「いつか言うつもりはあるか?」
 ネヴィン殿の眠そうな声に、俺はそうですねと前置きをして言った。
「素直になんかなれやしませんよ」
 貴方じゃないんだからとの嫌味を込めて言えば、ネヴィン殿は珍しく正しい意味を汲み取ったらしく、私もそれだけじゃあないんだがなと笑った。
 俺もまた笑えば、二人がクスクス笑うその声に、何かありましたかとディアン殿が台所から顔を出すから、二人して何でもないと悪戯の仕掛けが成功した子供みたいに、明るく告げたのだった。

- ナノ -