ルグディア/貴方のうつくしさを知る
!グロテスクな表現を含みます!


 嗚呼なんて艶やかな。
 侵略、戦争。戦うことが仕事なのだから、これは死に別れるだけの戦いではなく、栄光をかけた駆け引きだ。そして本日、魔神軍との戦場に出るいくつかの部隊の一つを、僕は任された。
 決して熱くならないように指示を飛ばし、兵が持ってきた情報を確認する。しばらくして魔神級モンスターの出現を聞くと、僕は本陣から出た。席を外す間の指揮を最適な人物に任せながらつかつかと歩く。得物片手に歩けば、医療班の白衣が見えた。
 たった一人、白い白衣を纏う男。的確な治療を即座に判断し、施す。班員に静かな声で指示を飛ばして冷静に場を指揮していた。そしてその冷めた目に、この神は今、神では無いのだと感じた。これから外に出て戦う、つまりただの兵になる僕と同じように、彼は今、ありふれた医者と何も変わらなかった。

 戦場を駆ける。魔神級モンスターは倒せたが、2体目、それも今度は確実に魔神が現れた。鹿の角に蛇の下半身。ケルヌンノスだった。連戦だがこれならば一人でも討伐可能と判断したが、すぐに次の魔神が出現した。まだ魔神を呼ぶ彼らに、どうやらこの部隊を突破することに決めたのだと、意図が分かった。ヌアダ上官の部隊に伝令を出し、僕は複数の魔神との戦闘に突入した。また魔神は増え、四体になっていた。一体一体はそう強く無いが、複数になるとだいぶ勝手が変わってくる。認めるのが癪に触るが、僕は苦戦していた。
 クロウ・クルーアッハの歯が向かって来たのが見えた時、そいつの首から血が噴き出た。怯んだ魔神に神技を発動すれば、一体の討伐が完了した。そして隣を駆けていく白衣の男に、嗚呼来たのかと感じた。魔神と戦闘する男は深い笑みを浮かべ、歯を覗かせていた。武器を振るい、肉を切り裂き、解体を喜ぶ。その姿はまさに、神だった。
 彼に触発されて笑みが浮かんでしまう。僕は一度口元を手で覆ってから、戦闘へと舞い戻った。

 結果、さらに増えた魔神を含めた五体を討伐するとモンスター達が引いていった。どうやらこの部隊の突破を諦めたらしい。他の部隊に向かっただろうからと伝令を指示すると、奇声が聞こえたのでそちらを見る。あの、白衣の男性神が肉塊の中で笑っていた。彼のかわいがる骨の腕が辺りの肉をめちゃくちゃに解体していく。血のシャワーを浴びながら、彼は笑っていた。そして両手を伸ばし、クロウ・クルーアッハの目玉をえぐり取ると、眼前に寄せてから目を伏せて口を閉じて、まるで人の子のような笑みを浮かべた。その光景と笑顔の壮絶さに兵達は目を背け、嘔吐をする音すら聞こえた。それでも、男は次の目玉へと手を伸ばす。

 しかし、男はその途中で何かに気がついたように手を止めて、くるりとこちらを見た。体を捻って僕を見つめた男は、血みどろの体で恍惚とした笑みを浮かべた。そしてその唇が動く。
「ルーグ。」
 其れだけ言って悪魔のような笑顔を浮かべるだけの男。その白い肌と白い白衣は血で半分ほどが赤く染まり、指先に残る肉片と赤黒い血は生々しい。でも何故だろう、それら全てが男の魅力を引き出すだけの役者にしか見えなかった。
「るーぐ。」
 名を呼んで、ふわり、笑ったその顔は、どんな女より艶やかだった。だから僕は悟るのだ。
(お爺様は屍の上にいる時が一番美しい。)
 そうして僕は彼に近寄って、血に濡れて魅惑的な唇へと口付けを落としたのだった。



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