ルグディア/ルーグ×ディアン・ケヒト/夜中のかみさま/眠る話


 夢を見ていた。彼と暮らした夢だった。
 目を開く。兵舎の一室はあまりに静かだった。騒ぐものがいない夜中、そんな日はあの神に会いたくなって、手早く身支度を整えると窓から兵舎を抜け出した。
 裏手の草を踏みしめて歩き、道に出ると真っ直ぐに彼の家へと歩く。普段は彼も兵舎で暮らしているが、今日は資料を取りに帰るついでに自宅で一泊している筈だった。
 やがて見えた家はそんなに大きくは無い。でも屋敷と呼べる家は、男の姿をした彼一人にはあまりに広いだろう。
 カーテンの隙間から光が漏れていることを確認してから門を開き、閉じる。玄関へと歩き、まだ起きているからと戸締りがされていない扉を開いた。

 かつかつと歩いて、彼の動く気配がする部屋へと向かう。そこは執務室で、書類仕事があまり好きでは無い男が机に向かっていた。彼が、振り返る。
「……貴方、今何時だと思ってるんですか。」
「おや、そんな時間まで起きている貴方に言われるとは。」
「ハァ……それで、何かありましたか。」
 仕事なら明日にしてくださいという彼に近寄り、机を見れば何やら書類を書いているらしかった。報告書ですよ面倒臭いとうなじを書く彼に、夜中はミスが増えますよと助言をしておいた。
「分かってますよ。終わらないんだから仕方ないでしょう……で、何か用ですか。」
 あくまでサッサと帰らせたいらしいその男に、僕は笑みを見せてから、彼の手をゆるりと指でなぞった。彼はぴくと反応し、それから長い溜息を吐く。
「構って欲しいんですか。貴方はいつ幼児退行したんですかねえ。」
「さあ? 」
 流石に抱っこなんて出来ませんからねと彼は立ち上がり、歩く。部屋を出て行く彼は振り返り、ついて来なさいと言った。

 連れて来られたのは客室だった。
「はい、ベッドですよ。さあ寝なさい。」
「一緒に寝ないのですか。」
「私は仕事がありますので。」
 譲らないらしいと分かったので渋々ベッドに寝転がり、布団を被る。ふわふわとしたそれは悪く無い心地だった。
 そっと、彼の手が僕の頭を撫でる。彼はベッドに座り、手を伸ばしていた。
「いい子。早く眠りなさい。」
 朝食ぐらいは作ってあげますよと彼は歌うように告げて、僕の目元を覆うと額に口付けた。一瞬のそれに満足すると彼はそれに気がついたのか、ハハと笑って立ち上がり、明かりを消して部屋を出て行った。

 出て行く寸前、お休みなさいと背中に囁けば、同じ言葉が返ってきた。その優しい響きに、会いに来てよかったとぼんやり思ったのだった。

- ナノ -