また、私は繰り返す。何度も、何度も彼が事故で死んで、誰かに殺められて、何度も、私は“私と彼”を繰り返す。

そのうちに私は気がつくように最初に私と彼が繰り返すようになったことを思い出す。薄れてしまった膨大な記憶の初めの方を、ひらひら舞う糸くずを手に取るために、藻掻くように、記憶を辿る。そして気がつく、私は絶対的に“俺”ではなく“私”なのだと。

一番最初、私は私[モリガン]だった。そして彼は彼[クーフーリン]だった。最初に私はクーフーリンに守られて、クーフーリンはそれで死んだ。

意味が分からなかった。彼が命をかけて私を守った意味が分からなかった。私が、なら分かる。だって私はずっとクーフーリンが好きだった。否、現在も過去も未来でも好きだから。何度繰り返しても私は彼が好きでいる。だから、私が彼のために死ぬことはあり得るのに、いつだって彼が死んでゆく。それがいつも私を守って死ぬとは言い切れなかったけれど、繰り返すうちに確信する。彼は私を守って死ぬ。

その確信は絶望だった。私はたとえ自分が死んででも彼を守りたいのに、現実にはそれをさせてくれないほどに彼が私を守って死んでゆく。最初に確信した時、私は狂った。狂気の中で彼はまた私を守って死んだ。どうにもならないことを、彼の亡骸を見て思った。更に私は狂った。

何度も狂って、狂って、狂った。何度も彼の亡骸を見て、何度も彼を待ち続ける日々の中で私は何時の間にか狂うことがなくなった。諦めたのだ。希望を求めてその果てに狂うことに、疲れてしまった。誰もが私を心配した。しかしその中に彼は居なかった。彼は心配するのではなく、私を一目みて、時には微笑みながら、私を守って、死んだ。

私は疲れた。自殺を彼は許さず、自殺する前に彼は死ぬ。もしくは私に自殺できぬ僅かな理由を作った。心の底から酷いひとだと思うのに、彼のことが好きだった。好きで、好きで、好きだから、私は数えきれないほど繰り返す。

「どうしたんだい、モリガン」
「…何でも、ないよ、アーサー」

私はもう繰り返すしか術がない。何も出来ない。彼との未来を夢見ることもやめた。何も出来ない。私は神様なのに、無力だった。きっと何よりも、無力、だ。





そのよん、絶望
(繰り返すこれに)
(希望は無い)

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