「モリガン!」
「っ!」

強く揺さぶられて目を開く。何、なんなんだよ、俺[私]は。

「どうしたんだモリガン」
「…え、」

俺[私]を揺さぶったオグマとその斜め後ろに立つブリギッドの、揃って心配そうな表情に疑問を抱くより先に、呼ばれた名前が頭の中を駆け巡る。モリガン、モリガンだって。

「え、あ…」
「病み上がりなんだから、起き上がらなくてもいい。後はブリギッドに任せよう」
「任せてお兄ちゃん、安心してねモリガン。ちゃんと手当てのお勉強してきましたから!」
「治療のためとはいえ、男性が女性の肌をあまり見るのはよくないからな」
「もー、大丈夫です!」

早くお兄ちゃんは出て行って、とブリギッドがオグマの背中を押す。オグマは部屋から出て行った。俺[私]が唖然としていると、傷の手当をするからと服を脱ぐように言われた。素直に脱ぐついでに(むしろ優先して)観察する。この身体はどう見てもクーフーリン[彼]ではなく、モリガン[私]のようだった。

「あ、」
「あ、モリガン、心配しなくても大丈夫ですよ。ちゃんと手当てしますから」
「…うん」
「それじゃあ背中からにしましょう!」

傷口に当てられる薬の、染みる痛みに現実なのだと感じる。そうだ、俺[私]は私[俺]は、クーフーリン[彼女]に庇われて、それで、それで!

「っ!クーは!クーフーリンは?!」
「あっ暴れないでモリガン!」
「ブリギッド!クーはどこ?!」
「落ち着いて!」
「どうした!」
「お兄ちゃん!モリガンが」
「オグマッ!クーフーリンは!クーは何処?!」
「落ち着けモリガン!」
「クーは!」

落ち着けと叫ばれて、あんまりにもオグマが怖い顔をしているものだから、私[俺]はすこしばかり正気になる。それでもクーフーリン[彼女]がどうしても気になって、私[俺]は。

「ね、オグマ…」
「落ち着いたか?」
「お願い、クーの居場所を」
「それは…」

珍しく言い淀むオグマに、嗚呼、目から水が零れそうだ。

「モリガン、落ち着いて聞くんだ」
「…うん」
「クーフーリンは」

クーフーリンは私を庇って、また。

「死んだんだ」





そのさん、失望
(また、)
(またあなたは繰り返す)

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