クロスオーバー/名探偵コナン×原神/天才のパレィド・一


 星は明けの明星なのか。

「こら! あなたたちなにをしてるんだい!」
「げっカーヴェ!」
「なんだよ、カーヴェ!」
「僕はあなた達より一学年上だよ、先輩に何だいその言葉は!」
「「うわあ逃げろ!」」
「あ、」
「もう。大丈夫かい?」
「だ、大丈夫! 助けられなくたって」
「いいんだよ、僕がしたかっただけさ。ほら、保健室に行こう」
「……うん」
「そうだ。あなたは何て呼べばいい?」
「……ぜろ」
「ゼロか。うん、覚えたよ、ゼロ!」


天才のパレィド・一


 コナンは沖矢と本屋に来ていた。新作ミステリー小説を買うためだ。あれこれと選んでいると、たったと人が走る。カーヴェだった。
 コナンはすぐに本屋を飛び出す。沖矢も続く。
 裏道に入ると、カーヴェは立ち止まった。
「やっぱり来ちゃったか……」
「何があったんだよ、カーヴェさん」
「事件と見えるが」
「そう。隣町の、古い地域で、火事があったんだ。逃げ遅れた人が死んでいる。僕は現場を詳しく見ようと思ってね」
「何でカーヴェさんが?」
「コナン君に何か手掛かりを渡せないかなって。僕は探偵じゃないからね」
「ああもう。危険なことに首を突っ込まない方がいいよ……」
「それで、何か見当はついてるのか」
「死亡したのは春川東弥。二十二歳の男性。ルームシェアしていて、同じ家には夏野優希、松井秋香、金剛千冬と暮らしていた。夏野優希は男性、松井秋香は女性、金剛千冬は女性。全員が二十二歳だよ」
「大学生?」
「そう。東都大だ」
「カーヴェさんとは知り合い?」
「痛いところを突くな……流石だ。ええと、一度講義をしたことがある。講義は建築学で、彼らの専攻ではなかった。だというのに、熱心だったからよく覚えていた四人だよ」
「善良な大学生の住む家が火事になった、と」
「そう」
「それでいて、カーヴェ君は事件だと思っている」
「注意深い学生達だと思っていたからね……放火なのかもしれないって」
「放火魔がいるって?」
「うん。ただ、理由がとんと分からない。その辺りをコナン君に助けてもらおうかなって」
「現場検証、ボクも行くよ。昴さんは家にいて」
「待機しておきます」
「あーあ、警察と会うだろうに」
「ボクは顔見知りだからね!」
「この一年で嫌と言うほど思い知ったかな」
カーヴェはハアと息を吐いた。


・・・


 火事の現場はすでに規制線が張られていた。カーヴェとコナンがひょいとやって来るのを見て、すぐに高木がやって来る。
「コナン君にカーヴェさん。気になることでも?」
「やあ高木刑事さん。実はここで亡くなった学生に講義をしたことがあってね。ほら、花を持ってきたんだ」
 カーヴェは花束を手にしている。コナンはその隙に規制線の中に入って調査する。華やかなカーヴェに視線が集まっているうちにサクッと調べて、コナンはカーヴェの元に戻った。
「花は僕が預かっておきます。まだどこにも置けないな……」
「まだ焦げ臭いですね」
「そうなんです。臭いがつく前に離れた方がいいですよ。ね、コナン君」
「うん! 行こ、カーヴェさん!」
「では、花束をよろしくお願いします」
 コナンとカーヴェは暫く歩いて、息を吐いた。
「で、何があったのかな?」
「強盗放火殺人事件かな」
「盛りだくさんかな?」
「何かが入っていた箱がたくさん開けて落ちてた。たぶん、宝石箱だよ」
「ベルベットのやつかな。古風だね」
「放火は間違いない。カーヴェさんも臭いがしたよね?」
「油臭かったね。ガソリンかな」
「うん。近くにタンクが空のバイクが無いか探してみたいな。あとは、殺人だけど」
「それはどうして確定なのかな?」
「死体はもう運び出されてたけど、血痕が多かったんだよ。一酸化炭素中毒より、出血多量のショック死の方が自然だね」
「なるほど。暴行の痕跡は?」
「幾つか、家具が壊れてたかな」
「ふうん。とりあえず、生き残った三人は病院で治療を受けてるらしいから、行ってみようか」
「賛成」


・・・


「なんでコナン君がいるのかな?」
「なんで安室さんがいるのかなー?」
「あ、知り合い?」
「カーヴェさん、こっちは安室透さんで、アルバイター兼探偵さんだよ! 安室さん、こっちはカーヴェさんね」
「仲良しなのかい?」
「うん!」
「友達だもんね?」
「勿論! むしろお兄ちゃんだよ」
「ふふ、光栄だ」
「……それで、どうして病院に?」
「えへへー、事件でしょ?」
「僕の依頼人は言いませんからね?」
「僕らは個人的に動いてるんだ。まあ、僕からコナン君に依頼した形かな。亡くなった子に講義をしたことがあってね」
「講義?」
「彼らは大学生だろう。僕の講義を受けててもおかしくない」
「いやそっちではなく」
「あ、えっと、建築デザイナーなんだけど、たまに講義の依頼が来るから。その時に特別講義をしてるよ」
「そうなんですね」
「亡くなった子と、生き延びた子達、あの四人は専攻でもないのに僕の講義を真面目に受けてくれてね。とても印象に残っていたんだ。現場に花も供えてきたよ」
「そう、だったのですね」
「ねえ安室さん! 何か情報はあった?」
「うーん、特に何も。ただ、何だか、変な話なんです」
「変な話とはなんだい?」
「いえ、目が盗られたとか、目が追いかけて来るとか。要領を得ない言葉を繰り返していて」
「目?」
「強い明かりがあったとか?」
「ああ、光なら追いかけて来る錯覚もするね」
「兎に角、落ち着くまで僕は待ちます。コナン君とカーヴェさんはどうするんですか?」
「話を聞きに行くよ!」
「僕も少しね」
「そうですか」
 では、と安室は立ち去った。カーヴェとコナンは面会許可を得て、病棟を歩き、そして。
「カーヴェさん、左裾」
「分かってる」
 カーヴェは服の裾に付けられていた盗聴器をパキッと折った。
「油断も隙もないね」
「カーヴェさんならいけると思ったのかなあ?」
「さあ。でも、これで安心して話を聞けるかな」
「とりあえずはね」
 さて、病室の前に来た。


・・・


 夏野優希は聡明そうな青年だった。
「東弥は自殺したんです」
「自殺? どうして彼が?」
「分からない。何も、ただ、彼は自暴自棄になっていた。俺たちはただ、逃げることしか出来なかった」
「そう」
 カーヴェは目を伏せる。コナンがねえと声を発した。
「夏野さんは何色が好き?」
「へ? 色なら、紫かな。それがどうかしたのかい?」
「ううん。なんでも!」

 松井秋香は明らかに怯えていた。
「目が、目が追いかけて来る! 貴方たちも早く逃げて、急いで!」
「落ち着いて。目はここには無い」
「ある! あの輝き! 鮮烈な赤を!」
「……カーヴェさん。部屋を出よう」
「ナースコールを押すよ」
「助けられない! もう、逃げられない! 目は、目は!!」

 金剛千冬は冷静になるよう努めていた。
「あの時、炎が燃え上がったんです。何があったのか、私には分からなくて。ただ、走りました」
「そうだったんだね。何か変わったことは?」
「ごめんなさい。炎のことしか覚えていなくて」
「うん。分かった」
「ねえ、金剛さん! 好きな色とかある?」
「好きな色、ですか? 今はただ、あの時の炎の赤だけが、思い出されて……」
「そっか、分かった!」


・・・


 カーヴェとコナンは病院を出た。
「コナン君。どう思う?」
「カーヴェさんは?」
「これで終わらないだろうね」
「やっぱりね。あの病院、気をつけないと火が回る」
「高木刑事に言うにも、まだ憶測の域を出ない推論なんだろう? 僕だってそうさ」
「うん。何とかして、第二の事件を食い止めねえと」
「そうだね。第二の被害者を出してはいけない。けれど、どうやって止めたら……あ」
「カーヴェさん?」
「いや、もしかしたら、被害者をすり替えることは、出来るかも」
「わあ、ボク、とっても嫌な予感がする」
「ふふ、ごめんね?」


・・・


 よっと。カーヴェはメラックの補助と元素の力で病院に忍び込んだ。しかし、先客がいる。
「やあ、こんばんは安室さん」
「こんばんは。奇遇ですね」
「うん。とてもね」
 部屋のベッドでは松井秋香が眠っている。深く眠っていたが、ぎぎ、と秋香の手が動く。カーヴェへと手を伸ばすので、カーヴェは歩み寄って、そっと手の甲を撫でた。
「僕はね、誰も犠牲にしたく無いんだ」
「はあ」
「だから、安室さんは帰ってほしい」
「ここで何かが起きると?」
「うん。早くお帰り。もうこんな時間だ」
「貴方こそ」
「僕はいいよ。待つ人もいない。さあ、どうかお帰り」
「いいえ、僕はこの手で悪を……」
「犯人は、まずは彼女だった」
 カーヴェはそっと手を撫でる。くるりと回した、秋香の手のひらには真っ赤な炎の神の目があった。
「春を殺すのは秋なんだ」
 そして、ね。カーヴェは愛おしそうに言う。
「春が秋を殺すのは決まりきったことだ。なら、秋に恨みを持った季節はどうすればいい?」
 そう。そこに、悪がある。
「単純に愛していた。だから、秋を恨んだ。そうだろう、金剛千冬さん」
 金剛千冬が、病室の扉を開けたところだった。

 手には鋭い、包丁が。

「っ、カーヴェさん!」
「メラック」

 安室の視界が暗転した。


・・・


タイトル:天才のパレィド・一
ジャンル:クロスオーバー/名探偵コナン/原神
要素:火事/強盗/殺人/事件、なんちゃってミステリー風味、戦闘はある、不可思議、元素はある

カーヴェ…建築デザイナー。休暇として一年前から日本に来ている。
メラック…スマホ。

江戸川コナン…小学生。
沖矢昴…大学生。
安室透…探偵。喫茶ポアロのアルバイト店員。

春川東弥…22歳の男子大学生
夏野優希…22歳の男子大学生
松井秋香…22歳の女子大学生
金剛千冬…22歳の女子大学生

アルハイゼン…???
ナヒーダ…???

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