クロスオーバー/名探偵コナン+原神/『夢幻の唯美論者』/pixiv1200フォロワーお礼リクエスト企画より。さかな様リクエストありがとうございました!

※舞台は名探偵コナンですが、神の目も元素もある。
※ミステリ風味のファンタジーです。


 名探偵に摩訶不思議は不要である。
 真実にこそ、神の存在は否定されるものである。


『夢幻の唯美論者』


 たった、たったか。走る音。夜の米花町を男が走る。
「っ、メラック、動いちゃダメだ。まだ人が多い」
 男は鞄を持ち直すと、さらに走る。ざわざわと喧騒。男は喧騒から離れていく。
 より、人の少ない方へ。男は走る。そして、それを追う者が、煌めいた。
「あ、」
 ぼたっ、男はよろめく。鞄が動く。倒れた男の周りで、緑色の光が強く輝き、花が咲いた。

 コナンは、くあと、欠伸をした。
「また本でも読んでたの?」
「まあな」
「ミステリーでしょう。最新作が出たんですって?」
「お、灰原よく知ってんな。それだ」
「よくも何も、ニュースで取り上げられていたのよ。有名小説家の最新作って。好きそうねと思っただけ」
「興味無さそうだな」
「ええ、興味ないもの」
 灰原が朝食の支度を終えると、博士を呼びに行く。コナンは帰ると言って、毛利探偵事務所に戻った。
 蘭がお帰りと出迎える。博士のところで泊まるのはよくあることのため、蘭はごく自然に受け止めていた。
「あれ?」
「あ、お父さんなら仕事だって」
「え?」
 仕事。コナンは目を丸くする。蘭は困り顔だ。
「何にも教えてくれなかったの。コナンくんが居ないから丁度いいって、ぶっきらぼうに出て行ってね。本当にどうしたんだか」
「事件なの?」
「そうじゃないと思う。野良猫探しにも見えなかったけれど……」
 でも、ぴりぴりとはしてなかったよと、蘭は不思議そうだった。

 小学校に登校すると、灰原は既に席に着いていて、歩美に話しかけられていた。光彦と源太はいないようだ。
「それでね、哀ちゃん、あのね」
「ええそう」
「ほんっとうにすごいんだよ! 歩美、びっくりしちゃった!」
「そうでしょうね」
 ちらと、灰原がコナンを見る。歩美はすぐに気がついて、コナンくんおはようと笑った。
「はよ。何の話だ?」
「さっき新しい図工の先生に会ったの!」
「は?」
「なんか、先生だけど先生じゃなくて、臨時こーし? とかなんとかって」
「非常勤講師と言ったところかしらね」
「小学校の先生に?」
「そうらしいわ」
 歩美は興奮気味に言う。
「すっごく綺麗な人で! 歩美、最初は女の人かと思ったの! でも男の人でね、名前は教えてくれなかったけど、今日は図工があるから会えるの!」
「ふーん」
「たまたま絵を描いててね、らくがきって言ってたけど、それがとっても細かくてきれいでね」
「お、おう……」
「あのねえ、江戸川君。少しは真面目に聞いてあげなさいよ」
「哀ちゃん、いいの、だってコナンくんも見たらすごいって思うよ!」
「そうかあ?」
 コナンはそれよりもまた別の推理小説が読みたいとぼんやり思いながら、席に着いた。

 図工の時間は午後だった。最後の時間に、図工室に集まると、金色の髪、というより、バターのような色味の髪をした青年がいた。目は深い赤だ。そして、何より、造形があまりにも整っていた。白いシャツと紺のスラックス。独特なアクセサリーをいくつか身につけて、笑う。
「初めまして! 僕はカーヴェ。図工の先生さ。正しくは非常勤講師だけどね。まあいい、カーヴェさんとでも呼んでくれ。さあ、授業を始めよう!」
 カーヴェの授業は、小学生にしては珍しく、座学も含むものだった。手を動かして作品を生み出すだけではない授業は小学生に不評かと思われたが、カーヴェの語り口の面白さに、子供達は吸い寄せられた。その一回の授業でコナンのクラスは皆が、そう、コナンまでもが、カーヴェに魅了されていたのだ。

 コナンは帰る前に図工準備室に寄った。うまいこと少年探偵団のメンバーから抜け出して、そこに着く。カーヴェは中で模型を作っていた。トントンと、音がする。
「カーヴェさん」
「ん? ああ、君はさっきの授業の。どうかしたのかい?」
「いえ、カーヴェさんはどうして図工の先生になったんだろうと思って……」
「ただ、仕事を紹介してもらっただけだよ?」
「えっ、で、でも、すごく慣れてたから」
「そんなに不思議なことかなあ」
 カーヴェは首を傾げた。金槌を置いて、きちんとコナンに向き直る。深い赤の目は、恐怖より、美しさを相手に感じさせるものだ。
 華やかで、美しい。それはまるで。
「極楽鳥……」
「おや、物知りだね」
「えっと、天国の鳥? 昨日、本で読んだから」
「惜しい! 極楽の鳥だよ。まあ、諸説ある。何せ、殆どが絶滅した鳥だからね。どんな本に出てきたんだい?」
「推理小説だよ!」
「へえ、難しいものを読めるんだね。君は優秀そうだ」
「あはは」
「ただ、極楽鳥は花にもある」
 カーヴェは言った。
「ゴクラクチョウカ科。そういう種類もあるね」
「へえ、そうなんだ」
「君は、」
 カーヴェが何か言おうとした時、ことん、と図工室から音がした。カーヴェは慌てて図工室に向かう。コナンが続くと、カーヴェは鞄を持ち上げていた。
「ふう、ここにあったか」
「何か探し物?」
「あー、えっと、"瞳"かな」
「ひとみ?」
「そう。いつか君も知ることになるよ」
 カーヴェは笑う。
「さあ、最終下校時間まで残る必要もない。早くおかえり、一年生の江戸川コナン君」

 そうだ、昨日読んだ推理小説は。

「っ! カーヴェさん!!」
 コナンは振り返る。図工準備室の中には、カーヴェが座っていた。
「さあ、おかえり」
 ひらり、手を振っていた。

 その手のひらには、傷痕があった。


・・・


「人を探している」
「はい」
「名前はカーヴェ。金色の髪と赤い目をしているが、見た目は、アテにならない。彼は変装程度なら手段として選ぶ可能性が高い。ただ、名前だけは変えないはずだ」
「なるほど。依頼、受けましょう」
「頼む。俺の知人達も探しているから、見かけたら声をかけるといい。では、俺は仕事がある」
「自宅には帰らないので?」
「……あれのいない家など、意味がない」
 彼はそう言って毛利探偵事務所から出て行った。小五郎は全くと息を吐いた。
「ったく、あのエリート坊ちゃんの先輩、か」
 アルハイゼン。都勤めの書記官は、やけにその先輩とやらに執着があるようだ。小五郎は確実に見つけなければと、思考を巡らせた。

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