スメール男子会/少女魔法/探偵パロ/元素も神の目もあるけどテイワットではないです(?)
※血液描写を含みます。
※ミステリに見せかけたファンタジーです。


あやとり
とりがら
すてるあか
かあさんそろって
あやとり
とりがら
がらがらん
ざしきのさきに
ろうそくのけぶり
ふくはみどり、
きいろ、あか
そうっとのぞいて
まっくろ、くろ


 カーヴェはティナリとお茶会をしていた。喫茶店で紫煙を燻らせる人らを見ながら、甘い甘いケーキを食べて、黒いコーヒーを飲む。
「うん。いい味だね」
 にこ、とティナリが笑う。カーヴェはそうだなと微笑んだ。その笑みはやや暗い。どうしたの、とティナリは問うた。
「事務所では言えないんでしょう」
「まあ、アルハイゼンに聞かれたらまずい」
「何を引き受けたのさ」
「引き受けたなら良かったさ。いつも通りだった」
「へえ」
 ティナリの耳がぴくりと動く。カーヴェはそっとスーツのポケットから紙切れを取り出した。
 それはカーヴェの字だ。

あやとり しましょ

「なにこれ?」
 ティナリはぽかんとする。カーヴェは手紙だったんだと言う。
「今朝、事務所から出たら真っ赤な封筒が落ちてた」
「っはあ?!」
「大丈夫。赤紙は違うさ。ただ、変な赤だと思ったよ。手にしたら、滴ってたね」
「え、それって」
「鉄臭かったかな」
「血液……?」
「限りなく近いね。中身は防水の紙とペンでこれだけ書かれていた。証拠として保存するために僕の部屋でガラスケースに保管してるよ」
「信じられない。警察行きだろうに」
「探偵事務所に向けられた文書だ。警察に持っていくべきではない。ただ、アルハイゼンは依頼されない限り、こんな怪奇に興味を持たないだろう?」
「それは、そうだろうけど。この紙切れはカーヴェの手で写したものってことだよね」
「うん。そうだよ」
「はあ、とんでもない話だ」
「本当に。さて、ティナリ。これはどうすればいいだろう? あやとりは何かの隠語になるのか?」
「あやとりはあや取りでいいのかな。紐で手遊びするやつ」
「それしか思いつかないね。まあ、あえて言うなら赤、血液、紐、指。赤い糸の伝説かな」
「あれは元来、足首に巻いた縄だろうに」
「それは元々の御国の伝説さ。こちらでは小指に繋がった赤い糸、なんて可愛らしいものになっている」
「そうだけど、でも」
「少なくとも、事務所の誰かがあやとりに誘われた。そして、僕はその手紙を保管し、写しを持ち歩いている」
「っ! 背負うつもり?!」
「僕だって神の目はある。最悪の状況になっても、メラックがいる」
「ばかっ! 自分の命を投げ出さないで!」
「投げ出したつもりはない。ただ、一番被害を受けても軽く済むのが僕だ。ティナリもセノもアルハイゼンも有名な探偵だろう」
「カーヴェだってそうだよ」
「僕は迷い猫探しぐらいしかやらないぞ?」
 あっけらかんとするカーヴェに、ティナリは、ああもうと額に手を当てた。
「僕に話したってことは手詰まりなんだよね。だったら他の皆にも話して」
「やだよ。これは僕の担当と決めた」
「だからさあ、こんな異常事態に一人で対応しようとしないで。現に困ってるんだろう? ほら、アルハイゼンとセノに言おうよ」
「……まあいいか。ただし手紙は渡さないよ」
「何をそんなに拘るんだか。そもそも血液なら鑑定出来るかな」
「たぶん劣化が激しいと思う。もしくは、混ぜ物がある。あんなにたっぷりの血液が赤褐色にならずに長時間液状でいられるのは、条件が必要だろう?」
「まあそうだろうけど。少なくとも、玄関先に落ちてたら、干からびて、あっという間に赤褐色さ」
「だろう? 科学的に"おかしい"んだ。呪いとかまじないとか、そんな可愛らしいものじゃない」
「呪いもまじないも可愛らしくはないよ」
「そうかい? 実害が無ければただの怨念だろう」
「そういう問題だっけ?」
 とにかくと、ティナリは珈琲を飲む。カーヴェは甘い苺のトルテにフォークを刺した。
「何かある前にアルハイゼンとセノに報告ね」
「善処するよ」
「それだめなやつじゃないか」
 ティナリは呆れた。

 翌日。カーヴェはまた探偵事務所で目覚める。朝方まで起きていて、書類仕事をしていた。年度初めだけあって、入り用な書類が多かったのだ。仮眠は取れたぞと、守秘義務についての書類をカタカタとタイプライターで打ち始めた。
 しかし、そこにセノが入ってくる。警察にまだ籍を置く彼がやって来るのは珍しかった。
「どうしたんだい、セノ」
「カーヴェ、全て話せ」
「ティナリの言っていたことが全てだよ」
「俺に嘘を言う勇気は認めよう」
「うーん、流石だな」
 カーヴェはよいしょと立ち上がって、ガラスケースを戸棚から取り出した。そこには真っ赤な封筒と防水加工された白い紙、その紙に綴られた一文。そして。
「……やはり、あや取りの紐もあったんだな」
「そうだよ。ご丁寧に"確実な"血液漬けさ」
 赤褐色に変色した、輪状の麻縄だった。

「脅迫だと取れる」
 セノは淡々と言う。カーヴェはペンでさらさらと書類を仕上げていく。
「何より、カーヴェぐらいしか、事務所に寝泊まりしてないんだよ」
 ティナリがはっきりと言う。
「……休日返上か」
 ぼそりとアルハイゼンが言った。その言葉に、カーヴェたちはぎょっとした。
「君、休日返上で働くと?! 君が?!」
「この事務所は家ではないが、俺の所有物だ。平和が脅かされるなら、相応の手段は取る」
「僕としてはカーヴェが危ないと思う。狙われてるのはカーヴェの可能性が高いよ」
「アルハイゼンが出勤するのは朝だが、早くはない。早朝に玄関先に真っ先に出るのはカーヴェしかいない。カーヴェは毎日、新聞を買いに行くからな」
「セノも僕も不定期にしか事務所に来ない。可能性を捨てずに言えば、アルハイゼンかカーヴェが狙いか。だとして、さて何が目的かな」
「金では無さそうだ」
 アルハイゼンが淡々と言う。
「金庫周辺、ドアノブ、その他の箇所に痕跡は一つもなかった。ああ、カーヴェが血液らしきものを拭いた場所は分かったが」
「始末の仕方にケチをつけないでくれ。玄関先に赤い液体があれば近所迷惑だ」
「近所迷惑とかいう問題なの?」
 あやとり。アルハイゼンとセノは視線を交わす。
「一度、話に行く」
「手応えが無ければ俺も行く」
「頼んだ」
 カーヴェはふっと目を逸らす。外を、鳥が飛んでいた。
「とりがら、って何だろう」
「鶏ガラ? 何、料理でもするの?」
「いや、そうじゃなくて」
 鳥、がら。


・・・

 和蝋燭が揺れている。とん、とん、と少女は歌う。


あやとり
とりがら
すてるあか
かあさんそろって
あやとり
とりがら
がらがらん
ざしきのさきに
ろうそくのけぶり
ふくはみどり、
きいろ、あか
そうっとのぞいて
まっくろ、くろ


「ねえ、ナーサリーマジックをしってるかしら?」
 童女は、そう、笑った。


・・・

「さてカーヴェ、最近の動向は?」
「何で僕が取り調べを受けるんだ。助けてくれセノ」
「すまないがやることがある。任せた」
「あ、僕も麻縄の方で血液鑑定してみるよ。犯罪歴があればいいんだけど。っていうか劣化が激しいからまともな値が取れるかな……」
 二人が忙しなく事務所を出て行く。カーヴェはタイプライターとペン、そして書類を置いて、告げた。
「少なくとも、僕に自覚はない」
「だろうな。いつもの事だ」
「君ねえ、いちいち嫌味ったらしいんだよ」
「では昨晩はどうしていた」
「朝方まで書類仕事さ。君のメイドや執事には任せられないからね」
「守秘義務の類か。先日の切り裂き事件か?」
「ただのスリだろ。連続スリ犯。ポケットの裏を切り裂いて、そこにあった金目のものを奪う。まあ、僕の担当だったからね。ていうか年度初めだから普通に書類が多いんだよ。守秘義務の更新手続きもしないと」
「他には?」
「昨晩はそれだけ。知りたいのは手紙のあった時期だろう? 一昨日に玄関先で見つけたさ」
「では昨日の昼間は何があった」
「何もない。"僕には"ね」
「続けろ」
「偉そうだなあ! まあいい。世間は異常な死体で持ちきりだったね。幾つかの新聞で取り上げられていたから君も知ってるだろう?」
「ああ、狐か犬か、小型のイヌ科による噛み跡がある死体だったな」
「そう。そして、野良犬の仕業とも、野良狐の仕業とも思えない。何故なら"密室"だったからだ」
「何か情報を得たか」
「大したことはないよ。被害者は女学生。大人しく、控えめな性格だと証言されている」
「イヌ科との関わりは?」
「何も分からなかったな。友達は少なかったみたいで、情報がまともに集まらなかった」
「聴き込みは難しいか。家族は?」
「どうにかして揉み消せないかと必死だったよ。忌々しい。我が子が密室で変死なんてことになっているのに、それを揉み消すなんて!」
「では、家族は何か知っていたのか」
「何かあるよ。ただ、僕じゃダメだ。あの手の人間は僕は好かない」
「聴き込みに好きも嫌いも無い。後で向かうぞ」
「え、二人で? 僕、まだ纏めたい書類があるんだけど」
「先に変死が気になる」
「あーもう、はいはい。着いて行くよ」
 そこで老メイドが、旦那様はお茶の時間ですよと、ティーセットを揃え始めたのだった。


・・・


 ティナリは血液鑑定の結果にくらりとした。
「は?」
「それはこっちが聞きたいんだが」
 アルベドがさらりと言う。
「それは紛れもなく"人間"の血液だ。年頃は初潮前の少女だろう。ただ、逆に言えばそれしか分からない」
「全くもう、謎が増えたよ」
「事件なら一課行きかな」
「すまないけど、こちらには"警察嫌い"が居るからね」
「手に負えなくなる前に国家権力に頼るといいよ」
「そうさせてもらうつもり」
 ティナリは鑑定結果を丁寧に仕舞うと、証拠の赤褐色の麻縄の入ったビニール袋も仕舞った。

 さて、とティナリはセノを迎えに行く。聖処からセノが出て来る。その顔色はいつも通りだったが、ティナリには分かった。
「何があったの」
「……魔術の痕跡があった」
「は?」
 神の詔である。
「"ナーサリーマジック"が決行された」
「ナーサリー……ナーサリーライムのこと? それって、まざあ・ぐうす、マザー・グースってやつ?」
「そうなる。英国の童歌のようなものだ」
「それがマジックって?」
「マザー・グースには数多ものまじないも存在している。その中でも、少女にしか使えないまじないを、神はこう言った"ナーサリーマジック"と」
「つまりまじない、呪い、と」
「魔術の方が近い。今回はナーサリーマジックが根本的な原因だと思われる」
「じゃあそれは誰が行ったの? とっ捕まえないと」
「捕まえられたら、良かったんだが」
 セノの言葉に、真逆とティナリは目を細めた。
「……何があったの?」
「おそらく術者は死亡した。昨日、昼間に変死騒ぎがあっただろう。その変死体となった女学生、少女、が、おそらくは、術者だった」
「何てこと」
 ああもうとティナリは言う。
「そもそもナーサリーマジックはどんな効果なの」
「どのまじないを採用するかで変わる。今回使われた可能性があるのは、双子、写し身、鏡像、あとは、」
「あとは?」
「……イマジナリーフレンドに関係するまじないだ」
 子どもだけの特権をフルに使われたのだ、と。


・・・


「こんにちは」
「貴方は?」
「アルハイゼンと言う。こちらは助手のカーヴェだ。先日は無作法にすまなかった」
「ふん。そちらの若者はやけに家の事情を知りたがる。アルハイゼンとやらは何が知りたい? 娘のことなら我が家で片付ける」
「まずは弔いを」
「尚香は要らない。玉串もだ」
「では、黙祷を」
「それも要らない。あのふざけた娘にそんなものは必要ない。ああ! 忌々しい。なんなんだあの子は、昔から何かにつけて不気味だと、私たちは言っていたんだ」
「それでも女学校には行かせたのでは?」
「常識を教え込むには女学校にまで行かせる必要があっただけだ」
「不気味な子どもをわざと衆目に晒したと?」
「勘違いしないでくれ。私たちなりに気を使ってのことだ」
「ほう?」
 アルハイゼンは目を細める。カーヴェはさらさらと会話を余すことなく書き留めていた。
 家人は言う。
「人付き合いが苦手な子でね。いつもぬいぐるみを持ち歩いていたんだ。捨てるたびに拾ってくるから不気味で仕方がない」
「高々ぬいぐるみ程度だろう」
「紳士に聞くが、医学的知識はあるか?」
「多少はある」
「ではトリアージについて調べるといい。あの子は三回、ぬいぐるみを拾ってきた。最初は緑、次は黄色、その次は赤。そして、あの変死の日は黒いリボンを持っていた」
「ただのリボンでは?」
「家内がパティサラの刺繍をしておいたんだ。だから、"全て同じリボン"だったんだが。ああ、なんて不気味な」
 アルハイゼンはそれだけ聞くと、失礼したと踵を返した。カーヴェはそれに続く、が、後ろ髪を引かれるように振り返った。
「あの、奥様はどうされたんですか?」
「……あれは関係ない」
 ふんっと家人は鼻を鳴らした。


・・・


「自分の娘を不気味、不気味と! なんて酷い親なんだ!」
「リスクを冒してまで更生させようとしていただけだろう」
「そのリスクの結果が変死だ。決して認めるわけにはいかないね!」
「そうか。しかし、ぬいぐるみか」
「その点は分かるよ。ぬいぐるみはイヌ科だった。正しくは狐。くそ、忘れていた」
「何を忘れていた?」
「あの子の友人たちは先々日にコックリさんを試している。狐を使うタイプのやつだ。あの子自身は関わらなかったようだが、何らかの魔術に興味を持った可能性が高い」
「魔術となると、セノとティナリが何か話を持って来るだろう」
「何故だい?」
「そもそも、君があやとりの話を持ってきた。あと、とりがらと言っていただろう」
「"あやとり"と"とりがら"に何の関係があるって言うんだ!」
「あやとりはそのままだ。あのお方が好んでおられる。とりがら、だが。君は何故とりがらなどと言った?」
「それは、」
 カーヴェは口を閉じる。言いたく無い、そのオーラを出している。アルハイゼンはすたすたと事務所に向かう。カーヴェも仕方なくその後に続いた。


・・・


 事務所にはティナリとセノがいた。
「ナーサリーマジックが決行された痕跡があったそうだ」
「こちらは狐のぬいぐるみだな。トリアージについてティナリに確かめたい。色によって患者の優先順位を付けるものだったか」
「まあ、大体は」
「緑、黄色、赤、そして、黒」
「赤まではまだ可能性がある。黒はもう手遅れだね」
「……カーヴェ」
 セノがそっとカーヴェに近寄る。カーヴェは黙っている。ペンが握られていた手を、セノが持つ。そして、小指を見た。
「何があった」
「何も無いよ」
「ではこの跡は何だ」
「分からないんだ。ただ、僕は"あやとりの相手になった"んだよ」
 べたり。カーヴェの小指には赤褐色の血の痕があった。

 アルハイゼンが見逃すなんて!
 ティナリはそう怒りながらカーヴェの体を診察する。他に気をつけるのは足首だ。だが、こちらには何も無い。ただ、両手の小指はダメだった。
「触覚がない!」
「僕としてもビックリしてる」
「冷静だな。で、まだ何を隠してる?」
「うーん、僕もよく分からなくて」
 ならばとセノが何か言う前に、アルハイゼンが口を開いた。
「ナーサリーライムとは、マザー・グースだ。つまり詩の形を取っている。カーヴェ、君は何を聞いた? 何故とりがらだった」
 分からないよ!
 カーヴェは言った。
「ただ、歌が聞こえるんだ。

あやとり
とりがら

「鳥、殻」

すてるあか

「赤を捨てた」

かあさんそろって
あやとり
とりがら
がらがらん

「がら、殻、が、がらん」

ざしきのさきに

「奥座敷なのか、これは、むしろ座敷牢で」

ろうそくのけぶり

「和蝋燭は煙がほとんどない。"けぶり"ならば、洋蝋燭なんだ」

ふくはみどり、
きいろ、あか

「トリアージ、緑、黄色、赤」

そうっとのぞいて
まっくろ、くろ

「もう、死んでる」


 ぺた、ぺたり。少女が立っている。アルハイゼンがカーヴェを掴み、引き寄せる。ティナリは弓を構え、セノは前方で立つ。

 少女はするりと首元に当てていた白い布を取った。しゅる、しゅるり、そこには真っ赤な血液が流れていた。
 麻縄程度のもので絞められた。麻縄が擦れて、血が、流れた。

「イマジナリーフレンド、か」
 セノが言う。アルハイゼンがなるほどと言う。
「つまり、この少女は、あの変死体の女学生のイマジナリー(仮想)だと」
 答えたのはティナリだ。
「おそらくね。厄介だな。カーヴェが一番相手取れないやつじゃないか」
 カーヴェは虚な目で少女を見ている。
「あや、とり、とり、がら、すてる、」
「っ! 歌わせるな!」
 セノが警告する。少女が動いた。白い服で、片手剣を使ってセノに飛び掛かる。まずはティナリの矢が放たれた。掠りもしない。戦闘技能が高い。
「あか」
 ぼうっとカーヴェの目から光が抜け落ちる。かくん、とその場に崩れた。メラックが緊急モードになる。アルハイゼンはカーヴェの口を手で押さえた。
「歌うな」
「あう、あうはい、ぜん」
「歌うな、恐らく、歌った人間のイマジナリーフレンドとして振る舞い、隙を見て殺し、そして、成り代わるつもりだ」
「は、」
 カーヴェがばちばちと瞬きをする。セノが少女を捕獲した。少女は一言も語らない。ただ、うっすらと笑っている。
「あう、う、」
「歌うな」
 ううとカーヴェは首を横に振る。アルハイゼンが手を離すと、何度か咳き込んでから、少女に近寄った。
「君は、捨てられたのかい」
 少女が目を丸くする。カーヴェは、そんな少女を抱きしめた。
「僕は、君たちがすきだよ」
 少女は、"処女の仮想"は、その言葉で漸く成仏したのだった。


・・・


「アルハイゼンっ!!」
「何だ騒々しい」
「人の部屋に勝手に入るな! ガラスケースを動かしただろう!」
「俺の屋敷だが?」
「煩い煩いうるさーい!」
「大体、血液塗れの手紙と麻縄など保存しておく意味もない」
「でも、あの子の忘れ形見だろう! きちんと処理してあげないと」
「知らん。裏の焼却炉で燃やした」
「このっ、効率厨!!」
「君はいちいち行き過ぎた思いやりを持ち過ぎているんだ」
「行き過ぎてなんかない!」
 わあわあぎゃあぎゃあとカーヴェが騒ぐ中、旦那様方とメイドがやって来た。
「ティナリ様とセノ様がいらっしゃいましたよ」
「通してくれ」
「あ、ぼ、僕は下がる」
「ほう? 今度は何をした?」
「何も、何も無いったら、無い!」
「へえ、吐血したって聞いたけど」
「血の処理はきちんとしたから汚くは、な、い……」
「そうか。処理は気をつけるといい」
「そう。処理は完璧だったみたいだね。メイドが目撃したみたいだけどね?」
「ひっ、ひえ」
「カーヴェ。君はしばらく迷い猫探しでもしていろ」
「うるっさいな! そのつもりだよ!」
 ティナリは騒がないのと笑顔で怒りを表し、セノは魔術の塊なんぞを抱きしめたのだから自業自得だなとぼやいていた。

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