タイトル:星の贄
ジャンル:クロスオーバー/名探偵コナン/原神
要素:事件、ミステリー風味の何か、不可思議、元素はある

※サクサク進めるためにほぼ会話文です。

カーヴェ…建築デザイナー。休暇として一年前から日本に来ている。
メラック…万能スマホ。元素で動いてる。

江戸川コナン…小学生。名探偵。不可思議(元素も魔力も)を無効化する。

アルハイゼン…FBIの非戦闘員。カーヴェは人間。探偵ではないが……?

毛利蘭…高校生
鈴木園子…高校生
世良真純…高校生

灰原哀…小学生
吉田歩美…小学生

ナヒーダ…???

旅人…双子揃っている。パイモンもいる。元素案件担当。七神の居場所を把握している。

七神…ナヒーダはFBIと共にいる。ウェンティはドイツ在住。他は現在不明。どっかにいる。

魔女界…まじ快要素。カーヴェ母はイギリス魔女。

愛の種…カーヴェの性質と魔女の血と元素が噛み合ってしまった故の幻覚、幻想、催眠。探偵、神の目持ち、魔女には効きが悪い。名探偵には一切効かない。犯罪者、心の不安定な者の深層心理に巣食った光であり、闇。寵愛の呪い。庇護の呪い。それらの牙は全て、カーヴェへと向き、蝕み、しかし巡り巡ってカーヴェの益となる。なお、カーヴェに愛の種の意図は一切ないので認識に齟齬がある。


・・・


 しゃん、しゃん。祭りが開かれている。

 しゃん、しゃん。巫女が舞う。

 しゃん、しゃん。贄になるは、生きた、

 しゃん、しゃん。宵の明星がひかりだす。


・・・


 コナンたちは夏祭りに来ていた。日本の街から離れた、田舎町のそれなりに知名度のある祭りだ。二泊三日で三日間ある祭りを楽しむ予定である。
 きゃらきゃらと楽しそうな歩美と灰原を、いつもなら見守る女子高生三人組も、今日ははしゃいでいる。
「あれ美味しそう!」
「食べ物以外も色々あるね」
「カーヴェさんは何かほしいものありますか?」
「うーん、あ、風鈴とか」
 コナンはジト目で見上げた。
「アルハイゼンさん、こういうの来る方なの?」
「さあな」
「というか何でいるの?」
「カーヴェに誘われただけだが」
「へー」
 その割には不機嫌そうだな。コナンは呆れた。なお、コナンとしては蘭とカーヴェがいくら仲良くしていようと、そこに恋愛感情がないことははっきりと知っているので、嫉妬はしない。アルハイゼンが嫉妬しているかは知らないが。というかどういう関係性なのかいまいちわからないままである。

 そんなコナンとアルハイゼンを、灰原は歩美に引っ張られながら、仕方のないひとたちと息を吐いていた。

 ちなみに、源太と光彦は予定が合わなかったため、来ていない。阿笠博士はいそいそと祭りの屋台を見ている。お土産は必須であった。


・・・


 休憩所で休む。カーヴェは息を吐いた。アルハイゼンは隣で本を読んでいる。他のメンバーは祭りの中だ。
「アルハイゼン、なんでついてきたんだよ」
「君が体調を崩しかねないからだ」
「体調管理ぐらいできる!」
「大声を上げるな。先日まで頭痛に苦しんでいただろう」
「あれは愛の種で犯人と繋がっていたからだろ。もう何もない」
「君のことだから彼女たちに合わせる」
「当然だろ」
「では、君の体調はどうなる」
「言われなくても分かる。何だ、心配でもしてるのか?」
「倒れた君を回収した数は、」
「数えなくていいんだよ、そういうのは!」
「叫ぶな」
 そこへ、少女がやって来た。くすくすと笑う。
「カーヴェ様、アルハイゼン様、相変わらずですね」
「綾華さん、そう言わないでくれ。耳に痛い」
「ほう、まだ恥があったか」
「うるさいぞ、アルハイゼン!」
 綾華はくすくすと笑って、すっと封筒を差し出した。
「今回の件です」
「形があってもいいのかい?」
「耳から入ると情報が歪んでしまいます」
「それは尤もだな」
「僕が先に読む」
「焦らず読め」
「わかってるよ」
 カーヴェは封筒の中の文書に目を通す。綾華とアルハイゼンはその間に口を開いた。
「最近は暑いですね」
「そうだな。カーヴェが夏バテしそうだ。神里家はどうだ」
「トーマが見張ってくれるので、なんとか」
「それはいい」
「はい。そういえばコレイさんが帰国したそうで」
「俺と入れ違いになる」
「そうでしたか? 少しズレがあるような」
「多少は猶予を持って移動した」
「ホテルをとったのですね」
「ああ。慣れなかったが」
「誰であろうと、家が落ち着くものですから」
 そこでカーヴェが文書をアルハイゼンに手渡した。その顔はかたい。
「綾華さん、もしかしてしばらくここに?」
「はい。お兄様とトーマも来ています」
「他は?」
「未だ。実を言うと"間に合わない"んです」
「荒瀧君とか……」
「無理があります。海は遠い」
「本当に三人なのか……」
 カーヴェは息を吐く。アルハイゼンはさっさと文書を読み終えて、封筒に入れて、綾華に返した。
「それでこの後は?」
「こちらは探っています。カーヴェ様には、事前準備の通り、囮になっていただくしか」
「構わないよ。名探偵を引きつけよう」
「そうではなくっ」
「分かってる。ただ、愛の種は僕が回収したい」
「ですが、」
「心配しないでおくれ。人の道理を外れたひとにまで心は砕かない」
「……ならば、できれば、怪我だけは」
「綾華さんは優しいね」
「いえ、優しいのはカーヴェ様です。私たちは、貴方を利用するのですから」
「優しくてもいいんだよ」
 カーヴェの温かな拒絶に、綾華は口を閉じる。アルハイゼンが静かに言った。
「こちらとしても調べたいことがある」
「できる限りの協力はします」
「では、必要な文献だが……」
 すらすらと交換条件を指定するアルハイゼンの声を聞きながら、カーヴェはぼんやりと外を眺めていた。
 ハレとはいえ、平和な人々の声がする。夏、日差しはまだ傾かない。明日はもっと陽が長い。単なる夏の現象でしかないのに、カーヴェはその長い陽が照らす短い影を思う。光は溢れている。影はひどく、短く、小さい。
 取引はまとまった。カーヴェはぼんやりしつつもきちんと聞いていたので問題ない。綾華が休憩所から去っていくのを、見送る。
「カーヴェ、熱中症だろう」
「そこまでじゃないけど、熱いな」
「酒は飲むな」
「今日は飲まない」
 ただ、どうしても、小さな影が気になる。


・・・


 夕方。コナンは蘭と並んでいた。世良と園子、歩美と灰原、そして阿笠博士は祭りを楽しんでいる。
「コナン君、蘭さん、お茶だよ」
「わ、カーヴェさん、ありがとうございます!」
「ただのミルクティーだよ?」
「でも買って来てくれたので、」
「そう?」
 カーヴェはキョトンとしている。アルハイゼンはさっさと席に着いて本を読んでいた。コナンは、どこでも本を読むなこの人と思いながら、カーヴェが渡してくれたミルクティーを飲む。甘くて、香りが強い。コナンはミルクティーに詳しくないが、美味しいと思えた。ただ、
「久しぶりに、カーヴェさんの淹れてくれるチャイが飲みたくなりますね」
「うん? 今度、阿笠博士の家で作ろうか?」
「はい、ぜひ」
 蘭の言葉はコナンが考えたものとよく似ていた。蘭も新一も、なんならコナンでさえ、一番最初に飲んだ紅茶はカーヴェの作るチャイだ。普段コーヒー派なカーヴェだが、たまに作る手の凝ったチャイはとても美味しい。
 ふわふわと話す蘭とカーヴェを横目に、ちらりとアルハイゼンを見てみる。彼は特に反応することなく、本を読んでいた。コナン(名探偵)からしてみれば、少し不満そうなのが分かる。だが、何も言わないのは何故だろう。
 コナンはううむと考える。アルハイゼンはそもそも蘭に甘い。というか、コナンにも甘いのだ。それはアルハイゼンが蘭とコナン以外と話す時に淡々としているから分かる。蘭とコナンには甘い信頼を感じるのだ。ではカーヴェに対しては。そこにはアルハイゼンからカーヴェへの甘えが見える、とコナンは思う。カーヴェはアルハイゼンにはいつも素で接していて、コナンから見ても蘭から見ても安心する。
 つまり、アルハイゼンが不満なのは、カーヴェが自分以外を甘やかしているから、となる。
 分かりづらい上にめんどくさいな。コナンは甘いミルクティーを飲みながら思った。


・・・


 借りた民宿。カーヴェは縁側に腰掛けて、中庭を眺めていた。見事な中庭である。苔むした石の配置が絶妙で、カーヴェはじいと観察する。
「カーヴェさん」
「やあ、綾人さん」
 するりと隣に座ったのは綾人だった。手には小箱を持っている。
「こちらが指定いただいたものです」
「早いね」
「すぐに手に入ったので。こんなものでよろしいのですか?」
「綾人さん達が選んだんだから、間違いはないだろうに」
「目利きに関してはそれなりに。ですが、貴方の要望に応えれるかは、」
「そう控えめにならなくても大丈夫。ちゃんとしてるじゃないか」
「本職でしょう」
「ただの建築デザイナーだよ」
 カーヴェは小箱を手に、開く。中身を確認して、閉じた。
「トーマ君は?」
「アルハイゼンさんの元です」
「ええ、逆だろ、普通」
「今回はカーヴェ様の負担が大きいですから」
「そんな理由で?」
「そんな理由です」
 分からないな。カーヴェは苦笑した。

 その時、声がした。
「カーヴェさん、その人は誰?」
 ふと顔を上げると、世良がにこりと笑っている。明らかに綾人を警戒していた。
「世良さん。こちらは、ただの知り合いだよ」
「ふうん」
「では、カーヴェさん、また今度」
「うん、ばいばい」
 綾人はさっと立ち去ったが、世良とすれ違い際に何か呟いていた。世良はそれに眉を寄せて、足音を立ててカーヴェの隣にやってくると、縁側に座った。
「で、あの人、誰」
「ただの知り合いさ。探偵に必要な情報ではないよ」
「ふうん」
「信用してないなあ」
「まあね。カーヴェさんもボクも秘密主義だから」
 すうと世良がカーヴェを見る。カーヴェは困ったように笑うだけだ。
「こうして話すのは、初めてだね」
「うん。カーヴェさんはいつも蘭さんかコナン君と居るから」
「はは、気を抜いてしまったよ」
「なんでこの村に来たの?」
「夏祭りのために」
「何かあるの?」
「何にも。きっとね」
 世良はじっとカーヴェを見据える。
「貴方はボクが普通の人じゃないと知ってるよね」
「うん」
「じゃあ、話してよ」
「ダメだよ」
 しぃとカーヴェは指先を自分の唇に寄せた。
「ひみつ」
「秘密主義だ」
「お互いね」
「じゃあ、いつになったら教えてくれる?」
 問いかけに、カーヴェはそうだなあと夜空を見た。そろそろ、花火が上がる。夏祭りの三日間、毎晩花火が上がるはずだ。
「舞が、」
「え?」
「舞が終わったら、分かるよ」
 カーヴェは静かに俯いて、目を伏せる。世良が手を掴んだ。
「カーヴェさん、見て」
 空を見上げた。ひゅうるるる、どん。
 花火だ。
「これは、見事だね」
 思わず述べると、世良はうんと上擦った返事をした。


・・・


 朝、カーヴェはさてとアルハイゼンを見た。
「お目当ての情報は整理できたかい」
「不足はない。あとは、名探偵に話すべきだな」
「コナン君のこと、任せるよ」
「名探偵を引きつけるんじゃないのか」
「その為にもやるべきことがある」
「怪我はするな」
「うまくやるさ。君こそ怪我するなよ」
「当然だ」


・・・


 夏祭りの二日目。コナンたちは神社に来ていた。
「夕方に舞を奉納するらしいわ」
 灰原が言う。コナンはへえと聞いた。
 順番に参拝し、ふらふらと歩く。きら、と何かが光った。コナンはすたたと向かった。灰原は歩美の声に気を取られていた。

 そこにあったのはきらりとしたガラス片だ。道は逸れているが、神社の境内にこんなものがあるだろうか。ふっと顔を上げる。参拝客のざわめきの中、赤い服の男がコナンを見ていた。
 男はコナンと目が合うと、へらりと笑った。そして去っていく。コナンは眉を寄せて、ガラス片を見る。まだ新しい、ような。
 さっと近くを見回した。ガラス窓が割れている。
 音を立てないように近寄る。小屋のガラス窓を覗くと中は静かだった。誰もいない。が、ところどころに水溜りのようなものがある。
 赤い。
 血液らしきものが、水溜まりとなっていた。それがいくつかある。神社にふさわしくない暴力的な痕跡に、コナンは不可解になる。中に入るべきか、否、ここには誰もいない。おそらく、なんらかの証拠もない。

 コナンはその場を離れて、ガラス片を元に戻すと、コナンを探している蘭の元へと向かった。

「あれ? アルハイゼンさんとカーヴェさんは?」
「ええと、分からなくて。でも多分大丈夫じゃないかな」
「大人だもんね」
「そう。夕方の舞を楽しみにしてたみたいだから、そこで合流できると思うの」
「そうだね」
 そこへ、園子がやってくる。
「蘭っ! 世良ちゃんがどこか知らない?」
「え? いないの?」
「そーなのよ。どこ行ったんだか」
 呆れ声の園子に、蘭は、何か興味を引くものがあったのかもと苦笑した。
 コナンはそれを聞いていたが、視界の隅に灰銀の髪を見かけた。アルハイゼンが社務所に向かっていた。

 たったとアルハイゼンの元に向かう。アルハイゼンはじいとお守りを見ていた。
「気になるの?」
「思ったより、小さな袋だな」
「アルハイゼンさんが大きいだけでしょ」
「そうか」
「欲しいの?」
「特に神頼みする事柄はない」
「そんなに身構えることないよ」
「身構えたつもりはない」
「家内安全とか?」
「結婚はしていない」
「アルハイゼンさん、よく家にいるから」
「なるほど。では二つ買おう」
「なんで?」
「カーヴェもよく家にいる」
 なんか違う。コナンは思ったが、アルハイゼンはさっさとお守りを二つ買っていた。いいのか。
「江戸川コナン、少し話したいことがある」
「その呼び方は変だよ」
「江戸川」
「コナンでいいよ」
「コナン、少し時間をもらう」
「どうぞ」
 コナンとアルハイゼンは境内の隅に移動した。きら、と光るものがある。コナンはすぐに駆け寄った。ガラス片だ。断面が透明で、まだ新しい。
「ガラス片か」
「アルハイゼンさんは身に覚えある?」
「無い。そもそも話そうとしたことには、関係ないはずだ」
「そうなんだ」
 周囲を見る。何もない。先ほどの小屋で何者かがガラス片を服につけて、ここで払ったと考えた方が早い。
「それに何かあるのか」
「別に。で、話って?」
「舞についてだ。少し調べた」
「この神社の?」
「そうだ」
 アルハイゼンはすらすらと語る。
「そもそも、この神社の成り立ちは巫女がやって来たことにある。まれびとだ」
「ふうん」
「巫女を手厚くもてなし、巫女が舞を奉納すると、村は栄えた」
「巫女さんはいつまでもいたの?」
「さあな。ただ、文献の記録としてはそこまでだ。ただ、巫女の末裔と名乗る家はある」
「アルハイゼンさんは違うと思ってるのか」
「ああ。名乗っているだけだろう。だが、舞を行うのはその家の親族の娘と決まっているらしい」
「へえー」
「今年は去年と同じで、和美(カズミ)という女性らしい。大学生だそうだ」
「和美さん、か」
「基礎情報はとしてはその程度だ」
「それ以外は?」
「あえて言うなら、俺は贄が気になる。巫女をもてなした、は簡単に言えば、料理などが該当するだろう」
「そうだろうね」
「この村に伝わる料理はあるのか、と少し考えているぐらいだな」
「じゃあ、どうしてボクに話したいのか聞いてもいい?」
 アルハイゼンはじっとコナンを見た。コナンはにこりと笑う。
「カーヴェさんに何かあったの?」
「何故そう思う」
「ボクはアルハイゼンさんが積極的に動くことなんて、カーヴェさんが原因の時以外、知らないんだよね!」
「別にカーヴェのためではない」
「ふーん」
「だが、そうだな。カーヴェのためではないなら、言うか」
 しれっとアルハイゼンは言った。
「この神社は巫女に贄を捧げる。巫女が望んだのは、人間だ」
「は?」
「文献には贄とある。だが、現代では殺しはしない。人間を閉じ込めて清め、まっさらにして、巫女に捧げる、らしい」
「まっさらって?」
「白い服でも着せるのだろう。死装束だな」
「うわあ」
「その生贄がカーヴェは気に入らないらしい。だから、カーヴェがその生贄役を引き受けたいと、手筈を整えていた」
「は?」
「俺がこの祭りに来たのは、あれが自己犠牲に走らないようにするためだ」
「つまり止めたいの?」
「健全な祭りなら止めはしない。だが、コナン、何か知っているだろう」
 アルハイゼンは続ける。
「何か異常があったんだろう」
「まあね」
 コナンは血溜まりのあった小屋について、説明した。
 それを聞いて、アルハイゼンは眉を寄せる。
「そんなものがあったのか」
「あったよ。想定外?」
「……どこまで見抜いた?」
「カーヴェさんにボクを頼まれたんだなあって」
「そうだ」
「でも血溜まりは本当に想定外だった」
「そうなる。カーヴェではないはずだ。そんなに血を流していたら流石に抵抗する。では、何者の血だ?」
「アルハイゼンさんとしては人間のものだと思う?」
「そうだとしか思えない。巫女は人間を求めている」
「被害者が出てるね」
「血溜まりなんて、コナンの言い分からしてショック死するほどだろう。並の人間とは思えない」
「じゃあ人間の血じゃないのかな」
「動物か? だが、そうすると巫女にふさわしくない」
「人間だったら?」
「死んでいてもおかしくない。やはり、理が通らない」
 コナンは考える。動物だと巫女に合わない。人間だと死人が出る。そもそも、神社にとって。
「血液は、穢れ、だよね」
 ならばとアルハイゼンは言った。
「本当に血液だったのか」
「見に行く? 犯人に目をつけられるかもしれないけど」
「見に行こう。どこだ」
「こっち」
 二人で小屋に向かった。

 小屋にはやはり血溜まりがあった。中は荒れていて、人の気配はない。アルハイゼンはさっと周囲を見てから、小屋の中に侵入した。コナンもするりと入る。
 まず血溜まりを確認した。確かに血液に見える。アルハイゼンも同意した。小屋の中はきちんと整理されている。いくつかある血溜まりだけが不可解だ。
「これが人間だとしたら、大人だとしてもショック死するだろう」
「そうだね」
「カーヴェではないはずだ。つまり、」
「カーヴェさんは生贄役をするんだよね」
「そうだ」
「もともとの生贄はどうやって選ばれるの?」
「その基準は、巫女にしか分からない」
「どういうこと?」
 アルハイゼンは言う。コナンは小屋の中を調べ続ける。
「クジだ。村人の名前が書かれたクジを巫女が引いて、生贄を決める」
「じゃあカーヴェさんはどうやって生贄役と交代できたの」
「巫女と話し合った可能性が高い」
「巫女さんはどこ?」
「わからな、待て、コナン」
 コナンは、よっと長持のひとつを開けた。
「ビンゴだよ」
 巫女装束を着た女がいた。

 息はある。アルハイゼンが女こと和美に適切な対応をする。和美は腹部を刺されていた。長くはない。コナンはそう思った。だがアルハイゼンは言う。
「この巫女は生きている。死にはしない」
「どうして?」
「こちらの判断だ。ただ休息(料理)は必要だろう。こんな場所で寝ていたら回復に時間がかかる」
「よく分からないけど、大丈夫なんだね?」
「大丈夫だ。だが、巫女が痛ぶられたとしたら、」
 誰が舞うというのか。


・・・


 和美の腰には神の目が輝いていた。


・・・


 世良は走り寄る。
「っ、カーヴェさん!」
「世良さん、僕はここに残る」
「ふざけるな! 残すわけないだろ!」
「でも、僕が生贄役を引き受けたんだ」
「だからって、殺されてもいいのか?」
「それは御免被るよ。死にはしない」
「話し合えば解決するって? そうは見えないよ」
 だとしてもと、カーヴェは掴まれた腕を振り解こうとする。世良は仕方ないと、カーヴェを抱き上げた。思ったより軽い。
「うわっ世良さん?!」
「黙って。早く逃げるよ」
 そこに女の影が現れる。しゃら、しゃらり。
 見つかった。世良は走った。
 女の影は追いかけてこない。でも、ゆったりと笑っているような気がした。


・・・


 園子は灰原と歩美と共に、阿笠博士を探しに行った。時間はそろそろ夕方だ。舞が奉納されるだろう。
 ふと、空を見た。一番星が光る。

━━「蘭さん、明けの明星は知っているだろう?」
━━「はい」
━━「じゃあセットで覚えておくといいよ」

 あれは。
「宵の明星……」


・・・


 しゃん、しゃん。

 定刻通りに舞の奉納が始まる。蘭は観客に混じって、一人でそれを見ていた。空には宵の明星。舞は鈴を用いたもの。神前には白くて丸い小さな器と、石が置かれていた。
 あの石はなんだろう。


・・・


「カーヴェさん、大丈夫?」
「うん。僕は死にはしないよ」
「様子がおかしいだろ」
「死にはしない」
「カーヴェさん?」
「落ち着いて。世良さんに頼みがある」
 依頼だ。カーヴェは虚ろな目で言った。
「僕の、命を、取り戻してくれ」
「え、カーヴェさん、おい、カーヴェさん!!」
 カーヴェは目を閉じた。


・・・


「カーヴェ!!」
 世良が顔を上げる。アルハイゼンとコナンが駆け寄って来た。世良は泣きそうになりながら言う。
「カーヴェさんが生贄役を引き受けたんだ。でも、おかしいんだ。カーヴェさんは暗い部屋に閉じ込められていて。もう舞の奉納の時間だろう? 贄なら祭壇近くには行くだろ? おかしいじゃないか!」
「アルハイゼンさんは何か心当たりある?」
「無い。それより、カーヴェは何も持っていないのか」
 アルハイゼンは言う。世良は言った。
「何も。ただ、命を取り戻してほしいとしか教えてくれなかった」
「チッ」
「え、アルハイゼンさん、どこに」
「想定外が起きている」
 アルハイゼンがカーヴェを抱き上げた。世良とコナンも連れて、アルハイゼンは走る。
「つまりどういうこと?」
「カーヴェが生贄役を引き受けるのは想定内だ。だが、偽物の巫女がいる」
「え?」
「あのね、本物の巫女さんは小屋に閉じ込められてたんだ」
「は? じゃあ、あの女って、」
「偽物だ。そもそも、今、その偽物の巫女はどこに?」
「舞は? 舞台!」
「舞の奉納は始まっているのか?」
 アルハイゼンは探偵たちと走る。


・・・


「あの石っ」
 蘭は気がついた。カーヴェがいつも持っている石に違いない。
「ねえ、貴女、」
「え、?」
「オレはトーマ。貴女は手慣れだよね。石にも気がついてる。少し協力してくれるかい?」
「どうやって、ですか」
「合図は花火だよ。そしたらあの偽物の巫女をオレが捕える。貴女はあの石を取り戻してほしい」
「あれは、カーヴェさんの石ですよね」
「そうだよ」
「なら、私、やれます」
「分かった」


・・・


 ひゅうるる、どんっ

 蘭は立ち上がって走った。トーマが偽物の巫女を拘束する。蘭は石だけを見つめて、手に取る。
「っ、カーヴェさん!」
 思わず石に縋り付く。ただ、ここにカーヴェの気持ちが入っている気がした。


「蘭姉ちゃんっ!!」
「コナン君! あ、カーヴェさんっ!」
「その石をカーヴェに持たせてくれ。それだけでいい」
「はい!」
 蘭はカーヴェの手に石を持たせる。すると、ふわりとカーヴェは目を開けた。
 世良がとにかくよかったと言う。アルハイゼンの腕の中からカーヴェは抜け出した。いつものように腰に石を下げる。
「犯人は?」
 コナンの問いかけに、蘭は言った。
「偽物の巫女さんなら、トーマって人が連れて行ったよ」
「トーマ?」
「カーヴェと俺の知り合いだ」
「間違い無いよ」
 とにかく無事だった。蘭は危機だったと悟り、へなへなと腰を抜かしたのだった。


・・・


「魔物がいるのは確かでした。ただ、こちらの書いた筋書きは、舞の奉納中に生贄役のカーヴェさんと我々が協力して魔物を倒すと言うもの。でも、魔物は巫女に化けた。そのうえ、神の目を欲した。舞が終わった時に食べようとしていた。カーヴェさんがこのような目に遭うことは本当に、予想外だったのです」
 綾華は言う。その言葉をナヒーダは電話口に聞いた。
『わかったわ。大丈夫。わたくしはおこらないわ』
「でも、」
『それでも何かしたいと思うのなら、今後もカーヴェたちにきょうりょくしてくれるかしら?』
「はい」
 綾華は強く言った。


・・・


 民宿。夏祭り、二日目の夜。カーヴェは縁側で麦茶を飲んでいる。コナンはその横に座っていた。
「あのさあカーヴェさん」
「何かな」
「体調不良とかない? 大丈夫?」
「平気だよ。もう悪いのは治ったかな。短時間だけの体調不良さ!」
「ならいいけど」
 そこでコナンが蘭に呼ばれる。
「行っておあげ」
「うん。無理すんなよな!」
「もちろん!」

 カーヴェは空を見た。また、花火が見れるだろう。
「カーヴェ」
「あれ、アルハイゼン?」
 アルハイゼンはカーヴェの隣に座った。そして、空を見上げる。カーヴェもまた、空を見上げた。
 ひゅうるる、どん。
「あ、花火」
 カーヴェは花火を眺める。
「なあ、この花火って、」
「おそらく、宵宮のものだろう」
「ということは昨日の時点で来てたのか!」
「ただ、花火の仕事から離れられなかったから、頭数に入っていなかったのだろう。まあ、花火も使うことになったが」
「そうか。にしても花火はいいよな」
「そうか」
「コナン君と蘭さん、花火見てるといいなあ」
「その方がうまくいく」
「うん、とてもね」
 カーヴェは笑う。

「そうだろ、世良さん」

 アルハイゼンの向こうで世良がびっくりしていた。
 世良はすたすたとやって来て、カーヴェの隣に座る。
「ねえ、体はいいのかい?」
「もちろん大丈夫さ」
「だったらいいよ。もうあんな無茶はいけないからな!」
「はは、仕方ないさ」
「もう」
 そうだと、世良は言った。
「ここで花火を見てもいいかい?」
「構わないよ。アルハイゼンは?」
「どちらでもいい」
「やった!」
 三人で空を見上げる。花火は夜に咲いていた。


・・・


タイトル:星の贄
ジャンル:クロスオーバー/名探偵コナン/原神
要素:事件、ミステリー風味の何か、不可思議、元素はある

カーヴェ…建築デザイナー。休暇として一年前から日本に来ている。今回は愛の種を回収できなかった。
メラック…万能スマホ。元素で動いてる。

江戸川コナン…小学生。名探偵。不可思議(元素も魔力も)を無効化する。

アルハイゼン…FBIの非戦闘員。カーヴェは人間。探偵ではないが……?今回は貴重な文献を読めて楽しかった。

毛利蘭…高校生
鈴木園子…高校生
世良真純…高校生。探偵。カーヴェさんは綺麗な人。

灰原哀…小学生
吉田歩美…小学生

神里綾華…高校生
神里綾人…???
トーマ…???。今回の愛の種は破壊した。

ナヒーダ…???

旅人…双子揃っている。パイモンもいる。元素案件担当。七神の居場所を把握している。

七神…ナヒーダはFBIと共にいる。ウェンティはドイツ在住。他は現在不明。どっかにいる。

魔女界…まじ快要素。カーヴェ母はイギリス魔女。

愛の種…カーヴェの性質と魔女の血と元素が噛み合ってしまった故の幻覚、幻想、催眠。探偵、神の目持ち、魔女には効きが悪い。名探偵には一切効かない。犯罪者、心の不安定な者の深層心理に巣食った光であり、闇。寵愛の呪い。庇護の呪い。それらの牙は全て、カーヴェへと向き、蝕み、しかし巡り巡ってカーヴェの益となる。なお、カーヴェに愛の種の意図は一切ないので認識に齟齬がある。
魔物に宿った。カーヴェを欲した故に、神の目を取り込みたかった。

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