タイトル:満月の狂気
ジャンル:クロスオーバー/名探偵コナン/原神
要素:事件、ミステリー風味の何か、不可思議、元素はある

※サクサク進めるためにほぼ会話文です。

カーヴェ…建築デザイナー。休暇として一年前から日本に来ている。
メラック…万能スマホ。元素で動いてる。

江戸川コナン…小学生。名探偵。不可思議(元素も魔力も)を無効化する。
沖矢昴…大学生。FBI。赤井秀一。カーヴェはFBIのもの。

アルハイゼン…FBIの非戦闘員。カーヴェは人間。

毛利蘭…高校生

灰原哀…小学生

笠っち…中学生。笠のメラックを所持。

ナヒーダ…???

旅人…双子揃っている。パイモンもいる。元素案件担当。七神の居場所を把握している。

七神…ナヒーダはFBIと共にいる。彼女以外は現在不明。どっかにいる。

魔女界…まじ快要素。カーヴェ母はイギリス魔女。

愛の種…カーヴェの性質と魔女の血と元素が噛み合ってしまった故の幻覚、幻想、催眠。探偵、神の目持ち、魔女には効きが悪い。名探偵には一切効かない。犯罪者、心の不安定な者の深層心理に巣食った光であり、闇。寵愛の呪い。庇護の呪い。それらの牙は全て、カーヴェへと向き、蝕み、しかし巡り巡ってカーヴェの益となる。なお、カーヴェに愛の種の意図は一切ないので認識に齟齬がある。


・・・


『それで?』
「こちらとしてはそれまでだ」
『あーもう、君はどうして"そう"なんだ。わかった、把握はする。君は日本に着いたら連絡しろ』
「日本語に不自由はしない」
『君が困ることはない。僕が困るんだ。ただでさえ、今の僕は周囲にやたらと見られてるんだから』
「自業自得だ」
『うるさい! とにかく、迎えに行くから』
「いらん。やることがある」
『まあ、さっきの事項が"本当"なら、やることはあるだろうけど』
「嘘を言っていると」
『君の言葉を額面通りに受け取るつもりはない。というより、明らかに含みと矛盾がある。そうだろ?』
「ああ、よく分かっているな」
『君と何年ルームメイトやってると思ってるんだ』
「その胆力、常に発揮してもらいたいものだ」
『胆力? そんな御恐れたものじゃない。これは』

『だって僕が悪かったんだから』
「必要以上に気に病むのは無駄だ」


・・・


「コレイおねーさん?」
「あ! コナン君いた!」
 たったとコレイが駆け寄る。場所は喫茶ポアロ前だ。朝、登校時間。人通りは多少だとしても、ある。
「コナン君に頼みたいことがあるんだ」
 コレイはすらすらと英語を話した。コナンはこくりと頷く。
「最近、新しい博物館ができただろ?」
「うん」
「そこにビッグジュエルがあるだろ?」
「うん」
「怪盗KIDの予告状があっただろ?」
「うん」
「その博物館のオープニングセレモニーが近々あるんだ。そこに、カーヴェさんが呼ばれてる」
「なんで?」
「博物館の設計に少し関わってるらしいぞ。セキュリティに関わってはないらしいけど。あと、」
「うん?」
「ビッグジュエルの広告塔にカーヴェさんを使いたいんだと思う……あたしはそこまで知らないけど、カーヴェさんがモデルの依頼にうんざりしてたんだ」
「怪盗KIDの時の写真からかな?」
「うん。で、なんだか嫌な予感がするんだ。なあ、カーヴェさんは前に怪盗KIDに攫われたんだろ? ニュースで見た!」
「うん」
「できればカーヴェさんを、ひとりにしないでほしいんだ。難しいだろうけど、でも、もしも、カーヴェさんに何かあったら、困るのはあたしも含めたみんなだ」
「なんでボクに頼むの?」
「だって、コナン君は」
 コレイは首を傾げた。
「KIDキラーなんだろ?」
 そこかあ。コナンは苦笑した。
「ボクはただの小学生だよ、コレイおねーさん」
「頭がいいことはあたしにだって分かるぞ!」
 じゃあ、さよなら。コレイはそう言って駆け出した。あっという間に消えたコレイに、コナンは呟く。
「コレイおねーさん、さよなら」

 コレイ、帰国。


・・・


「カーヴェさんっ!」
「あ、笠くんどうしたの? はいコーヒー飴」
「どうも。違う。あの子帰った?」
「うん。というか笠くん、学校」
「サボった。あー、くそ。はいこれ」
「サボってもいいけどご両親が心配するよ。はい、笠くんメラックのメンテナンスね」
「三ヶ月もメンテナンスしてないんだから、不安にもなるでしょ」
「笠くんがメラックを大事にしてくれて嬉しいよ」
「うるさあい。メラックで最近の元素関係者の様子みてたけどさあ」
「うん」
「カーヴェさん、何してんの?」
「何って?」
「女性たちにメールしてる」
「中身は見た?」
「見た上で聞いてんの。色々言いたいとこあるけど、とりあえずドレスって何?」
「僕は女装するつもりはない。とだけ、言っておくよ」
「じゃあ誰が着るのさ」
 アレ、とマシュは部屋の隅の箱を指差した。
「数箱分あるじゃん、衣装」
「僕は女装するつもりはない」
 カーヴェはきっぱりと言って、笠のメラックのメンテナンスを続けた。


・・・


満月が示すほほえみ、愛されるべきこども
近づく満月がこどもを抱くとき
"最高の疵"をいただきに参りましょう。

怪盗KID


・・・

 遡ること数日前。

 怪盗KIDからの予告状である。コナンはKIDキラーとして見せてもらっていた。毛利小五郎が隣にいる。目の前には博物館アマルの館長である古津幹コニス(コズミキ コニス)がいた。
 コニスは穏やかそうな女性だが、予告状に動じない覚悟はあった。
「警察には?」
「もう話しました。そこから、毛利探偵事務所を紹介いただいたのです」
「そうでしたか」
 コナンはじろじろと予告状を見ていたが、裏面に気がついた。
「ねーねー、裏に何かあるよ?」
「は?」
「そちらもご覧ください」
 小五郎が裏返す。コナンは見た。
「なんだこれ」
「おそらくアラビア語です。翻訳しますね」
 すらすらとコニスが口にする。

うつくしき言葉を汲むひと
せめて満月の夜は安らかに
このひとときだけはふたり
願いましょう叶えましょう
そして愛する幸福な日々を
━━あなたと言葉を交わせますように

「あん?」
「怪盗KIDが、特定の誰かに宛てたものかと」
「警察は知ってるの?」
「勿論です」
「こんなラブレターみたいなもの、怪盗KIDが書きますかねえ」
「しかし、書いてあったので……」
「コニスさんはアラビア語読めるんだね!」
「はい。私の専攻は学生時代からずっとエジプト考古学ですし、博物館はエジプト考古学系ですよ」
「ええ、ごほん。コニスさんは怪盗KIDに狙われたものは何だと?」
「怪盗KIDは宝石を盗むと聞きました。宝飾品は当館にはとても多いです。その中でも最高の価値といえば、大粒のエメラルドでしょうか」
「ビッグジュエルなのー?」
「ビッグジュエルではあります。ただ、キズというのが分からなくて」
「キズ?」
「最高の疵と書いてあるのですが、最高級の宝石ならビッグジュエルのエメラルドです。でも、そのエメラルドにキズなんてありません」
 コニスは首を傾げている。コナンはただ、じっとコニスを見ていたが、ふと、コニスが連れてきた女性を見た。
「ねーねー、おねーさんは心当たりあるの?」
「あ、うん?」
「こらガキ! すみません」
「別に大丈夫だよ。特に心当たりはないな」
「あのうすみません、コニスさん、こちらの女性は?」
「ディシアといいます。当館の警備担当ですよ」
「よろしくな」
「お若いですね?」
「若いでしょうね。でも、経験は一級品です。当館にふさわしいですよ」
「ディシアさんは本当に何もないの?」
「何もない。ただ、」
「ただ?」
「何で子供がここにいるかが気になるな」
「まあ、ディシア。彼はKIDキラーだと聞いたでしょう?」
「そうだけど」
 ディシアはまあいいさと肩をすくめた。


・・・


 かくして現在。

 怪盗KIDからの予告状は報道機関にも送られた。あれこれ考察するニュースを聞きながら、コナンは阿笠邸にいた。
「どうしたんじゃ新一」
「いや、なんか」
 コナンは丁寧に書き写したメモを見返す。
 今朝、コレイと会った。コレイは帰国するところだった。何故そんな忙しい朝にコナンを訪ねて来たのだろう。勉強を見ていたことがそんなに重要だったのだろうか。
 コレイはFBIの潜入員の見習いであった。赤井はコレイの報告書を盗み見ては、優秀そうだと言っていた。そんなコレイはカーヴェの元で様々な訓練をして、帰国した。コレイの報告書には日本の当たり前の日常しか書かれていない。コナンに関しても、頭のいい小学生程度のものだった。
 だからこそ、コレイの能力は未知数である。これまでコレイは見習いとして当たり前のことしかしなかった。重要なことには何ら関与していない。だけど、コレイはコナンを信用したのである。
 勉強を手伝っただけで?
「コナン君?」
「あ、カーヴェさんだ」
「灰原さんはいるかい? 少し意見が聞きたくて」
「哀君ならよんでくるわい」
「阿笠博士、お願いします」
 阿笠博士が奥に消えた。コナンはさて、とカーヴェを見上げた。
「カーヴェさんのところに予告状はきた?」
「ただの建築デザイナーに来るわけないだろ」
「うん」
「まあ来たけどさ」
「だろうね」
「知ってたのかい?」
「今朝、コレイさんが来たよ」
「ええ? なんで?」
「随分とカーヴェさんのことを気にしてたよ」
「ああもう。いつの間にそんなに仲良くなったんだか」
「普通かな。で? 予告状を見せてもらえる?」
「いいよ」
 すっとカーヴェが差し出したのは数日前に見た予告状と同じものだった。
「報道機関には遅くに送られたのかな」
「たぶんね。カーヴェさんはいつこれが届いたの?」
「数日前かな。詳しく言うと三日前」
「おっちゃんのところに話が来たのも三日前だぜ」
「コナン君が初めて見たのも三日前か」
「そーいうこと。カーヴェさんはどう思う?」
「あまり関心はないんだけど」
「けど?」
「これを機に、僕をモデルとして使いたいらしいよ」
「カーヴェさんは見た目がいいからな」
「僕はただの建築デザイナーだ! モデル業はしてない!」
「はいはい。で、何かあったの?」
「博物館の広報から衣装がどさどさ送られてくるんだ」
「うわあ」
「まだ衣装合わせはしてないよ。でも、似合いそうなものを片っ端から送ってるみたいだ。今朝も届いた」
「ねえ、何か異物とかはないよね?」
「無い筈だよ。たぶん」
「たぶん?」
「金属探知機が使えない。衣装に金属の飾りがあるからね。その他の探知機も素直に使えないようなものばかりだ」
「はあ?」
「僕なりに検査と確認はしてる。でも、見逃しがありそうだから、リビングに積んでおくことしかできないな」
「紙切れとかは?」
「予告状ってことかい? たぶん無い、としか」
「カーヴェさん」
「分かってる。不用心だ、ってことだろ? でも届いた物、全てを確認するのは無理だ」
「普段なら全部確認するだろ」
 コナンの指摘に、カーヴェはそれがねと息を吐く。
「別件の仕事が入ってるんだよ」
「時間がないってこと?」
「そういうこと。家に来るかい?」
「後でね」
 そこへ灰原がやってきた。

「何なのよ」
「灰原さん、忙しいところにごめんね」
「別にいいわ。用件は?」
「衣装を見てほしくて」
 カーヴェは写真を印刷したものを鞄から取り出した。灰原が首を傾げる。
 コナンも見た。どれもが煌びやかなドレスだった。
「綺麗ね」
「そうだね」
「これが何なのよ」
「僕が選別した、比較的マシな衣装だよ」
「は?」
 コナンがぽかんとする。先ほどの話からして。
 カーヴェは静かに言った。
「とある人たちが僕に着せたいらしくてね。灰原さんから見て、男の僕に似合いそうなもの、ある?」
「頭が痛いわ」
 カーヴェも灰原も頭痛がしたらしい。コナンはなるほどなと呆れた。
「どれも女性ものだろ。カーヴェさんは骨格的に無理があるって」
「男性物に作り直すらしいよ」
「どこまで信用してるのよ」
「信用してないからマシなものを選びたいんだ」
 カーヴェはやっぱり頭痛がするらしい。

 コナンは写真の中のドレスを見ていく。そして、ふと、気がついた。
「どれも緑色だな」
「新一、これは全て違う色だよ」
「いや大雑把に」
「江戸川君には分からないわよ」
「おい」
「色彩感覚は女性の方が優れてるからね」
「カーヴェさんは男性だろ」
「デザイナーとして色彩感覚は鍛えてあるよ」
「鍛えるとかいう問題かよ」
「カーヴェさんなら、こっちの薄いナイルブルーの衣装が合うんじゃないかしら」
「それ、綺麗だよね。装飾もさっぱりとまとまってるし」
「女性向けとしては、ね。男性用に直すなら、多いわ」
「装飾は減らすように言っておくよ。候補がいくつかほしいんだけど……」
「それなら、」
 灰原とカーヴェが話すのを聞きながら、コナンは色名に思いを馳せる。
「ナイルブルー、か」
 そういや、エジプト考古学系の博物館なんだっけ。


・・・


「ディシア」
「おう」
「あらゆる手段の許可が出ています。全て、博物館の演劇に過ぎません」
「まさか演者なんてやるとはね」
「私も、誰もがそうです。そうでしょう? 館長」
「……全てを欺き、舞台で踊る。盗まれるなんて、あってはなりません。どうか、宝物をお守りください」
 館長である古津幹コニスは、じっと写真を見つめている。写真の中には、金色の髪をした美しいひと。

 ディシアと女性はただ、コニスとその目が見つめる写真を見ていた。
 
「カーヴェ、様」

 三人の女性たちの思惑が交差する。

・・・


 博物館アマル。オープニングセレモニーは多くの人を招いていた。館内の展示物の閲覧と、パーティ会場の立食が主なものだ。
「コナン君、何を食べる?」
「蘭ねーちゃんのおすすめはある?」
「こっちの野菜は良さそうだよ。にしても、お父さんと一緒にいなくてもいいの?」
「うん」
「まあ、囲まれてるからね……」
 蘭の見た先には酒をのんで顔を赤らめながら、人々と挨拶をする毛利小五郎がいた。
 飲み過ぎないといいけど。蘭が呆れる。コナンはジュースを飲んで、グラスを置く。蘭が取り分けてくれた食事を少し食べて、蘭とわかれた。

 ビッグジュエルのある部屋は封鎖されている。代わりにさまざまなところにビッグジュエルの写真があった。
 それらの中で一番大きな画像はポスターとなって壁を飾り、広告にも使われていた。
 ビッグジュエルのエメラルドを手に微笑む男性。金色の髪。深い赤色の目。愛おしそうな目線を向けてくる。
「カーヴェさん、似合うなあ」
 衣装は件のナイルブルーのドレスを仕立て直したスーツだが、特別な日、たとえば婚礼などにふさわしい衣装であった。女装ではないが、やけに美しい。
 そして、こんなに愛おしそうな顔は、コナンには覚えがある。カーヴェにとって守りたいもの、それを見つめる目だ。
 ただのカメラに向ける顔では無い。
「コナン君」
 コツン、と隣に立ったのは聞き慣れた声だった。
「カーヴェさん、衣装はどうしたの?」
「博物館持ち」
「撮影、誰がいたの?」
「館長とか」
「ふうん」
「で、コナン君。どこまで調べたい?」
 金色の髪を揺らして、カーヴェがコナンを見た。その顔は外向きの笑顔だった。
「調べられるところまで!」
 だからコナンもにっこりと笑って見せた。


・・・


 蘭はコナンがいなくなったことに不安を覚えるものの、今回のコナンはKIDキラーとして呼ばれていたのだと納得する。蘭では分からないこともあるだろう。怪我をしなければいい。
 そのまま、蘭はパンフレットを見る。そこにはビッグジュエルとカーヴェの写真がある。エメラルドとカーヴェ。その笑顔は幼い頃に見たものによく似ていた。
 この顔はきっと誰もが焦がれる。蘭は息を吐く。

━━「蘭ちゃん、あなたが幸せになるためなら僕はなんだってするよ」
━━「なんでも?」
━━「そう。なんでも。だから、泣かないで」
━━「じゃあ、カーヴェお兄ちゃんに、けっこんしきできるドレスをえらぶてつだいをしてほしい!」
━━「僕が手伝うのかい?」
━━「だって、カーヴェさんはいつも綺麗だから」
━━「分かった。その時はとびきりのドレスを選ぶ手伝いをしよう」
━━「やくそくね」
━━「約束だよ」

 この時のカーヴェの笑顔があまりにも愛おしいものを見る目で、蘭はくすぐったかった。
 その笑顔によく似ているのだ。思い出が蘇るほどに。
 蘭は少し不安になる。だってカーヴェは笑顔ばかりの人ではない。普通に文句だって言うし、酒に弱いし、泣いたり怒ったり、表情豊かなのに。
「こんなの、いいのかな」
 カーヴェの上澄みだけ、消費されているみたいだ。

「カーヴェの関係者だろう」
「え?」
 灰銀の髪、緑色の中央に赤を含む目。蘭はその人を何一つ知らない。
 でも、すぐに分かった。これは乙女の勘だった。
「あなたが、あの、」
 その人は、蘭の発言を全て聞いてから、用件を伝えた。
「カーヴェを守ってくれてありがとう」


・・・


 カーヴェとコナンは館内を歩き回る。警察も警備も、コナンとカーヴェを見かけても何も言わない。コナンはKIDキラーとして依頼されているし、カーヴェは館内にいくらか詳しかった。
「カーヴェさんはビッグジュエルが盗まれると思う?」
「いいや、全く」
 きっぱりとした発言に、コナンは笑う。
「やっぱり」
「あの予告状の文面ではビッグジュエルだなんて特定できないだろ」
「そうだよ。この博物館に、本当に盗まれるべきものがある」
「宝飾品は大小含めてあまりに多い。宝飾品以外だと、埋葬品から伝統の品まで様々だ」
「カーヴェさんは怪盗KIDが来ると思う?」
「来るよ。あの予告状があるんだ。本物であれ、偽物であれ」
「そう。KIDは来る。あの予告状は偽物であり、KIDへの挑戦状だからね」
「現在は昼間だ。夜になるまで待てば満月だよ」
「夜になるまで何も無いと思う?」
「何かある」
「たとえば?」
「そもそも夜と満月の条件を満たす部屋がある」
「それはどこ?」
「あのパーティ会場だよ。あそこは円形だ。その上、外を見せる窓がない。電気さえ落とせば真っ暗さ」
「そうだね。パーティ会場に行く?」
「僕は近寄りたくないね。あそこは警備が一番厳しい」
「でもカーヴェさんは呼ばれるでしょ」
「まあね。あの偽物の予告状は"最高の疵"だったか、悪趣味だな」
「カーヴェさんはそれって何だと思う?」
「過去のことかな。少なくとも、それは僕とあいつにとって共通認識だろうからね」
「それを知る人は?」
「残念ながら多い」
「それを、赦さない人は?」
「それこそが犯人だ」
 ふんとカーヴェは腕を組んだ。
「エメラルドは傷によって出来るという俗説がある。とりあえずこの後でビッグジュエルがパーティ会場に運ばれる。そのそばにいてやろう」
「罠にかかるんだ」
「それでいい。だからコナン君、これは僕からの依頼だ」
 カーヴェは言う。
「僕とあいつを救い出して」
「いいよ。その"あいつ"さんとか知らないけど」
 でも、確かに狙われた。

 ポスターの中のカーヴェは、愛おしそうに笑っている。


・・・


 パーティ会場。蘭は立っている。小五郎も会場内にいる。

 すたすたとカーヴェがやって来た。ざわめきの中で、一人を目指す。館長のコニスが笑う。
「カーヴェさん、よく来てくださいました」
「依頼ですから。呼ばれたなら、どこへでも」
「ええ、あなたならそう言うでしょう」
 コニスはカーヴェを見上げている。カーヴェはにこりと外向けの笑顔だ。蘭は違和感があった。何か、何かが変だ。

 たとえば、目の前がとてもちくはぐに見えるような。

「わたくしのおうちにいらっしゃい」

 蘭の耳に、女の子の声がした。

 同時に、全ての照明が落ちた。


・・・


 明かりをつけろ! 叫んだのは警察。警備は走る。
 炎。
 水。
 女性たちが走る。
 予備電灯が付く。
 カーヴェと館長のコニスは隣に並んでいる。コニスはカーヴェの首にナイフを寄せていた。

「あなたを閉じ込めないといけないの」
「どうして?」
「あなたをこれ以上傷つけるわけにはいかないから」
「なぜ?」
「あなたたちの過去はあまりにも悲しくて、あなたに似合わない」
「どこが?」
「あなたは優しく、分け隔てなく、人を愛するのでしょう? カーヴェ様」
「そうかな?」
「ゆるさない。許さない。赦さない。純潔を私は望むの」
「乙女でもあるまいに」
「カーヴェ様は私にとって尊い神さまですから」
 恍惚と笑うコニスは手に力を入れた。

「僕が彼に見えるなら、貴方の目は節穴だな」

 くすりと、それは笑う。コニスが目を丸くした。
 カーヴェだった男が白いスーツに変わる。

「怪盗KID!」
「なんでそんな事するかな!?」

 コナンとカーヴェが扉を開いて飛び込んできた。カーヴェはナイルブルーのスーツではなく、黒いシャツに白いスーツだった。

 KIDとコナンとカーヴェは走り、パーティ会場からすぐに脱出する。
「お久しぶりですね、カーヴェさん」
「久しぶりだね、KID! どこまで聞いてた?!」
「カーヴェさんが囮になると」
「僕が囮になっても構わないだろうに!」
「貴方に万が一があると困るんですよ」
「知るか!」
「で、名探偵は何かな」
「あの館長コニスさんはカーヴェさんを気に入ってるね? ドレスを送りつけたのも館長のコニスさんでしょ?」
「コナン君、正解!」
「じゃあポスターの写真はどうやって撮ったの?」
「簡潔に言うと、学生時代の思い出話をしながらかな。館長のコニスさんもいたよ! ああくそ! 追手が多い!」
「狙いはカーヴェさんだけだね。KIDとボクはついで!」
「ついでとしても、こちらとて何もしないつもりはないので」
「屋上に行こう! KIDは適当に脱出できるし、コナン君もそこそこ動き回れるし、僕も対応できる」
「カーヴェさん走れる?」
「KID、僕を担いで」
「任せてください」
 KIDがカーヴェを縦抱きにして走る。カーヴェが道順を指示し、コナンとKIDは飛び回るように走る。後ろから炎と水が迫る。

 屋上。カーヴェは降りると、すぐに言った。
「メラック、おいで」
 ピポッ
 浮いているメラックを気にする暇はない。
 コナンが扉の影に立つ。KIDはそれと扉を開いた。

 館長のコニスだ。
「カーヴェ様、どうか、どうか」
「何をしたとしても、僕は貴女を赦さない。でも、殺すつもりは毛頭ないよ」

「貴女が僕に執着していることはツテから聞いていたよ。全く、どこで掛け違えたんだか」
 カーヴェはこつこつと足音を鳴らす。
「ここまで派手な事をして。僕を殺しておきたいのは分かったけど、その先は考えなかったんだね。全く嫌になる」
 仕掛けだ。
「あの予告状は偽物だ。貴女が怪盗KIDを呼び出すため、ひいては僕が確実にこの博物館に来るためのもの。依頼であっても、貴女は僕が来るのか不安だった。信用できなかった。だから、怪盗KIDが僕を盗むような文面にした。負い目を感じた僕が、この博物館に確実に来る事を望んだ。はあ、遠回しだな。僕の性格はそれなりに把握しているようだね」
 あらゆる可能性。
「僕は探偵でも名探偵でもない。だから事実だけ言おう。僕はここに来た。貴女は僕を逃がしたくない。貴女は、確実に、僕を殺したい。じゃあ、僕に詳しい貴女はどこで僕を知ったのかな?」

 僕は貴女と会ったことがないだろう?


・・・


 とても懐かしいのだ。貴方が笑うと、苦しくなる。姿を見るたびに、貴方こそが郷土だと思う。だって、いつまでも深い深い夢を見ていました。

「大好きだよ、僕は、君の事が」

 愛の思い出を。
 幸福の星、その輝きを。


・・・


「っ、KID! コナン君と逃げておくれ!」
「はあ?!」
「カーヴェさんは」
「僕は援軍が来る! 早く、KIDなら脱出できるだろう!」
「任せてください」
「カーヴェさんっ」
「コナン君、ごめん。でも、君たちをここには居させられない」
 カーヴェはコナンをKIDが抱えたのを見てから言う。
「頼むよ、名探偵。僕はコニスさんを生きて、確保する。だから、僕らを助けるために、コニスさんの真実を見つけてくれ」
「名探偵、行くぜ!」
「分かった。カーヴェさん、生きてろよ!」
「任せて」
 コナンはKIDと共に屋上から飛び立った。

 それを見てから、カーヴェは言った。
「ディシアさん、キャンディスさん!」
「任せな!」
「今行きます」
 コニスが目を丸くする。
 ディシアとキャンディスがカーヴェの前に立った。
「連絡事項はあるかな?」
「特に無いよ」
「説明は必要でしょうか?」
「は、なんで、」
 コニスがかぶりを振る。カーヴェは淡々と言った。
「二人から僕のことを聞いたんだろう? まあ、情報を指定したのは僕だし、貴女は都合良く僕の情報を脳で処理したみたいだけど」
「なんで、どうして!?」
「貴女の興味の対象が、僕へと"移動した"ことを、知ったお方がいてね。僕へと人伝に知らせてくれた。ただ、僕はそんな人を放置するつもりはなくてね。ディシアさんとキャンディスさんに貴女のことを依頼した。貴女が、僕の思うような、凶行に及ぶように」
「貴方は殺されたいのか!」
「いや、全く。でも、不穏因子を放置するつもりも無いんだ。不意打ちは対応に困るから、ここに来てもらった。どこまで、何を、すればいいか。少しずつ、貴女のために整えた」
 ここは貴女のための舞台。
 誰もが演者。
「で、君から見てどの程度の舞台だったかな?」
「酷い話だ。"種の開花"とはここまでか」
 灰銀の男がコニスの横を通る。
「彼女の容態は刻々と進んでいる。"寵愛の呪い"は君を見つけたことで精神を蝕むスピードを早めた。最早、人とも言えまい」
「じゃあ彼女は何だ」
「魔物だ」
 魔━物

 コニスの体が、星のような魔物へと変化していく。コニスの手には邪眼があった。
「思うんだけど、邪眼を使う必要はどこにあったんだ?」
 ディシアの問いかけに、男性二人は言った。
「「確実に元素使用許可を出す為」」
「ちょっと無理がありませんか?」
 キャンディスは、息を吐く。コニスのことが哀れだが、愛の種に蝕まれた人を元に戻す方法も特に無い。
 あえて言うなら、カーヴェをその目にうつして、そこに芽生えた幻覚を壊すしか、神の目所持者たちには方法がないのだ。
「さて、着工だ!」
 カーヴェが宣言する。全員の神の目が煌めいた。


・・・


 愛しています。愛しております。すべて、すべて。

 満月だった。

 いつか見たこの夢は、忘れません。貴方が愛した全てが、私の恐怖。

 満月だった。

 愛されている自覚。幻覚。錯覚。どうだってていい。これが嘘だろうと本当だろうと。

 満月だった。

 ただ、確かに貴方が笑って私に手を差し伸べてくれた。それこそが。

 満月のように満ち足りた記憶です。

 愛しています。


・・・


「おーい! 邪眼回収部隊だぞ!」
「「来たよ」」


・・・


 カーヴェの家。コナンはリビングでコーヒーを飲む。
「カーヴェさん、コニスさんはちゃんと警察に身柄が渡されたって」
「病院で大人しくしてたんだね」
「うん、心神喪失という感じも徐々に良くなってるみたい」
「良かった」
「にしても、コニスさんのことはどこから知ってたの?」
「どこから、か。変な人がいるというのは予告状が届くより一週間前かな」
「ふうん」
「コニスさんの様子がどんどんおかしくなっていくのを知ってね。これはまずいって僕に話が来たのさ。明らかに対象が僕だったからね」
「前に怪盗KIDに拐われた時の写真?」
「そう。あの写真を見て、どんどん狂っていったらしいよ。それで、僕としては危ない橋を渡ってでも彼女を、生きて罰したかった」
「へえー」
「すでに違法な手に出ていたからね。僕は加害者を許すつもりはない。だから、どんどん手を打った。ディシアさんは知り合いだよ。彼女から僕の話を流した」
「予告状はカーヴェさんが作ったの?」
「いや、そういうものを作るようなお膳立てをしただけかな」
「じゃあ、怪盗KIDをどうして巻き込んだの?」
「簡単に大事になるだろう?」
「うわあ」
「彼には悪かったとは思うけど、僕の写真をばら撒いたのは彼だし」
「そうだね」
「ま、コニスさんが赤の他人だとしても、僕に狂ったのなら、因果としては僕が原因だろう? だから、僕が片付けたかった。それだけ」
「ええー、原因ではないだろ」
「コナン君はどうだった?」
「一応、コニスさんが偽物の予告状を書いた証拠とか、ビッグジュエルが偽物である証拠とか、色々見つけたかな」
「名探偵として物足りない事件だっただろうね」
「まあ、コニスさんが仕掛けたことは全部明かしたからいいよ」
「いいのかい?」
「コニスさんが生きてる。罪を償うならいい。カーヴェさんは、ボクが推理することが無かったと言いたいの?」
「うん」
「そんな事はないよ。証拠を繋ぎ合わせて真実を明かしたんだ。これは推理だよ」
「そうかな」
「それよりも」
 コナンはすいと、リビングのソファに座る男を見た。
「そこの人が例のルームメイト?」
「そう。アルハイゼンさ」
 アルハイゼンは本を読み、時折コーヒーを飲む。静かである。
「ねえ、ボクのことはどこまで知ってる?」
「あいつはFBIだよ」
「FBIというだけじゃ、どこまで知ってるかは分からないよ!」
「コナン君、不安にならないで」
「ボクにとっては知らない人だから!」
「新一も知らないだろ」
「ねえ、ホントにどこまで話してるの」
「特に話してないけど、あえて言うなら、アルハイゼンは頭がいい」
「うわあ」
「探偵ではないけどね」
「そこ?」
「カーヴェ、コーヒーはあるか」
「君、飲み過ぎだろ! ミルク入れるからな!」
「構わん」
 アルハイゼンが本を置いて、コナンを見た。カーヴェはキッチンでコーヒーを淹れ始めている。
「コナンだか新一だか知らないが」
「コナンでよろしくお願いします」
「俺はアルハイゼンだ。FBIだと言われているが、非戦闘員であり、特に何もするつもりは無い」
「その筋肉で非戦闘員って何?」
「名探偵に何をしても無駄だから言うが、」
「その名探偵への認識は何?」
「カーヴェを守っていることについては感謝する」
「守るっていうか、なんて言うか」
「今後は俺がいる」
「アルハイゼンさんがカーヴェさんを守るの?」
「守らない。彼は成人男性だ」
「そうだけど」
「今後は俺を計算に入れておくといい」
「アルハイゼンさんのこと何も知らないだって」
「調べればいい」
 得意だろう、名探偵。
 アルハイゼンは言う。カーヴェがコーヒーの粉に湯を注いだ音がした。


・・・


タイトル:満月の狂気
ジャンル:クロスオーバー/名探偵コナン/原神
要素:事件、ミステリー風味の何か、不可思議、元素はある

カーヴェ…建築デザイナー。休暇として一年前から日本に来ている。愛の種についてはアルハイゼンから何らかの説明を受けた。
メラック…万能スマホ。元素で動いてる。

江戸川コナン…小学生。名探偵。不可思議(元素も魔力も)を無効化する。カーヴェさんはカーヴェさん。コレイから信頼されている。
沖矢昴…大学生。FBI。赤井秀一。カーヴェはFBIのもの。

アルハイゼン…FBIの非戦闘員。カーヴェは人間。探偵ではないが……?

毛利蘭…高校生。カーヴェとはたくさんの約束している。
毛利小五郎…探偵。詳細不明。

灰原哀…小学生。

笠っち…中学生。笠のメラックを所持。コレイとの接触は回避した。逃げ切った。

怪盗KID…巻き込まれただけである。ビッグジュエルは偽物だった。残念。

ディシア…警備員のフリをしてコニスに接触した。一般人ではない。
キャンディス…警備員のフリをしてコニスに接触した。一般人ではない。

古津幹コニス…愛の種が、カーヴェの写真を見て開花し、狂気に走った犯罪者。元々は別の人間をストーキングしていたが、愛の種の開花によりカーヴェに興味の対象が移った。カーヴェはコニスが犯罪者であることを把握した上で、カーヴェに対して凶行に及ぶように手配した。
コニスは邪眼を狂気に飲まれた辺りにはすでに入手しており、それをカーヴェとアルハイゼンが利用したのみ。邪眼の入手経路の詳細不明。

ナヒーダ…???。博物館に来ていた。

旅人…双子揃っている。パイモンもいる。元素案件担当。七神の居場所を把握している。邪眼回収をした。邪眼との関わりは詳細不明。

七神…ナヒーダはFBIと共にいる。彼女以外は現在不明。どっかにいる。

魔女界…まじ快要素。カーヴェ母はイギリス魔女。

愛の種…カーヴェの性質と魔女の血と元素が噛み合ってしまった故の幻覚、幻想、催眠。探偵、神の目持ち、魔女には効きが悪い。名探偵には一切効かない。犯罪者、心の不安定な者の深層心理に巣食った光であり、闇。寵愛の呪い。庇護の呪い。それらの牙は全て、カーヴェへと向き、蝕み、しかし巡り巡ってカーヴェの益となる。なお、カーヴェに愛の種の意図は一切ないので認識に齟齬がある。
今回の犯人は愛の種が原因となって狂気に走ったが、そもそもどこかの誰かにストーキングしていた犯罪者である。対象が移っただけ。対象が移るという不可解に愛の種を知らぬ人々は困惑するであろう。それだけである。

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