はじめに

タイトル:劇場崩壊
ジャンル:クロスオーバー/名探偵コナン/原神
要素:事件、なんちゃってミステリー風味、不可思議、元素はある

※サクサク進めるためにほぼ会話文です。

カーヴェ…建築デザイナー。休暇として一年前から日本に来ている。
メラック…万能スマホ。元素で動いてる。

江戸川コナン…小学生。名探偵。不可思議(元素も魔力も)を無効化する。
沖矢昴…大学生。FBI。赤井秀一。カーヴェはFBIのもの。
安室透…探偵。喫茶ポアロのアルバイト店員。公安。バーボン。降谷零。カーヴェは日本人。

灰原哀…小学生。
阿笠博士…発明家。
少年探偵団…小学生。

アルハイゼン…FBIの非戦闘員。カーヴェは人間。
ナヒーダ…???

旅人…双子揃っている。パイモンもいる。元素案件担当。七神の居場所を把握している。

七神…ナヒーダはFBIと共にいる。彼女以外は現在不明。どっかにいる。

魔女界…まじ快要素。カーヴェ母はイギリス魔女。

愛の種…カーヴェの性質と魔女の血と元素が噛み合ってしまった故の幻覚、幻想、催眠。探偵、神の目持ち、魔女には効きが悪い。名探偵には一切効かない。犯罪者、心の不安定な者の深層心理に巣食った光であり、闇。寵愛の呪い。庇護の呪い。それらの牙は全て、カーヴェへと向き、蝕み、しかし巡り巡ってカーヴェの益となる。なお、カーヴェに愛の種の意図は一切ないので認識に齟齬がある。


・・・


 盲信を信頼と言うのなら。
「たすけてください、助けてください」
 如何か、如何と、をとめは祈る。
「あのひとに救いを」
 私は助からなくていいのです、と。

 光/闇はすぐそこに。


・・・


「ああくそ」
「笠っちくん大丈夫かい?」
「それやめてくれる?」
「どれのこと?」
「せめて笠君とかにして、おぞましい」
「酷いな」
「僕が好きで名乗ったわけじゃない」
 今生の名前がすっかり忘れられている。笠っちこと、スカラマシュは息を吐く。スカラマシュも今生の名前ではない。両親がいて、きちんと名付けられたし、たくさん愛情を注いでもらって感謝している。そう、今生のスカラマシュは人間であった。何なら現在中学生である。日本の。
「はあああ」
「お疲れ。はい、これ」
「なにこれ」
「コーヒー飴。好きかなって」
「甘いの?」
「甘くないよ。まあ食べてみて」
「ん」
 もごもごと手作りの飴玉を舐める。コーヒーの苦味が美味しい。この男、カーヴェの家にマシュは遊びに来させれていた。
「笠君のメラックも元気だね」
「うん」
 神の目持ちは元素をエネルギーとするスマホを利用している。もちろん、通常のスマホは別だ。元素スマホはカーヴェが発案者であり、発明者である。そんなカーヴェの持つメラックはマスターキーであり、同等の権限を持つ元素スマホ"メラック"はマシュに持たされている。これはマシュがナヒーダを裏切らない為である。今生のマシュはナヒーダに取り上げられている。そう、あらゆる七神より早くナヒーダに見つかったのである。マシュの名付けにナヒーダは関わっていないが、笠っちとはナヒーダ発祥である。大変不服だ。
 そう、マシュはナヒーダの為に育てられた。両親は何も知らない一般人である。マシュの周囲は常に神の目持ちで固められた。神の目持ちが他にいない中学校では、たまに旅人が弁当を運んでくる。やめてほしい。見た目だけなら同年齢のため、そのままおおらかな周囲に受け入れられている。やめろ。
 まあ、元素スマホメラックを捨てれば。と思わなくもないが、メラックはマシュに対して物怖じせずに接してくるし、メラック自身は善悪などない"物"だ。それは前回的にマシュには苦々しい思いがある。要するにメラックを突き放せないのだ。
 そんなメラックの生みの親であるカーヴェにも、複雑な気持ちで接するしかない。なんならマシュは本当にただの中学生であり、戦闘能力もあまりない。神の目持ちとして戦闘力も身体能力もある。だが、決定的に、マシュは人間だった。要するに、前回のように体を動かせないのだ。
 マシュは自認としてお荷物である。ナヒーダは気にしないし、メラックは何も言わないし、カーヴェは子供として甘やかしてくる。
 唯一、ナヒーダから与えられた指示がメラックの所持と、定期的なカーヴェとの交流である。
「いい感じだ。メンテナンスできたよ」
「ありがと」
「コーヒー飴ならまだ余りがあるよ、どうぞ」
「うん」
「帰るなら好きな時でいいから。僕は仕事するよ」
「まだ働くの?」
「働かないと落ち着かないんだよね」
 それを人はワーカホリックという。マシュはげんなりとした。とりあえず帰ったら母親の手料理を食べたい。

 マシュがカーヴェの家を出たのは夕方5時だ。いつもの時間である。視線を感じるが、どこからか分からない。
 マシュは今生において、神の目持ちはナヒーダとカーヴェと旅人しか実際に会ってはいない。そして、ナヒーダはどこの所属かは不明だし、カーヴェはただの世界的建築デザイナーである。旅人は何もかも不明だ。
 メラックが収集する情報や各人のやり取りを閲覧するに、ナヒーダはFBIと共に行動しており、カーヴェもFBIの客人である。
 ただ、カーヴェは日本に来てから江戸川コナンにばかり協力しているため、FBIは完全にカーヴェを手に入れようと画策している。また公安がやけに首を突っ込む。あと魔女側がなにかとケチをつける。マシュは何にも分からない。唐突に出てきた魔女ってなんだ。
 なんか知らんが、カーヴェの行動で一般的な裏世界が動く。そのさらに奥、元素側と魔女側は基本的にのほほんと見守っている。とにかく不可思議を受け入れないとする一般的な裏世界が面倒である。よって、一般人をやっているマシュがこうやってカーヴェの家に出入りしていることを監視されてても、仕方ない。

 仕方ないわけあるか!

 マシュは普通に嫌である。ここで元素を使う許可があったら真っ先にぶっ壊してる。カーヴェがどうこうは全く知らないが、マシュ自身に振りかかるのはやめろ。今生の両親がそれなりに大切なのだ。
 不機嫌を隠しながら、マシュは帰路についた。


・・・


 カーヴェはマシュが帰ったことを確認してから、メラックをトントンと叩く。
「メラック、情報開示」
 ざーっと流れる情報を眺めて、消す。カーヴェのメラックと同等の権限を、笠のメラックは持つ。だが、神の目持ちとはいえ中学生に全く同じ性能を持たせることは、カーヴェは反対した。アルハイゼンとの討論の末の譲歩として、笠のメラックには同等の権限を。ただし、創作に関するメラックの能力は排除した。
 カーヴェのメラックは自動学習能力のようなものがある、というか、コアがそもそもカーヴェのメラックだけ別である。カーヴェの神の目と連動しているので当然だ。そのコアが未知数なのである。同等のコアは二つとてない。笠のメラックに分け与えることはできない。カーヴェのメラックはカーヴェの為にと献身的で、あれこれと提案し、勝手に採択、のち、開発をする。これがカーヴェに理解できない。どうやっても止められないし、これは笠のメラックに与えてはいけない能力だろう。
 カーヴェのメラックは、カーヴェへの定期的な情報提供を望むらしい。全く仕方のない子。カーヴェはとりあえず受け止めている。カーヴェの頭脳は情報をきちんと飲み込む。

 なお、最近のメラックからの議題は。

 コーヒーシロップの作り方。

 である。
「……食べたいのかなあ」
 よく分からんが、とりあえずコーヒーシロップを用いたコーヒー飴は笠君には好評であった。あとはコナン君と沖矢さんにと作った。コーヒーの苦味が強いので、あとはアルハイゼンに渡したいところである。この辺はコーヒーを好むので。


・・・


 黒い液体を眺める。コーヒーだ。喫茶七番目において、コーヒーはレギュラーではあるがイレギュラーである。喫茶七番目は紅茶の種類が豊富で、コーヒーはそこそこである。そこは店員の趣味らしい。
 風見はふうと息を吐く。この喫茶七番目のコーヒーは、注文するとチョコレートがついてくる。これが美味なのだ。世界のチョコレートから厳選したという、粒のチョコレート。毎回違うのに、どれも美味しい。
 この喫茶七番目は取引の類が厳正にチェックされる。よって、仕事はNGである。いつ仕事が入るか分からない風見も、あまり来てはいけない。だが、それでもここのコーヒーもチョコレートもおいしいのだ。
 別に甘党ではない。ちょっと薬を疑ったが、その形跡はない。ただ美味しいものを食べる時間である。
 薄暗い店内。からんと人が入ってくる。風見はふと、目をやろうとする。だが見えない。棚の隙間から見える人影は、女だ。ふわりとふわりと舞うような、少女のような女の子。
「奥さま、いますか?」
「あらニィロウさん。いらっしゃいませ」
「奥さま! えへへ、えっと舞台の新作の割引券を持ってきたんです。ここに置いてもいいですか?」
「構いませんよ」
 この喫茶七番目は全国の美術館や博物館と提携している。割引券がよく置いているものだ。今回は演劇かと風見は思う。演劇、というと。
「あのズバイルシアターの日本公演の割引券なんて、こんな小さな喫茶店には合いませんね」
「とんでもないです! 奥さんにはよくしてもらってて、えへへ、ぜひナナの店の皆さんも」
「交代で休みんでみても、いいかもしれませんね」
 ズバイルシアター!? 風見は動揺して少女を見た。少女、というより、乙女。成人済み。ニィロウ。かの世界的演劇団、ズバイルシアターの、メインの踊り子。世界的なスターである。風見はがたがたと動揺しそうだった。


・・・


「コナン君、僕でいいのかい?」
「蘭には断られた」
「拗ねないで」
 カーヴェは少年探偵団と阿笠博士の誘いで、舞台を見にいてきた。小学校でチケットが配られたらしい。カーヴェの分のチケットは灰原が手に入れていた。
「コナン君! カーヴェさん! こっちー!」
「早くしましょう!」
「なあうまいもんあるか!?」
「甘いキャンディをあげようか。皆もどうぞ」
「「「わあーい」」」
 カーヴェは最近作ったカラフルなキャンディを配った。阿笠博士にも当然渡した。コナンだけはコーヒー飴を渡した。コナンは、これ美味しいと、機嫌をやや直した。
「カーヴェさん、器用ね」
「飴はコツさえ掴めば簡単だよ。一度に沢山作れるし」
「普通は作ろうと思わないわ」
「そうかい?」
 カーヴェは灰原に首を傾げる。コナンもそうだなと同意していた。子供たちは阿笠博士と舞台の話をしている。
「ズバイルシアターかあ、昔、仕事したよ」
「それは話していいのかしら」
「別に隠してないからね」
「知り合いとかいるのか?」
「まあ多少は。でも別に会いに行かないよ」
「ふうん」
「そうなのね」
「つまらなそうだな……まあ、今回はメインがニィロウさんなんだろう? だったら、うんと芸術的な舞台になるね」
「「知り合い?」」
「まあね」
 灰原とコナンがさらに追求として、子供たちに呼ばれた。

 舞台は大掛かりなものだった。カーヴェは、あれと経験による違和感を元に、確認していく。イチ、ニィ、サン。
「?」
 足りない。


・・・


 ニィロウこそ、仕事はちゃんとする。
「はあ。よおし」
 今回の公演において、メインはニィロウである。
「ニィロウさん、時間です!」
「はあい!」
 届いた手紙を控室に置いておく。さて、やることは踊ること。
 ニィロウとて、覚悟はある。神の目もちゃんと持った。
「いち、にぃ、さん、」
 大丈夫。命だけは保証してみせる。

 狙われたのはニィロウだ。ニィロウはそれでも、踊る。

 幕が上がった。


・・・


 カーヴェは走る。明らかに、舞台装置としたって看破できない。
「どうしたのカーヴェさん!」
「コナン君、走り続けて! このままだと舞台が崩壊する!」
「はあ?!」
「規模に対して機材があまりに数が合わないんだ。誰かが、この舞台を壊そうとしてる!」
「だったらあいつら」
「少年探偵団として立派に動ける! コナン君の推理が聞きたいな!」
「ああもう!」
 カーヴェは裏手に入り込む。何人かのスタッフが、カーヴェさんだと叫んだ。
 そのまま走る。メインの演者はニィロウ。ニィロウの控室に飛び込んだ。
「はあっ、」
「ったく、カーヴェさんはこんなに走れないだろ!」
「早く、調べて、何か届いてるならここだ」
「すぐ調べるから、カーヴェさんは休んでろよ」
「うん。頼んだよ」
 ゼエゼエと呼吸する。コナンが見当を付けて何箇所か調べる。そして。
「あった! これだな!」
「なにが、」
「脅迫状! 踊り子のニィロウの殺害予告!」
「はあ!?」
 そんなのは聞いてない。カーヴェは慌てる。殺害? ニィロウさんが? 絶対にダメだ。
「っ、コナン君、頼む。犯人の推理を、」
「カーヴェさんは?」
「僕はニィロウさんを助ける」
「絶対に守って。こっちは任せろ」
「うん。頼むよ、新一」
 カーヴェは走る。けほ、と血液混じりの咳が出た。だが、止まれない。
 そもそも、ニィロウとは元素として相性がいいのだから、共闘すべきなのだ。
「なんでこんなことしてるんだか!」
 メラックが起動する。ニィロウへ通知。応答は、あった。
「位置、調べて」
 メラックが本格的に動き出す。すうっと宙に浮いた。神の目が輝いて、カーヴェはメラックを掴む。
 少し、体が楽になる。
「続けて!」
 メラックはそのままカーヴェをニィロウの元に案内する。


・・・


「あ?」
 マシュ、中学生。メラックと昼飯である。
 旅人もいる。
「どうしたの?」
「変な顔してるね」
「ちゃんと飯を食べろよ!」
「うるさい。なんか、変」
 変とは。旅人双子とパイモンが顔を合わせた。マシュはメラックの出した画面をなぞる。メラックに指示してみる。
「なあ、この、なんかメッセージ? 違うなこれ、位置情報? なに?」
 メラックが開く。
「ニィロウと、カーヴェ?」
「「何かあった?」」
「事件か?」
「ていうか、ニィロウって人、最近のデータが変。うーん?」
「スマホに情報は?」
「ない」
「じゃあスマホにない情報だね」
「なにそれ」
「たとえば、手紙とか、そういう物理的なやつだな!」
「ふうん。手紙もらうとこんな変な数値になるの?」
「さあ?」
「どんな数値なの?」
「え、知らない。僕に聞かないでよ」
「じゃあナヒーダとかか?!」
「ええ、やだ」
「じゃあマシュが考えてみなよ」
「やだなあ」
「何で嫌なの?」
「なんか、数値はわかんないけど、なんでカーヴェさんがニィロウさんの位置を検索してんの?」
「……」
「……」
「あっ」
「なにその反応」
「笠っち、グッジョブ」
「良くやったね」
「行くぞ!!」
「その呼び方やめてくれる?」
 マシュ、今生はマジで普通の人間である。


・・・


 カーヴェはニィロウに駆け寄る。ニィロウは無事である。ただし、完全に神の目を使用していた。
「カーヴェさん!?」
「ニィロウさん、こほっ、何があった?」
「ええっと、舞台が壊れてきてる、ね」
「うん」
「うう、狙われたのはわたしだから、こんな大掛かりなことをされるとおもわなくて」
「うん、そうだね」
「殺害予告、みた?」
「見たよ」
「それだけ、かなあ。数日前から毎日届いてて」
「なんで舞台に?」
「だって、それが、わたしのやりたいことだから」
「よろしい。分かった、相手は?」
「さっきから元素生物が襲ってきてるよ! カーヴェさん、共闘してくれる?」
「任せて」
「というか、吐血してない?!」
「あまり体が丈夫じゃないんだ。こほっ、ええと、回復すればいいかなって」
「ええっ、そんな捨て身……というかわたしとだと回復できないんじゃ」
「まあまあ」
「うう、危険が去ったら、やすんでね!」
「もちろん」


・・・


「ニィロウさんの周辺の情報!」
『あのねえ、急に言われても』
「やあ、コナン君」
「うわあ!? え、安室さ、」
「とりあえずこっちは情報」
「え、」
「僕が知りたいのはカーヴェさんの場所ね」
「げぇ」
 教えてね、と安室はにっこりと笑った。コナンは頬が引き攣った。探偵バッジの向こうは沈黙している。そりゃそうである。


・・・


「やっほーカーヴェ!」
「ニィロウも久しぶり!」
「来たぞー!」
「旅人の皆! よかったあ、って、あれ? 連絡したっけ?」
「あー、メラックかな」
「大体正解」
「カーヴェは下がってね。うわHPの削れ方がエグい。はい回復」
「助かるよ……」
「カーヴェはこっちだぞ!」
「おちびちゃんについて行くね」
「そう離れないでね」
「ちゃんと笠っちと一緒にいてね!」
「……は?」


・・・


 マシュ、崩壊しつつある舞台の隅にいる。
「えー、なにこれ」
「笠っち、来たぞ!」
「えー、うわ、本当に来た」
「笠君、この間ぶり」
「うわあ、血。なにこれ、ええ?」
「僕が吐血しただけだから」
「人間って普通は吐血しないはず」
「まあまあ」
「笠っちは神の目の使用許可出てるからな! じゃあな!」
「あ、おちびちゃんバイバイ」
「僕、うまく戦えないんだけど」
「まあ、たぶん何もないんじゃない?」
「その心は?」
「旅人たちが駆けつけたから元素関係は平気かなって」
「楽観的すぎる」
「あはは」


・・・


 安室はカーヴェとその傍らに少年がいるのを見た。カーヴェの家に出入りしている中学生だ。ただの少年で、カーヴェに家庭教師をしてもらっている様子である。
「カーヴェさん、本当に平気なのこれ」
「うん。大丈夫」
「嘘だあ」
「嘘ついても意味ないだろう?」
「いや知らないけど、え、誰」
 安室が近づくと、少年がカーヴェを守るように腕を握った。カーヴェは落ち着いてと笑う。
「やあ、安室さん。どうしてここに?」
「コナン君に聞きまして。あまり体が無事ではないと」
「あー、それを言ったか」
「やっぱりダメなの? ダメならさあ、大人しくここを離れなよ」
「笠君もね」
「いや僕は遠慮するけど」
「駄目だよ。君は子供なんだから」
「うげえ」
「とにかく、二人には安全な経路で脱出してもらいますからね」
「僕はいらない」
「笠君」
「うわあ、分かったから、その子ども扱いやめて。ていうか立てるの?」
「まあまあ」
「うわ、駄目な大人」
「どういうことかな?」
「この人さっき吐血してた」
「笠君、ストップ」
「へえー」
「安室さん、目が怖い。えっと、僕なら平気」
「吐血した人間が無事なわけないですよね」
「だよねー」
「ええ……」


・・・


 カーヴェは病院に掛かることになった。マシュは付き添いである。安室は途中で消えた。何なんだアレ。
 マシュは、病院の個室ですやすや寝ているカーヴェの隣で、笠のメラックを触る。ナヒーダから連絡があった。カーヴェの無事と、マシュの知る限りの報告をする。
 何なんだよ。まじでなに?
 今生はただの中学生である。普通はあんな舞台が崩壊しかかっているところに、不法侵入しないのだ。
 カーヴェが目を開く。マシュと目が合うと、へらと笑う。うーん、駄目な大人の笑顔!
「食べたいものとかあるかい?」
 礼をしようとしてるのはわかる。なので、マシュは答えた。
「コーヒー飴、食べたい」
 あれ美味しかったなあって。


・・・


 乙女が神に願った。神は答えなかった。だから、堕落した。堕落した先で、乙女は禁忌を手にした。
 まあつまりは取り入ったのだ。
「見つけた!」

 乙女は死ぬつもりで、ニィロウの殺害を計画した。それでも、ニィロウは諦めなかった。ニィロウが生きることも、乙女が生きることも。
「手を伸ばして、はやく!」
 その手を、この罪深い手では掴めない。死ぬ。自分は死ぬのだ。乙女はニィロウに笑いかけた。殺したいほど、憎んでいたか。否、多分、救いたかった。
 神の目によって、ニィロウがズバイルシアターに選ばれたのだ。それを、乙女は知っていた。神の目が決して良いものではないことも、知った。
 助けてください。どうか、如何か。
 ニィロウさんに救いを。
「手を!」
 掴めない。

 ぱしっ。
「おねーさん、息してる?!」
「え、」
 子供だった。少年が乙女の手を掴んだ。ニィロウは反対側で驚いている。そして、さっと消えた。子供はニィロウが目に入らないらしく、必死になって乙女の手を掴んで、離さない。
「絶対に死なせないからな!」
 神など、願うだけ無駄である。
 でも、この少年は確かに今、乙女の命を、掴んでいた。


・・・


 カーヴェ宅。だっだっと走る音がした。
「カーヴェさん、無事?!」
「あ、コナン君。久しぶり」
「怪我は?!」
「もう治ったよ」
「はあああー」
「コナン君こそ犯人は?」
「捕まえた。警察にちゃんと自首してる」
「うん。いい子には、飴をあげよう」
「あ、コーヒー飴。これうまい、じゃなくて、なんで作ったんだ?」
「食べたいって言われたから?」
「誰に?」
「知り合い」
「ええ?」
「コナン君こそちゃんと休んでるかい?」
「俺はふつー」
「はいはい。休んでね」
「カーヴェさんのバクラヴァ食べたい」
「いいけど甘いよ?」
「たまに食べたくなるんだよなあ」
「まあいいや。作るね」
 たったったと家から人が出て行く。
「あ、帰ったね」
「へ? 誰かいたの?!」
「知り合いだよ」
「コーヒー飴が食べたいっていう?」
「うん。あ、沖矢さんも好きそうだよね、このコーヒー飴」
「俺が届ける! カーヴェさんはバクラヴァ作ってろよ!」
「了解。すぐ出来るからね」
「おう!」
 コナンはさっとカーヴェの家を出て、外を見た。人影はない。
「うーん」
 カーヴェの作った黒いコーヒー飴は確かに美味しいが、苦くてコーヒーの香りが強くて、カーヴェが淹れるコーヒーの味そのままだ。明け透けに言えば、人を選ぶ味だろう。
「うーん?」
 コナンは好き。たぶん沖矢こと赤井も好きな味。あと、もう一人、誰。
「いや、別にいいけどよ……」
 何となく、変なやつだなあと自分を棚に上げて思うのだった。


・・・


タイトル:劇場崩壊
ジャンル:クロスオーバー/名探偵コナン/原神
要素:事件、なんちゃってミステリー風味、不可思議、元素はある

※サクサク進めるためにほぼ会話文です。

カーヴェ…建築デザイナー。休暇として一年前から日本に来ている。草の神の目持ち。イギリス魔女の血が混じっている。全くもって聖人君子ではないが、周囲に聖人君子と勘違いされる。あまり体が丈夫ではないが、吐血ぐらいでは凹まない。目的のためなら自分を投げ捨てる悪癖は健在。
メラック…万能スマホ。元素で動いてる。カーヴェのメラックのみ謎のコアも使っている。カーヴェに対してのみ献身的。謎の挙動を許してもらえて嬉しい。

江戸川コナン…小学生。名探偵。不可思議(元素も魔力も)を無効化する。
沖矢昴…大学生。FBI。赤井秀一。カーヴェはFBIのもの。
安室透…探偵。喫茶ポアロのアルバイト店員。公安。バーボン。降谷零。カーヴェは日本人。

灰原哀…小学生。
阿笠博士…発明家。
少年探偵団…小学生。カーヴェに懐いている。

アルハイゼン…FBIの非戦闘員。草の神の目持ち。カーヴェは人間。
ナヒーダ…所属はFBI。笠っちをとても大切にしている。

ニィロウ…ズバイルシアターのメイン踊り子。今生は幼い頃に神の目を得て、劇団ズバイルシアターに入団した。プロの踊り子として強い信念を持って舞台に挑んでいる。神の目持ちとして元素を用いて戦える。カーヴェとは劇団の仕事を共にしたことがある。

旅人…双子揃っている。パイモンもいる。元素案件担当。七神の居場所を把握している。

笠っち…本名は別。マシュとよく呼ばれる。普通の中学生をしている。笠のメラックに愛着がある。ナヒーダにがっつり監視されている。神の目を持っているが、人間の少年の体に対応できていないのでほぼ戦えない。カーヴェのことは優秀なくせに駄目な大人だと思っている。甘くないコーヒー飴を食べたいと願ったのは彼である。

七神…ナヒーダはFBIと共にいる。彼女以外は現在不明。どっかにいる。マシュ争奪戦はナヒーダが勝利した。

愛の種…カーヴェの性質と魔女の血と元素が噛み合ってしまった故の幻覚、幻想、催眠。探偵、神の目持ち、魔女には効きが悪い。名探偵には一切効かない。犯罪者、心の不安定な者の深層心理に巣食った光であり、闇。寵愛の呪い。庇護の呪い。それらの牙は全て、カーヴェへと向き、蝕み、しかし巡り巡ってカーヴェの益となる。なお、カーヴェに愛の種の意図は一切ないので認識に齟齬がある。
今回の犯人の乙女の深層心理を揺さぶった原因。

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