トップはテイワットに立つ!そのいち!

「私(わたくし)にとって神は遠い」
「パルデアの大地を強く豊かにするために」
「そんな私についてきてくださった皆さんが、地方をより良くするために行動する」
「神無き大地」
「それこそが、パルデア」
「人間によって作られ、守られる」
「私の──いいえ、なんでもありません」
「仮令(たとい)この身が"結─晶"となろうとも」
「私は、パルデアの為に尽くしましょう」

──謎の女・口述・そのひとつ


トップはテイワットに立つ!そのいち!


 謎の女がいる。アルハイゼンは目を細めた。
 黒と青のスーツと手袋、革靴。全てが上等な代物だ。輝くような長く多い髪を揺らして、凛と立つ。背は高い。アルハイゼンよりは小さいが、カーヴェとは同じくらいではないだろうか。
「xxxxx」
 謎の女の言葉にアルハイゼンは眉を寄せる。聞き取れない。旅人のように、渡ってきたのかもしれない。すぐにアルハイゼンは推測する。場所はアアル村。この場にふさわしい姿とは思えなかった。
「神の目はあるか? 元素は使えるか?」
 いくつかの言語で質問すると、古モンド語でわずかに反応した。
「わたくし、は、オモダカ、かみのめ、も、げんそも、わからない」
 苦笑する謎の女に、アルハイゼンは戸惑う。それにしては、姿が堂々としている。武術を会得しているようには見えない。だが、その立ち姿はまるで……。
「アルハイゼン! 僕の方は終わったんだけど、君はどうだい? おや?」
「カーヴェ、旅人だ」
「なにが?」
「どうやら降臨者らしい」
 カーヴェは目を丸くした。

 オモダカは古モンド語を使いこなした。どうやら頭がいいらしい。そして、カーヴェの製図に興味を示した。どうやらオモダカも建築デザイナーとしての一面があるらしい。
 いくつかの肩書きがありまして。
 オモダカは、ややこしいのでまた今度と、言っていた。
 そしてオモダカの戦闘手段は魔物のような生き物の使役だった。彼女曰く、彼らはポケモンという、魔物とは違う生き物らしい。心があり、人と支え合い、共に暮らしていく。それがポケモンと人との関係性なのだ、と。なお、ポケモンは基本的にはきのみを食べるらしい。種族によっては肉や石なども食べますよとオモダカはさらりと言っていた。

 カーヴェはオモダカに親切にスメール語や現在のテイワットの共通語を教えた。たまたま仕事の区切りで、時間があったからだ。
 なお、オモダカはスメールシティのバザール近くに部屋を借りた。資金は、彼女の持っていた見たこともない宝石を売ったモラだ。オモダカはひかりのいしだと言っていた。オモダカはいくつか宝石の類を売り、まとまったモラを手にしていた。
 オモダカはバザールで様々な仕事を手伝った。特にニィロウと覚えたてのスメール語でよく話し、楽しそうにしていた。
 アルハイゼンとカーヴェはたまに様子を見に行きながら、まあ生活できてるならいいだろう、ということにした。

 それが覆ったのはバザールに賊が出た時だった。オモダカは彼女の言語でポケモン─キラフロル─に何かを指示した。宝石の花に見えるキラフロルはその攻撃で、賊の動きを止め、浮かせた岩を首元に向けていた。
「キラフロル、ご苦労様です。ええと、ニィロウさん、こういう時は?」
「マハマトラかな……でも、この人にも事情がありそう」
「なるほど。では、」
 オモダカはキラフロルから鋭い岩を手にして、ナイフのように賊の首筋に向けた。
「素直に話しなさい。私に出来ることなら、叶えてさしあげましょう」
 にっこりと、オモダカは笑った。その手に凶器を持ったまま。

 簡単に言うと、生活費が足りないというもので。オモダカは賊の少年をちらりと見た。どうやら働かない酒飲みの親に賊をさせられているらしい。
「アルハイゼンさん、カーヴェさん、養子縁組はどうすれば?」
「は?」
「まさかその子を引き取るつもりかい?!」
「私は大変、頭が痛いながら、モラがあります。あと、そろそろ仕事の手が足りなくなってきたんです。勉強の機会もきちんと与えましょう。さあ、貴方の名前は?」
「名前なんて、無い」
「そうですか。ではアンズです」
「は?」
「私はオモダカ。貴方はオモダカ=アンズ。よろしいですね?」
「ちょっと、なんでぼくを?!」
「手が足りないだけです。まあ、あとは」
 オモダカは凶器を放り投げてキラフロルにキャッチさせると、少年に手を差し伸べた。
「貴方はこのスメールの宝でしょう?」
 ぽかんと、少年はオモダカを見上げ、やがて恐る恐る、オモダカの手を取った。交渉成立だ。

 オモダカがアンズを引き取るための手続きはアルハイゼンとカーヴェが手伝った。セノとティナリも巻き込み、ナヒーダにも話が行った。
 謁見したオモダカとアンズに、ナヒーダはスメールの民としての資格を与えた。そして、アンズは水の神の目を持っていた。ただ、その使い方は分かっていなかったが。
 オモダカには、ぱっと見は神の目が与えられていないようだった。だが、ナヒーダは男性たちを後ろに向かせた。オモダカはありがたいですと衣服を脱ぐ。スラックスを脱いだ、その腰骨辺りに、いくつかの小さな岩の神の目が、ばらばらと散っていた。
「結晶化でしょう」
 オモダカは服を着て、言う。
「パルデアの大地にはそういう現象がありましたから」
「オモダカ母さん!」
「大丈夫ですよ、アンズ。さて、この神の目とやらの使い方はどうしたら学べますか」
「使い方は人それぞれなの……ごめんなさいね」
「なるほど。バトルと同じですね」
 自ら導き出すもの。アンズと視線を合わせて、オモダカは言った。
「一緒に学びましょう」
「う、うん。母さん」
 アンズは不安そうにオモダカに言った。

 アンズを迎え、カーヴェに言葉を学び、バザールの皆からスメールの生活を学ぶ。アンズはすぐに慣れ、オモダカもスーツ姿でせっせと働いた。どうやらスーツの替えはいくつか持っていたらしい。カバンひとつ持ってるように見えないが、彼女はどこからか様々な荷物を出す。
 一方、アンズは小さなカバンにメモと筆記具を入れただけの身軽な格好で、御用聞きに回って、仕事を見つけ出していた。

「オモダカさんはどんな仕事をしてたの?」

 ニィロウが聞く。シアターの装置について、オモダカは意見を求められていた。的確な指摘と、奇想天外な発想に、ニィロウはオモダカを信頼していた。
「主なところだと、建築デザイナー、理事長、トップ、でしょうか?」
「トップって?」
「トップチャンピオンです。こちらではありえない職かもしれませんね」
「それってどんなことをするの?」
「パルデアの大地を強くするのです」
「へ?」
「ええと、パルデアの宝を見つけ出し、的確に配置して、より強い国にする。それが私の仕事です」
 それって、とニィロウは目を丸くした。
「オモダカさんは神様なの?!」
「いいえ」
 オモダカはすぐに否定する。聞き耳を立てていた市井の人々は目を丸くした。彼らはオモダカと関わることで、彼女がたっといひとだと分かっていた。
「私は人間です。パルデアは神のいない国。人がつくる国。それこそが、私の宝、パルデアです」
 素敵でしょう。笑うオモダカに、ニィロウはパッと花のように笑う。
「それって、とてもすてきだね!」
 では仕事に戻りましょうかと、オモダカはシアターの裏方たちと話し始めた。

 アンズが水元素を扱い慣れてきた頃。オモダカはまだポケモンバトル以外は行わなかった。しかし目処はついてるんですと、彼女は楽しそうにミートロールを食べる。
「それってどういう用途なんだい?」
 カーヴェの質問に、オモダカはそうですね、と笑う。
「そのうちポケモンバトルで見れます」
「それは?」
 この大地に、結─晶はない。だが、岩の神の目を持ったオモダカならば結─晶を創り出せる、と。
「テラスタルというんです」
 とても綺麗ですよ、と。

 それは唐突だった。アンズが元の親に捕まった。親は神の目をアンズから取り上げて、彼を弱らせる。さて、とオモダカは立つ。
「キラフロル、輝きなさい──テラスタル」
 強烈な光。輝きが全てを等しく照らし、まるで光の平等の名の元のように、キラフロルが、宝石のように煌めいていた。
「テラバースト!」
 オモダカは容赦なんて一つもなく、アンズの親を昏倒させた。

 マハマトラが立ち入り、アンズに神の目が返される。アンズはすぐにオモダカに抱きついた。
「母さん、ぼく、ぼくっ!」
「大丈夫。貴方はこのスメールの宝です。この程度で貴方の輝きは曇りません」
 ね、とオモダカは視線を合わせる。アンズは頷いて、涙を手で拭ったのだった。

 そして、それを見たのが旅人の蛍たちだった。
「ねえ、パイモン、あれって」
「元素だけじゃないぞ。オイラ、見た事もない!」
「行こう。あの人は何か知ってるかもしれない」
 旅人たちがオモダカと出会うまで、あと……。

 ナヒーダは思う。オモダカは確かに、神、だ。
「役割ロールにおいて、彼女は他世界の神に等しいわ」
「それでどうするつもりだい」
「危険なの、とても。笠っち、いいわね」
「その呼び方、やめろって言ったよな」
「あらそう? 兎に角、知恵を集めないと。忙しくなるわ。彼女の住まう世界は、もしかしたら」
「あまり難しい話とは思えないけど?」
「オモダカに神の意識がない。それはね、世界法則を乱すことになるの」
「異分子、というだけじゃないと?」
「旅人でもない。オモダカのあれは、この世界にとって、強すぎる。何故なら、」
「何故なら?」
「……彼女は他にもポケモンというものを連れている。ポケモンはあるはずのない元素まで扱う、自然の象徴だとわたくしは見ている」
「それが、複数体、と」
「そういうことをそれら全てをオモダカは的確に使役する。一人で、彼女は、」
「オモダカは神のロールを持つとして、それならポケモンとやらも神に思えるんだけれど」
「そうなの。彼女は、危険よ」



・・・

おまけ

オモダカ
・アンズという少年を拾った。
・自称人間。※ポケモン世界の"人間"の意味です。
・「パルデアにおいて、神は遠いものです。他の地方では存在していると聞いていましたが」
・岩の神の目でポケモンをテラスタルできる。

アンズ
・モノクロの髪の少年。長い髪を束ねている。
・オモダカ曰く「スメールの宝」らしい。
・水の神の目。親に脅しの材料にされていた。

アルハイゼン
・オモダカを見つけちゃった書記官。
・オモダカに特に興味がない。

カーヴェ
・オモダカに親切にしている建築デザイナー。
・オモダカのセンスは面白いと興味津々。

ニィロウ
・オモダカに懐いている。
・「やっぱりオモダカさんは神様だと思うんだけどなあ?」

ナヒーダ
・オモダカを危険視している。

笠っち
・「おい名前」「あらあら可愛らしいわよ」
・オモダカを面白そうだなと見ている。

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