極楽鳥の楽園本丸02/pixiv1400フォロワーお礼リクエスト企画作品になります。カーヴェ大好きマン様リクエストありがとうございました!


 勉強会と夜の会話当番。カーヴェは戦争というものに疲弊しながらも、毎日を過ごしていた。救われない命がある。カーヴェとて、全てを救うのが無理であり、過去を変えられないし、過去を変えてはならないことはわかる。だが、それにしたって、もう少し他の手はなかったのか。
「きぃくんっ」
「すまない」
「手入れするよ。小夜、他の皆に怪我は?」
「鯰尾さんです」
「じゃあふたりだ。さあ、おいで」
 カーヴェは覚えたての日本語で何とかコミュニケーションを取りながら、怪我をして帰ってくる刀剣男士たちに気を揉んでいた。
 手入れは自動化されている。カーヴェは息を吐いて、襖を見つめた。手入れ中、である。
「あんまり根を詰めるとよくないよ」
「あ、髭切……」
 髭切は守られちゃったと苦笑し、カーヴェの隣に立った。
「時間はあと一刻かあ」
「うん。そうだね」
「獅子王兄さんが茶を淹れたよ。飲んでおいで」
「でも、」
「この怪我は僕らの力不足だよ。主たる審神者が全てを背負う必要はない、ね?」
「わかっ、た」
「獅子王の部屋に何振りか集まってるから、行っておいで」
「うん。髭切、きぃくんをよろしく」
「任せて」
 そうして、カーヴェはたったと歩いて行く。

 残った髭切は声をかけた。
「山姥切国広。主を困らせちゃいけないよ」
 襖の向こうは静かなまま。

 獅子王の部屋には加州と乱もいた。
「あ、主! 茶が入ってるぜ」
「あるじさんっ見てみて! 加州さんが新しい爪紅買ったんだよ!」
「給金で買ったんだ」
「へえ、いい色だね」
 カーヴェは加州の爪をよく見る。うまいこと塗れていて、すごいなと感心した。
「ほら、お茶な」
「ありがとう。緑茶は少し苦いね」
「砂糖入れるか?」
「ううん。大丈夫。ところで、そろそろ鍛刀で刀を増やすのはどうだろう? 勉強は進んでる?」
「俺なら先生役できるぜ。加州と乱はまだかな」
「髭切は?」
「苦手そうだな」
「そうか。じゃあ獅子王にお願いしようかな。小夜には近侍してもらいたいし」
「愛染は?」
「近侍補佐かな」
「いいんじゃないか?」
 それじゃあとカーヴェは茶を飲む。
「これを飲み終わったら、小夜と鍛刀してくるよ」
「山姥切は?」
「彼は怪我をしすぎているかな」
「うーん確かにな」
「俺もそう思う! 打刀は、他を守る役目があるけど、でも、変だよ」
「ボクも思うかな。山姥切さん、どうしたんだろう?」
 不思議そうな加州と乱、そして獅子王に、カーヴェはやはり様子がおかしいなと再確認した。

 小夜は近侍部屋で仕事をしていた。カーヴェが呼ぶと、小夜はてきぱきと鍛刀に付き合ってくれた。
「ええと、二十分だから、短刀かな」
「二枠とも、だね」
「子どもの姿で戦うのは、僕の気が保たないな」
「僕らは刀剣男士、だから」
「うん。物の怪、かみさま、付喪神。教えられたけれどピンと来ないな」
「そう?」
「僕からしてみれば、皆が幼い子どもに見えるよ」
 さて、おやつでも作ろうか。カーヴェは小夜と台所に向かった。

 スメールで慣れているキッチンによく似ている。改築はいつでもどうぞと、こんのすけは言っていた。刀剣男士用に、彼らが使いやすいキッチンと二つにした。
 おやつにバクラヴァを作って、鍛刀が終わるまで、小夜と卓を囲む。愛染もやって来て、近侍補佐の話をすると、任せてくれと胸を張っていた。

 そうしてやって来たのは薬研藤四郎と秋田藤四郎だった。
「ううっ小さい……」
「大将、俺たちは刀剣男士だぜ」
「戦えますよ!」
「すまない、まだ慣れないんだ。怪我をしたらすぐに帰ってくるんだよ」
 薬研と秋田は仕方ないなあと笑っていた。

 夕飯に魚の塩焼きや、野菜のスープ、果物のサラダを作る。たっぷり作って、膳に並べていく。刀が増えると机を囲むのも難しい。結局、一膳ずつにした方が効率的になるだろう。カーヴェはなんかちょっと同居人を思い出してしまった。
「主は料理上手ですよね!」
 鯰尾が楽しそうに言う。馬当番の後、風呂を出て来た彼の髪はやや濡れていた。
「きちんと髪を乾かしなよ」
「はあい。ふふ、主は優しいし、料理上手だし、いい奥さんになれるね」
「僕は男だよ」
「知ってまーす。でも、俺なら主みたいなの、家から出したくないなあ」
「事実、本丸にばかりいるけど?」
「ふふっそうですね!」
 鯰尾は楽しそうにしていた。何か彼なりに思うところがあるのだろうか。二人きりだと、特に彼は口調が砕ける。
「主、帰らないでくださいね」
「え?」
 うまく聞き取れなくて、聞き返す。鯰尾は何もと笑って、手伝いますよとエプロンを手にした。

 夕飯の後、カーヴェは執務室で日記を書いた。こちらに来てからの記録を取ることにしたのだ。スメール語でテキパキと書いていると、山姥切がやって来た。
「主、手入れが終わった」
「うん。お疲れ様。あんまり怪我すると出陣の仕方を考えるよ」
「それは困る。俺は戦場に出たい」
「それなら無茶をしないで。いいかい?」
「ああ」
 あと、と山姥切はそっとカーヴェの隣に座ると、するりとカーヴェの神の目を撫でた。思わず体を硬直させると、山姥切は言った。
「これは何だ」
「神の目、だよ」
「ずっと身につけてるだろう。服を変えても、何をしても。ずっと」
「きぃくん?」
 俺たちは、と山姥切国広は言う。
「俺たちは付喪神だ。物なんだ」
「う、うん?」
「正直、この物に嫉妬する」
 山姥切はそう言って、カーヴェの顔を覗き込んだ。
「これはどれだけ大切なんだ」
「……神の目は、外付けの元素機関だよ。そして、原神の願いのカタチだ。原神である僕らは、神の目を奪われると、願いを忘れる。生きる意味を、失う」
「それは、呪いか」
「神に見つめられた、祝福だよ、きぃくん」
 理解できない。山姥切の答えに、カーヴェはそのうち分かるさと笑うしかなかった。

 その日の夜の会話当番は薬研だった。
 縁側で待っていると、よっと薬研がやって来た。
「大将は日本語を習い始めたばかりだってな?」
「うん。そういうことだよ」
「おお、スムーズに会話できる。大将の声は柔らかいな」
「そうかい? 薬研は低いね。声変わりしたのかな」
「人間と刀剣男士は違うぜ、大将」
「そうだったね。薬研、あなたは何か僕に伝えておきたいことはあるかい?」
 俺は、と薬研は言った。
「最期まで、いや、最期のその後も大将に着いていけるような刀になりたい」
「最期まで?」
「刀ってのは自刃にも使われる。刀剣男士は地獄には行けない。なあ、大将。俺っちは」
「残念だけれど」
 カーヴェは苦笑した。薬研がぽかんとする。
「僕は原神だからね。この肉体と精神の死は即ち、"神"の元へ連れていかれる」
「既に、囚われてたか」
「囚われてるとは違うな。神に目をつけられてる。僕は、僕の理想が壊れた瞬間に、神の目を得た。それはね、つまり、もう手遅れなんだ」
 輪廻から外れた。解脱者。
「僕はこの世界に骨を埋められないと思うよ」
 そうだろう、きっと。カーヴェの主張に、薬研は全くと苦笑した。
「厄介な大将だな」
「嫌かな」
「全く。むしろ、頑張ろうと思うぜ」
 俺っちが、大将を人の道から外れないようにする。薬研の宣言に、カーヴェは、よろしく頼むよと笑った。


・・・


極楽鳥の楽園本丸

初期刀:山姥切国広(きぃくん)
初鍛刀:小夜左文字

短刀:愛染(初)/乱/薬研/秋田
脇差:鯰尾(初)
打刀:加州(初)
太刀:獅子王(初)/髭切(獅子王を獅子王兄さま呼び)
大太刀:
槍:
薙刀:
剣:

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